episode03 特務機関
「ハロハロー、わた~しは霜山レン。ここの技術顧問をしてるわぁ。よ、ろ、し、く。大空ヤマトくん」
白衣を着こんだメガネ女性。イメージ通りの研究者像が僕らの前に現れた。
今自衛隊に拘束され頭での理解も追いつかないままで案内された場に待ち構えていた研究者は自席から立ち上がると挨拶をしてきたので僕も一応の自己紹介はした。
「そして貴女が彼の
「その呼び方は間違いですが、似た者だと思っていただいても構わないですよ」
「そんなことあり得るわけない!現存する接続兵器七つは全て我々の管理下にありそれ以外は存在しない筈」
「友美ちゃんその考えわたしは反対だな。わたし達が知らないモノは確実に有るのよ。現に今回博多に敵が出たのだって予想外、岬ちゃんの支援無しでは急行は厳しかったし私達の知らない事は確かに存在するのよ」
「それはそうですが……。岬は大丈夫ですか?」
「使った直後はぶっ倒れてたけど、今は多分食堂で食事をしてるはずよ。ヤマトくん待たせてごめんね。さぁお姉さん遠慮はいらないから何でも貴方の質問に答えて上げる」
足立さんは有無を言わさず僕を拘束しヘリコプターに乗せ何処かに連れて行こうとした。
そこにヒノミに加え駄々を捏ねヘリに飛び乗った柚子も同行し一般人なら訪れることは愚か知ることすら許されない建物内にやって来ていた。
しかし足立さんも柚子の駄々を許容し連れてくるあたり酷い人と言うわけではないのだろう。
「ここは…そして貴女方は一体何者なのですか?」
ヘリコプターに乗せられる際目隠しを付けられた為、今ここが何処に位置するのか全く不明なのに素人目にも最新の機器が数を揃え並べられ、しかも自衛隊が関わってるとなると明らかに国が関与する研究機関だと言うことは僕にも推察出来るが答えを求めるのは当然だろう。
僕らは知らない事が多すぎる。
特にあの化け物やヒノミの力等。
「ここの場所は流石に明かすことは出来ないけど、わたしらの組織の名は特別異常変動気候対策機関通称特務。特務の目的は異世界から来訪する
「勇者って、霜山さん大袈裟」
「そうかなぁ、友美ちゃんも岬ちゃんも接続兵器に適合出来た稀有な人間まさしく人類を救う勇者そのものって感じだけど」
「話が進みそうに無いので、次の質問を。なんで特務に全く無関係の僕を連れて来たんですか?」
「全く無関係かと問われれば無関係じゃないでしょ君は」
心臓部位に人指し指を当て、確認するように聞いてくる。研究者の思いがけない仕草には驚かされる。
だが生憎見当がつかない。
父はサラリーマン、母も普通の専業主婦。
妹は運動神経抜群で陸上部で九州大会に出場出来る力を持つが、僕は至って平凡。
部活にも入らずバイトで稼いだお金をゲームに注ぎ込むただのゲーマーだ。
そんな僕が特別な何かを持つわけなんて……。
否たった一つ先刻起きた不可思議な現象が脳裏を過り、ヒノミに視線が傾く。
「ご名答さぁ理解が追い付いた所で、君ではなく彼女に聞いてみるとしよう。ヤマトくんの接続兵器さん」
「私の名前はヒノミです。接続兵器と呼ぶことは断じて許しません」
「これは失礼。しかしまぁ驚いた、自我を持つ接続兵器がこの世にあるとは興味深い」
一同驚きを隠せない警報音が霜山さんがヒノミを物色するように観察している刹那、突如として鳴り響き僕は耳を手で塞ぎ音をシャットダウンしようとするも爆音はいとも容易く壁を破壊してくる。
「警告、警告。
「ちょ冗談は止めてよね~」
日常茶飯事ではないのだろう……。
傍に控えていた足立さんは血色を変え、脳天気に会話を楽しんでいた研究者はお気楽な飄々とした表情が険しくなる。
「霜山さん彼らを安全な所へ。私は消化不良解消の為、ひと暴れしてきます」
