episode06 主人公足りえるか?
特務機関の施設を訪れて三日が過ぎた。
僕の日常では決して訪れなかった非日常体験をこの三日間過ごしている。
しかも奇妙な噂を耳にした。
というかよく影で囁かれてる気がする…。
あの足立友美に負けず劣らずの少年が現れたとの噂を…。
敵が送り込んだスパイではと少年の存在を怪しむ者。万年人員不足のこの部隊に現れた新たな希望に喜ぶ者。様々な眼が少年に向けられていることまでは彼は知らなかった。
常人には見えぬ速度。
激突。衝突。剣戟が舞い散る火花は二人の周囲を熱くし、輝きは幾百と止まることなく繰り広げられていく。
身体が燃える。
もっと速く。強く。一撃を込めろ。
「“一閃”」
磨いた技。この三日で仕上げた唯一の奥義を自分の身体で放つ。
魔気を剣に乗せ刃として圧縮破壊力抜群の一撃となる技「一閃」を披露するが、槍斧の先端部の矛先を突きだし相殺する。
渾身の一撃も強者には届かない。
力を出し尽くした僕は彼女の追撃に対応することは叶わなかった。
「まだまだ無駄な動きが多すぎ」
「今のは上手くいくと思ったんだけなぁ~」
「全然だ予備動作が大き過ぎたからこそ、今のも足立に見切られ対処されたようなものだ。反省しなさい」
両者に挟まれキツい言葉を突き付けられ、僕は身体が縮こまり反論することを許してくれなかった。
変身を解いたヒノミと攻撃を防がれ打ちのめした張本人が揃って詰め寄ってくる。
この地獄を僕は望んでないんだけね。
「ねぇ~私帰っていい?」
今日も欠伸をしながら見物する一人の少女は退屈そうに眺めながら中央に立つ足立に問う。
「てかさぁ岬ねぇちゃん、そろそろおにぃと私おウチに帰してくれるって話は出ないの?」
「おぉそう慌てなさんな柚子ちゃんもうちょっとだってば。それに柚子を私離したくないよぉ~」
観客としてやって来ていた柚子の頭を橋本が優しく撫でてあげる。まるで妹が出来たみたいな可愛がりぶりに兄としては少々妬けてしまうのは内密に……。
「その件なら、漸く答えられるわ」
いつから話を聞いていたのか、扉が開きいつもの白衣姿を着込んだ霜山が入室。
橋本の代わりに柚子の質問に答えてくれた。
「本当ですか?」
「えぇ、でもその前に足立友美特務隊員ならびに橋本岬特務隊員、貴女方に任務を言い渡します」
足立も橋本も垂直立ちし傾聴する構えを取る。さっきまでのお茶らけた雰囲気もなく、毅然とした態度で望む。
場の雰囲気に馴染めない若干二名うち妹はどうしようと兄に目配せ。兄は困惑するもここは自分の出番だと前に出た。
「あのすみません、部外者の僕らまで聞いても大丈夫なんですか?」
「それは問題ない少年」
「黒鉄さんどうしてここに」
「久しいな足立。なぁに喚ばれたのは、これから霜山女史が説明する任務の為だ」
「黒鉄さんが喚ばれるって一体…………」
「
「それは本当なの霜山さん」
「霜山女史に聞かぬとも、俺が居るそれが何よりの証明だとは思わないか」
「うぅ……そう言われればそうかも」
霜山の背後に居た高身長でイケメン、しかもキザったらしさは皆無ときた青年に足立と橋本は面と向かって会話しどうやら顔見知りだとは窺えた。
だけどうんまた知らない言葉飛び出たぞ。
と心の中で呟いてみて話についていけるわけでもない僕は、蚊帳の外にいると聞き覚えのある名前が聞こえた。
神村誠。
スクローム、キラードンス。僕が知る敵はどれもゲーム「ワールドエンドウォー」に登場するキャラクターで、ゲーム開発者の名前は確か神村誠。
これは偶然の一致なのか…?
そんなわけある筈がないと否定したいがどうにも歯痒い。
「それで君が八番目の
「噂?」
「あぁ良い噂も、悪い噂も」
寒気が走る。
全身が警告信号を発しこの男を危険と判断しているようだ。
なのに後退してはならぬと奥底から込み上がる感情に支配される。
「貴方は?」
「明日には分かる筈だ。そして君が救世主足りえる存在だと証明して欲しいと願う者でもある人間である」
顔がググッと近寄り、彼の息を吐く音が近くで聞こえる距離まで迫り僕の耳元でそっと呟くように囁いた。
その言葉に何故か僕は全身毛が逆立ち不快感を抱く。
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