episode07 夜明け前の星空
夜。
僕はここ数日起きた奇想天外の出来事を振り返るように天空に光り輝く星空を眺める。
森林空間に取り残され場違いに建造された特務機関基地から見上げる
これまで場所の隠匿の為、基地の外に出るのを禁じられていたが何故か今日僕だけ外に出ることを許された。
理由は不明。いや本当は頭では解ってる。
きっと気分転換をして欲しいのだろう。
柚子の誕生日プレゼントを買う為出掛けた筈なのに、摩訶不思議な化け物に命を狙われる始末。
その次は自身がプレイするゲームのキャラが現れ僕に憑依し戦う。
理解が及ばぬうちに今度は何者なんだと自衛隊員に拘束され勝手にこの施設まで運ばれ軟禁状態が続く。
「なにこれ僕が何かしたっけ?」
などと今に至るまでに何度思ったことか。
疑問が湧き続ける三日間を過ごし、この非日常を振り返っていた。
「ヤマト、元気なさそうですね」
「そりゃここ数日を振り返れば少しは落ち込みたくなるってもんだよ」
「そうですか。その内慣れます」
「慣れるって僕は霜山さんから帰る許可が降りれば速攻柚子と家に戻る。こんな世界関わるつもりはない」
「それが正しい判断です。ですがそうもいかない事態なのです」
「はっ!?どうして僕はただの一般人。ただの観客の一人に過ぎない存在だ」
自分の考え思いの丈を告白した。
この三日間ヒノミと共に足立に稽古をつけてもらって改めて現状を理解する。
どうしてヒノミが僕にここまで関わろうとするのか未だに打ち明けて貰えないがそれでも僕はずっとはここには居られない。
それだけは非日常体験を通じて抱いた。
なのにヒノミの僕の心を覗く瞳は輝きで満ちている。
まるでそこに希望があるかのように。
「そこまで言うのであれば仕方ありません。貴方に逃げ道がない理由の一つを開示します。敵の目的は貴方。渦中の中心に貴方は立っているのです」
自身を誇るとは言葉選びを間違えているようにも思えるが、確かに僕はただの一般人に過ぎず物語や逸話に登場するような正義感溢れ選ばれし力を与えられる人間ではない。
なのに僕が騒動の中心にいるとは、意味が分からない到底理解すら出来なかった。
「今はまだその時ではない。だから詳しい理由は伝えられないのですが、私を信じてヤマト」
「でも……」
困惑する僕の手をそっとヒノミが優しく握る。その温もりを僕は識っている。
でもどこで?
思い出そうとすれば、靄が覆ったように記憶にノイズが生じ頭がズキッと痛くなった。
「では一つ助言を」
離れた指先は、真っ直ぐ一点を指す。
指し示す先は僕の胸。正確に申すのなら胸部ではなく血液を身体全体へと巡らす中枢にして、人にとって生きるために必要不可欠な部位心臓に位置する箇所だった。
「心の赴くままに生きて下さい」
「心の赴くままに……」
復唱し悩んでいた問題にようやく答えが出た。
彼女を信じよう。
気持ちを切り替えた僕は地元では決して見ることが出来ない星空を堪能しこの日の景色を忘れまいと心に深く刻み込んだ。
僕が自室へと帰っていった後ヒノミは独りその場に残る。
「
「起きていたのですか霜山。何度も言うようですが」
「私は接続兵器ではないよね。ごめんなさいね。でもこれから決戦だし落ち落ち眠れなくってね」
「そうでしたか」
時刻は深夜三時を回り人の気配はこの場の二人を除けば全くしない。見張りの者も一応基地周辺に交代制で配備されているが、この時だけは周りにも一人として居なかった。
「私に話でも?」
「えぇとても大事な話よ」
「どれくらいかしら」
「この世界の根幹に関わるレベルです」
密やかに誰にも聞こえない静かな会話が黙々と交わされる。
「では上が私に連絡をしなかったのは」
「霜山、貴女の考え通りです。世界の齟齬をなるべく大きくしない為、敢えて上は連絡をしなかった」
「成る程。その目的はやはり」
「敵を完全に屠るそれに尽きます」
二人の間で交わされたやり取りは秘匿されるべき事柄。誰にも知られてはならぬ。
特に彼には。
ヒノミ、霜山。両者にとってそれは何事よりも優先すべき事項として共通認識だった。
「お互い頑張りましょう」
「馴れ合うつもりはありません」
「あら残念っ」
握手を求めるも断れてしまった霜山は悔しそうに空振った手を宙へと向け拳を握り締める。
決意を胸に。
この地に集った者たち。
それぞれが各々想いを宿し夜が明ける。
戦いの日が始まる夜明け。
いつもと同じ青空が戦士達を出迎えた。
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