episode04 二人目の接続者

「ご家族の方には、怪我を負った君らの治療の為自衛隊管轄の病院へと輸送したとお伝えしておいたわ。今回の件で多くの患者が運び込まれたことから個々の見舞いは控えているという趣旨だから連絡を取らなくても無用よ」


 どうしてこうなったてしまったんだろう。

 当分ここで世話になることが決まりお昼からご飯を取ってなかった僕のお腹は食べ物を欲し腹の音が盛大になった。

 結果霜山さんに夕飯を食べるよう勧められ柚子とヒノミを伴い僕は食堂へと足を運ぶ。

 食堂のオバさんが用意してくれたカレーライスを席へと移動させ空いていた六人掛けテーブルに座った。

 左隣にヒノミが、彼女の真向かいの椅子に柚子が座って他愛もない会話をしながら食事をしていると僕の正面席に足立さんが前触れもなく無言で座ると家族への対応を説明され食事を始めてしまった。

 そして黙々とスプーンを動かす。 

 予想もしなかった情景に僕はどのように反応すれば良いか解らず助けを柚子に求めるも触らぬ神に祟りなしという言葉の通り見て見ぬ振りをしてやり過ごそうとする。

 兄のピンチを助けてくれない妹だ…。


「あのぉ~水要りますか?」

「要らない」


 駄目もとで話のきっかけになればと傍にあった水のボトルを取り伺うもあっさりと拒否されてしまう。

 行き場を失った右手に持つボトルは、まだ空にはほど遠い僕のコップに水を注ぐ役割を果たし溢れ出すギリギリのラインまでたっぷり入った。


「折角の同世代、も~う少し気軽に話せばいいのに。和気あいあいと愉しもうよ」


 ビクッと突然の声に驚かされた。

 いつからそこに居たのか…。眠そうに欠伸をしながらも珈琲を啜っている少女が僕の右隣に座っていた。

 誰だろうこの人。

 忍び寄ってきた少女に心当たりはない。

 だけど仏頂面の彼女は知っていた。


「岬もしかしてまだ居たの!?」

「いやいやぁ~流石の私でも、呑気に長々とここで休憩してたりしないよぉ~」

「いやじゃあなんでここに」

「それはぁ~あれだよ。腹を空かせた足立ちゃんとお喋りするべく待ち伏せを」

「ん?待ち伏せってやっぱりここに居たってことを白状したわね」

「ぐっ酷いよ足立ちゃん、私を尋問するなんて。友達に無理矢理吐かすのは駄目絶対」

「岬が口滑らせただけでしょ」

「ねぇ足立さん、おにぃの横にいる彼女誰だかそろそろ教えて欲しいんだけど」


 いや、柚子よどうしてそこでお前が怒る。

 何故だか我関せずを貫き通していた筈の柚子が、怒り気味の顔で僕の隣に座る謎の女の子を敵対視して睨み付け話を切り出す。


「一応紹介しなきゃいけないわよね。この基地には接続者コネクターは二人駐在していて勿論一人は私そして」

「もう一人が私、橋本岬宜しくどうもねぇ」


 愛想よくとまではいかないが、足立さん程敵対心剥き出しと云うわけでもなく手を振って挨拶をしてくれた。


「ねぇねぇ足立ちゃん今日もやるつもり?」

「正直やりたいけど疲れてるでしょ貴女」

「うん。だから今日はパスしたいと申そうと待ってました」

「仕方ない流石に無理強いは出来ないもの」

「よっしゃこれでたっぷり眠れる」


 さり気なく左拳をグッと堪えガッツポーズを正面からは死角となるテーブルの下でする様を目撃しつつ洩らした言葉が聞こえたのは、黙っておこう。

 じゃないと痛い目に会うと僕の直感が、警鐘を鳴らしていた。


「大空、稽古するわよ」


 ぶはっ?

 言葉の矛先が何故か僕へと向けられ、食べていたカレーライスが喉に詰まり吐きそうになるのを手で塞ぎ我慢する。

 詰まりかけていたモノを飲み水で胃へと強制的に押し流し事なきを得た僕は彼女の言葉に耳を貸す心構えを終えた。


「霜山さんは数日ここに居たら帰してくれるって言っていたのにどうして僕が稽古を?」

「決まってるでしょそれは貴方が接続者だからよ。霜山さんはあぁ言ってたけど、私は反対。その手で誰かを救う資格が君にはある」

「でもそれは僕自身が臨んだ力じゃ」

とは言わせません。まっ今のヤマトが憶えてないのも無理ありませんが、それでも駄目です」


 自衛隊員が窮地に陥ったかに視えた先の戦いでは勇気を奮い立たせ挑もうと一度は決心した。

 儚くもその決心はモニターの向こう側で戦ってくれた足立さんの活躍により粉々に砕け散る。僕は傍観者、つまり観客でいられる。

 安堵し肩の荷が降りた。

 戦いを知らず平穏な世界に戻れると思っていたからこそ僕は日常に帰れると考えるのは悪い事ではないはず。

 なのにヒノミはそれを赦さない。

 ヒノミと目が合った。

 真摯な眼差しは僕に語りかける。


 “君は世界を救う主人公なんだろ?”


 眼差しの意味は分からない。どういった意図で向けられたものなのか。

 ただ感じた。

 理由なんて知らない。

 だけど確かに物語る。僕が主人公……?

 僕は何者でもない。ただの人間だ。物語の中心にいるはずのないモブ。否端役にすらならない存在だ。

 なのに何故僕をああも君は信じられるんだ。

 問いたい。

 しかし口にしてしまえば、何かが変わってしまう気がして思うように言葉に出来なかった。


「足立、貴女の提案に乗りましょう」

「話が速いわね」

「例え記憶が戻らなくとも、戦闘の勘を取り戻すのは急務ですから」


 戸惑いは確かにあった。だがそれ以上にヒノミをもっと識りたいと欲求が生まれる。

 でも今はこれだけ言わせて欲しい。

 苦し紛れの一言。


「僕を置き去りに話を進めないでくれっ!」


 食堂全体に響く声量が思わず出てしまう。

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