episode11 それは世界の為

「状況は?」

「誘導に成功、進捗率は八十パーセントってところだな」

「そう了解」

「そっちの方はどうだ」

居るし、今のところ問題ないわ」

「二人?予定では橋本一人ではなかったか」

「それが彼女も志願したのよ」

「彼女って誰だ」

「あんた知らなかったっけ友美ちゃんのこと」

「友美?誰だそれ」

「ほらっ!足立友美」

「あぁ〜〜駿の妹か。名前だけ言われても妹とは面識もないのだから分かるわけないだろ!……んっ、彼とは接点がない筈だがどうして参加を?」

「さぁ~はぐらかしてはいたけど私の勘によれば、十中八九間違いないと思う。彼女逢ってみたそうにしてわよ物語の主人公って存在に」

「主人公か、僕らが祭り上げたようなものだよ子供に希望を託すしかないなんて愚かな大人だ」


 ここで対話する片方は、寂しそうに自責の念に駆られるが如く吐き捨てる。

 不甲斐ない大人は年端のいかぬ少年に頼るしかない。それがどんなに辛いか彼の周りに居る誰もが抱く思いだろう。


「そうね。でも違うわよ」

「違う?」

「だって彼が最初に言い出したことよ」


 “世界を救う、のために。”

 “なにバカ言ってんのよ   ”

 “だって僕は主人公だ。主人公ヒーローに二言はない”

 “主人公って何言い出して”

 “元気出たみたいだな”

 “なんだただの冗談か、もぉびっくりさせないでよ”

 “冗談じゃない、僕はもう誰も悲しませない”


 戦争という舞台の上で、非日常を生きる彼らのとある日のやり取りを盗み聞きした誰かが流布し何時からか人々が縋る希望へと転じた。

 その者の名は……。


「取り敢えず、準備はほぼ整え終えた。あとは天に願うばかりさ」

「悪い癖ですよそれ。神様なんていやしないんだから。運命は人の手でもぎ取るものって相場は決まっています」

「あら聞いてたの友美ちゃん」

「オープンチャンネルで話せば皆に聞こえるのは当然でしょ!」

「えっ!?ウソ…………本当だごめん」

「別に構いはしませんよ霜山さん。けど嘘はいけません」

「嘘なんか私ついたっけ」

「彼のこと何で隠してたんですか」


 以前彼のことを尋ねられた時話を逸らした事実を思い出す。


「ごめんなさいね。ついね……」


 それは戦いが始まる前に交わされたとあるやり取りだった。


※※※


「ここから道が二つに分かれるなんて如何にもな光景ね」


 悪魔の襲撃に出会すこともなく、中枢に潜入を果たした三人は止まることを知らず進み続ければ目の前には三人を分断するが如く構えた扉が二つの門現れた。


「敵の意図が分からない……」


 僕らがここまで来るのになんの苦難も負うことなく、招かれたとなれば敵は何を考えているのか検討もつかない。

 困惑が続けば時間ロスになりかねない。

 これまで頑なに姿を見せなかったヒノミが、パッと僕の前に出現する。


「二手に分かれましょう、なにヤマトには私が付きますから安心して下さい」

「まぁそれが妥当ねじゃ彼のこと任せるわね」


 敵の思う壺で行動しているとしか言えない状態に悪い方向にばかり考えが過る僕にヒノミが話しかける。


「大丈夫ですか?」

「本当にこの選択で良いのか不安に思う。正直に言えば大丈夫じゃないかな」

「一つアドバイスです。貴方は彼女に信頼されています」

「彼女に信頼ってどういうことだよヒノミ」

「小耳に挟んだのですが、足立友美はこの作戦に参加する条件として君の登用を求めたそうよ。上は未知の存在である私と君を排除しようとしたのに、足立は反抗した。それがなにより信頼の証、縁を結ぶそれも主人公足る由縁ねきっと」


 彼女の知らない一面がヒノミの口から語られた。でも黙って僕の中に隠れていた彼女はどのタイミングでその情報を知る機会を得たのだろうかとふと思ってしまう。


「ヒノミどうした急に?」


 今までと何かが違う。

 言葉に隠れるようにトゲが目立つ。それも僕に気づかせるようにわざと。

 意図的に言葉を選んでる癖が見受けられる。だけどそれが何か僕には分からない。


「やぁ~待っていたよ大空ヤマト」

「あんた誰だ」


 話しに夢中になっていた僕はいつの間にか大部屋に足を踏み入れていた。

 一本道を抜けた先。

  巨大な装置が設置されその前に立ち塞がる男に注目する。意気揚々と男は僕らを拍手喝采で歓迎した。


「誰って心外だよ。ワタシを探しに来たのは君たちの方のはずでは紹介させて頂こう。神村誠、神に背く使それがワタシです」


 孤独の宣言。

 巨大な装置が動き出し、装置に備え付けられている目算で縦十メートルはありそうなホイールが回転を始めるとその中では時空の裂け目が生まれる。

 裂け目の先はドス黒い闇の世界。

 僕の瞳にはその光景が恐ろしいだけの筈。なのにどこか懐かしいそんな感情が芽生える。

 束の間裂け目の向こう側から龍の頭部が出現した。


「ヤマト、意識しろ。あれは強敵だ」

「さぁ~君の実力を確かめてもらおうか!」

厄災龍王テンペスト


 僕はヤツを知っている。

 不思議だった。これまで遭遇した悪魔はどれもゲームに出たキャラと似通っていて、神村誠はどんな意図を持って、ゲーム「ワールドエンドウォー」を世に出したのか。皆目見当もつかない。

 だが断じて言える。厄災龍王はあのゲームには登場しない。

 なら僕はどこでアレを見た。

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