episode09 先代接続者

「黒鉄総隊長見えました」


 ヘリコプターを操縦するパイロットが後方にアナウンスし緊張感は高まる。

 山岳地帯。連なる山々。

 自然に覆われた大地が窓の外には広がっていた。しかしこの地域には似つかわしくない景色があった。

 自然豊かな大地に突如現れた人工物の周囲をヘリコプターは周回し目的地へ降下する場所の索敵に入る。

 

「ちっ、しっかり掴まっていて下さい」


 穏やかだったパイロットの声が急変。

 機体が大きく揺れる。

 すれすれを光弾が駆け巡った。

 ギリギリセーフ。だが今のは一体……。

 光弾が飛んできた方角つまりは直下を目視すればさっきまでと景色が一変していた。

 先程人工物の周りには木々が所狭しに生えていたが周りの自然は消滅し代わりに化け物が群れを成す。

 獲物ヒトを狙う研ぎ澄まされた闘気が熱気を帯び僕らが降りてくるのを待ち望んでいるようだ。

 きっと僕だけじゃない筈だ。

 パイロットの慌てよう。そして隣の足立らの表情は若干陰りをみせ「やはり自分らを誘き出す罠だった」とネガティブな感情を抱いたことに違いない。

 光弾の槍は止めどなく空へと放たれる。

 攻撃を避けきれず隣を飛行するヘリコプターに直撃。大破する光景が映り込む。

 このままでは。

 何も出来ないまま終わってしまう。 


「皆作戦通りやるぞ。なぁ〜に大船に乗った気で飛び込め」


 冷静な声で仲間を鼓舞する黒鉄。

 彼はこの状況に全く動じていなかった。

 扉が開く。

 突風を全身に浴びる。髪が靡く。

 「先に行く」。その言葉を皮切りに黒鉄は真っ先に飛び降りていき誰よりも早く彼は征く。

 パラシュートも無しに滅茶苦茶過ぎる。

 頭から真っ逆さま。重力に逆らわずごく自然に落ちていく姿は様になっていた。

 そして黒鉄の傍らには刀があった。

 標的は目下。光弾を放つ悪魔ウォンデッド

 首長竜トーチ

 恐竜ブラキオサウルスに似た体格を持つも唯一異なるデカっ鼻の穴から放たれる光弾が強烈なことで知られ、多種多様な悪魔の存在を確認している特務機関の間でも遠距離攻撃を得意とする奴は要警戒対象として認定されている。

 ただ大空ヤマトにとっては別の認識を持つ。

 悪魔の知識を知るきっかけとなったゲーム「ワールドエンドウォー」では、第一ステージのボスキャラとして登場。

 近距離武器しか持たぬ初期装備では抗えぬ敵だ。特に刀で挑むなど問答無用で即死まっしぐら。

 遠距離から放たれる光弾を回避することに専念すれば近寄れず果敢に特攻したとしても首長竜の弱点は背中に飛び出た大きなコブのみ。それ以外の皮膚は鋼鉄のように硬く生半可な刃は通さない。

 故に無謀。

 悪魔の大軍の中心。群れを成す組織の中に一際巨大なそれは君臨していた。

 なのに黒鉄は落ちる。目的へと向かい。

 危険だと忠告すべく咄嗟に身を乗り出し叫びそうになるが……。

 杞憂に終わった。


「凄すぎだろあれ…」


 急転直下。己めがけて落ちてくる格好の獲物を前に首長竜は光弾を放った。

 遠く距離を取っていた上空のヘリコプターへの攻撃は紙一重で避けきれたが、おそらく近づいた黒鉄は直撃してしまう筈。

 けれど現実は違った。

 目を疑う。

 回避不可能な空中世界。光弾を斬った。

 真っ二つに切断された光はその場で爆発し爆風は大気を揺らすヘリコプターは煽られ制御が不安定になる。けれど視線は外れない。

 僕は黒鉄を視ていた。

 放たれる幾度の光弾を斬り裂き首長竜の頭上を奪った。そして頭部から地面へとデカイ図体を切断してみせる。

 だがそれだけでは終わらない。

 黒鉄が落ちたのは有象無象の悪魔の中心。

 大地を覆い尽くさんとする悪魔の群れを前に単独降下した黒鉄は孤独な戦いを強いられる。

 ただ……。上空からは豆粒にしか見えぬ景色の中動く物体明らかに減少していく光景が時間が経つにつれ広がっていく。

 それはつまり。

 

「足立さん彼は一体?」

「あれ言ってなかったっけ。黒鉄鋼。あの人は私の師匠。で、槍斧ハルバード先代接続者コネクターよ」

「しかも歴代最高の接続者の異名を有する最強の戦士というお墨付き。彼に師事を受けた足立ちゃんが強いのも頷けるわ」

「聞こえるか、この辺りはだいたい片付いた。降下してくれて大丈夫だ」


 頼りになる音声が届く。

 あれから時間は十分も経ってない。

 一部地域を制圧してみせた黒鉄。彼の力は底知れぬ未知数さがあった。

 各自降下体制に移行。ヘリコプターは移動を開始する。大地に降り立った僕らの前には返り血を浴びながら平気な顔で寄り添う黒鉄が待っていた。

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