足立さんは飛び出していった。
部屋から消え妹は震える身体で僕の服を掴み密接してくる。
研究者の背後に映る巨大モニターには外の映像が投影されていた。そこには博多駅で遭遇したあのスクロームが十数体、四足歩行でカバみたいな体格をし剥き出しの四本の牙を尖らせたキラードンスが蔓延っていた。
自衛隊が応戦しているが効いていない。
「通常兵器じゃ歯が立たないか…。隊長どうします?」
「なんとしても基地には入れるな死守せよ」
無謀な指示だ。
研究者の部屋には無線機があり機械から戦場で戦う戦士たちの勇気ある行動がひしひしと伝わってくる。
それでも勇気だけで勝てる程世の中は甘くない。
一歩一歩と後退していく自衛隊員。
映像を観る僕らには恐怖が忍び寄る足音が聴こえてくる。
救われない。
命ある者の死。このままでは死神の鎌は戦場の彼らに届いてしまう。
こうなれば…。
僕はヒノミへと目が行く。
怖い。怖い。怖い。
恐怖が身体を支配したとしても心が楔を解き放つ。だって僕には力がある。
「おにぃ行くつもりなの?」
肩を寄せる柚子の力が強くなる。
どうやら妹は兄の考えを読んでしまってらしい。兄の無鉄砲な行動を必死で止めようと立ちはだかった。
「でも俺がいかないとあの人達は……」
画面の向こう側で戦ってくれている自衛隊員の顔が瞳に映り込む。
「安心しなさい、ここには彼女が居るわ」
「
研究者の顔は真面目に。でもどこか誇らしげに自慢する。
彼女を。足立友美の勇気を。
彼女が戦場に割って入った。
身長と同じ丈の槍斧を右手に持った状態で。
「ここから先は通せんぼ。逝きたい奴からかかってこい!」
何処に力があるのかその武器を軽々と回し決め台詞の啖呵を切り、言葉を喋らぬ化け物が寄ってたかって攻めてくるも彼女か臆することはない。
「“激烈”」
槍斧を振り下ろし矛先の斧が地面を穿てばブランコが動くように持ち手と操者であった彼女の身体は宙へと浮かび上がった。
破壊力は抜群。
スクローム、キラードンス。地を駆け襲撃してきた敵の胴体を次々と大地が生んだ円錐の鋭利な尖端が貫く。
足立さん一人の力だけで敵を制圧してしまった。
「ヤマト、あれが接続者が成せる技であり、技を発動するため体内に流れる
戦闘映像を一緒になって拝見していたヒノミが唐突にも冷静な声色で僕に喋りかけ、頷いて応える。
「ところでヒノミちゃん一つ質問」
「何でしょう?」
「貴女はどうしてヤマトくんを知っているのかしら」
「ヤマトが私のパートナーですので、ただそれだけです」
「ごめんなさい、質問の仕方を間違えたわ。何故戦闘経験も無い人間をパートナーとして選び接続を成功させることが出来たのかしら。話を聞く限り彼全くのド素人よね」
グサッと刃物が胸に突き刺さったような感覚が狙い澄まして心にドストライク。
気持ちを切り替え、多少ここまで起こった奇跡的体験、つまり縁を辿れば何か凄い力が僕にも眠っているのではと考えを巡らせるには十分でありヒノミの次の答えに神経を尖らせ聞き耳を立てる。
「申し訳ありませんがお答え出来ません」
「どうして?」
「ヤマトの記憶領域に負担を掛ける恐れがあるからです」
「僕の記憶領域??」
「その話はいずれ時期が来たら話しますのでヤマト、霜山殿追求しないで貰いたい」
「そっか。ならもうこの話はしない、それでいいかしら」
結局幾つかの点において納得し理解出来たが、それでも解けていないものは存在するもののこれ以上口を挟めないのは明白で手打ちとなり仕舞いになる。
だからといってはい解放とはいかぬようで数日ここに居るように言われてしまった。
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