episode08 少年起つ
続々と巣窟攻略作戦の時間は迫る。
今回の作戦の為、各地より召集された精鋭隊員編成による特殊部隊がヘリが何台も用意され決戦へと赴く
「ほらね彼は参加するって言ったでしょ」
作戦開始時間ギリギリ慌ただしく動く周囲の中を掻き分け彼が来る。
中央で彼が自らの足でこの場に現れることをを待ち望んでいた足立は橋本に自慢げに語った。
「そうだねぇ~足立ちゃん。でもさぁ皆分かってたことだよ」
いつもの穏やかな声で諭すように橋本が指摘するもそれでも足立は我が物顔で自慢気な表情を崩そうとはしなかった。
そんな彼女を見て、橋本は溜め息混じりに諦めの眼を浮かべるに留まった。
「霜山さん柚子のこと頼みます」
「任っかせなさい。責任を持って保護します」
待機組であり、特殊部隊を後方から支援する長として残る霜山に依頼する。
先日霜山から足立らに告げられた任務。
彼女はその危険な任務に僕も志願しないかと誘いを受けた。
正直困惑した。こんな僕が名乗り出ても良いのかと……。
でも腹を括った。
一度だけ。本当に一度だけ。
僕は自分に与えられた力を行使する決意を固めた。
そして誘導されたヘリに乗り込む。
「待ってたわ」
「本当?」
「ほんとほんと足立ちゃんなんて、今日の朝からソワソワしてたわよ。もしかしたら大空君来ないんじゃないかって心配してたぐらい」
「それは言わない約束!」
喧嘩する二人のしょうもない会話にこれから死地へと向かう緊張感が解れクスッと笑いが込み上げる。
でも確かに僕は戦いに赴くんだ。
「準備は出来た出発だ」
黒鉄の号令が部隊全体に轟く。
僕に続き同じヘリに乗り込んだ謎の男、黒鉄が各部隊長からの報告を順次聞き入れ無線を飛ばす。
機体が浮き上がる。
全てのヘリが離陸し目的地へと飛び立つ。
「少年よく参加を決意してくれた。自己紹介がまだだったな私はこの特殊部隊を指揮する黒鉄だ。短い期間だが宜しく頼む」
歓迎ムード全開で迎える男は、僕と目が合うなり辺りをキョロキョロ見渡す。一体何事かと思えば、答えは意外と単純だった。
「ヒノミはどうした?」
「英気を養うとかで、今は僕の中です」
「そうか折角なら一言挨拶しとこうと思ったがまぁいい。でだ少年作戦の内容は頭に叩き込んでるか?」
「申し訳ありませんが全然です」
「だろうな。よししっかり聞いてくれ」
そもそも悪魔とは何者なのか未だ解明はされてないらしい。ただ異世界から次元の裂け目を通って人類を襲うため来訪する。
今回の作戦の目的は巣窟に潜伏していると思われる男神村誠の確保。
実は僕らが知らないだけで、悪魔は何度も次元の裂け目を抜け日本へ来ていたらしい。
特務は秘密裏にこれを討伐。隠蔽工作をして存在を国民に隠し続けた。
悪魔は個々で動く生命体として認知され集団で動きはしないとされていた。
なのに悪魔を使役し人類に仇なす存在が現れる。
その者こそ神村誠。
彼がどういった目的、思想を持ち動くのか理由は掴めぬ。加え化け物を使役する術。
特務にしてみれば分からないことだらけらしい。
だからこそ彼を捕らえ聞き出すことが必須とのことだ。
「ならその神村誠を捕らえるだけでいいんですね?」
「そう言えば簡単そうに思えるけど、正直何が待ち構えいるか分からない魔の危険地帯。気を抜いちゃ駄目。今回参加した
これまで調べても場所を特定出来なかった巣窟が突然発見された。この奇跡を当然怪しむ者もいる。
特務機関の上層部は罠の可能性を考慮した。故に全戦力を注ぎ敵を討つという作戦の実行を容認せず本来加わって欲しかった残り五人の接続者の参加は見送られた。
上層部の言い分も正しい。
だが万全の体制であたれないのは痛手だ。
流石の足立も一抹の不安を覚えてしまう。
「不足した戦力を補う為の私だ。安心しろ」
不安を抱く足立を黒鉄が励ますように対面する椅子から立ち上がり頭を撫でる姿が僕の目に入った。
ただならぬ雰囲気を醸し出す黒鉄とは一体何者なのだろうか。接続者ではないのは確かなはず。
なにせ僕を除いて接続者は七人。
内の二人足立さんと橋本さんは戦いに参加し残り五人が不参加。であればもしも黒鉄が接続者であれば数が合わなくなるのは道理。
戦いに臨む者らは全員銃火器を所持していたのに彼は何も持っていない丸腰だ。
素性のはっきりしない彼に僕は全幅の信頼を置けなかった。
たとえ足立さんらに信頼されていたとしても。
出逢った時の気掛かりなあの言葉。
それにヒノミの黒鉄への異様な警戒心。
彼女はどうやら顔を合わせたくないらしく僕の中で作戦開始まで寝ると言い残し引っ込んでしまった。
初っ端から出鼻を挫かれた気分なのは僕だけだと助かるが皆は内心どう思ってるのだろうと思考を巡らす。
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