第3話 冒険者試験という名の雑用

 屈強な男に案内されてジョン達二人は冒険者ギルドの裏口から外へ出た。


「お前達には、ギルドが所有する複数ある倉庫の一つの整理を頼むことになる。この仕事の出来によって合否が決まるから適当な仕事はするなよ。」

「「はい」」

「おう いい返事だ。 お前らも想像してる通りそんな生易しいものじゃない。そんなんじゃ試験にならないからな。とりあえず俺の指示に従って動いてもらうことになる。いいな?」

「「はい」」

「よし! んで、ここが目的の倉庫だ!」


 巨大な倉庫がずらっと並んだ場所に案内されて雑に親指だけで試験会場を知らされた二人はあまりの大きさに数秒、意識を奪われていた。

 そこには厳重に警備員と恐らく魔道具のような装置が付いた頑丈な扉で守られた倉庫が何棟もあり、これのどれが冒険者ギルドの倉庫でこんなデカい建物の1つを整理するなんて1日で終わるのだろうかと冷や汗をかいていた。

 その二人の驚いた顔を楽しむ屈強な男は歩み出しながら、さらに続けた。


「自己紹介といこう。俺の名はダイドス。んで、ここにある倉庫はほぼ冒険者ギルドが所有するモノだ。」


 その言葉を耳にした二人はさらに驚愕の顔を浮かべて試験官ダイドスを見た。


「いい顔だ。それでいてお前ら二人に整理してもらう倉庫はここだ。主に薬草系が一時保管されてる倉庫だ。それほど危険な物は置いていないはずだが適当に触れるなよ。俺の指示に従い疑問があれば聞け。」

「「はい」」

「よし! ではまずこの布を鼻と口が隠れるようにつけろ。臭いでやられる事もある。それでは仕事内容を説明する。まず始めに総数のチェックだ、それと同時進行で品質も確認しろよ。状態の判断がつかない時は俺に聞け。その後出荷する薬草をまとめて冒険者ギルドに持って行く。そして仕上げに倉庫ないの掃除だ。今日もかなりの数を出荷するからな!!チンタラやってると倉庫泊になるぞ!」


 説明しながら倉庫の扉が開かれ、その棚と品数の多さに驚き過ぎて現実を呑み込めてなかった二人だがダイドスの声で試験中だという事を思い出し気合を入れ直し互いを見合う、そして気持ちを新たにした。


「「よろしくお願いします!!!」」

「元気じゃねぇか!これは期待出来そうか?」


 ジョン達二人のやる気に、そう不敵に笑うダイドス。

 こうして試験とは名ばかりのギルド職員の雑用を押し付けられるのであった。


「ダイドスさん、これはどうですか?」

「あぁん? それはウチで使う方に回すからこの箱に入れろ。」

「了解です。」


「ダイドスさん、箱詰め終わりました! 冒険者ギルドに持って行きます!」

「おう レクス。手際が良いな、確認させろ。…よし問題なしだ。頼んだぞ」

「了解しました!いってきます!」


 そんなやり取りを何度も繰り返して倉庫整理を進めていく。

 ジョンはやって行く内に知らない薬草類に触れたり、整理する事が楽しくなりどんどん仕事を終わらせて行く。

 レクスはそんなジョンに負けじと箱詰めし冒険者ギルドへの運搬を速やかに行う。

 時々ポジションを変えながらノリノリで倉庫整理をする二人を見てダイドスは素直なガキが来たなと嬉しそうに呟いた。


 問題なく行った為か日が少し暮れ始めたころには整理が終わり撤収の為にと二人は掃除をダイドスは最終確認と言って冒険者ギルド行くと出て行った。


「ふぅ なんやかんやで勉強になる試験だったな~」

「そうだなレクス。村じゃ見たことない薬草類やダイドスさんの話も聞けて学びが多かった。」

「だな それで受かれば文句ないのだけどな。」


 そんな軽口をしながら掃除してると勢いよく扉が開く


「二人とも、喜べ!! 合格だ!!! これが冒険者ギルド証だ。これに血か魔力で紐付けすれば登録完了だ。 おめでとうそしてお疲れさん。」

「やったなジョン!」

「え? 合格ですか? ありがとうございます!」


 渡された冒険者ギルド証に魔力を流す二人。


「ほぉ 魔法持ちか。将来が期待できそうだな。」

「村にいた元冒険者に教えてもらいました。期待しといて下さいよ! オレとジョンは最高の冒険者になりますから!!」

「フッ まぁ無理せず頑張るこったぁ。見誤った奴から死んでいくからな。それで、お前ら今夜はどうするのだ?まさか宿取ってないとかは無いよな?最高の冒険者様よ。」

「え!! ジョン!!! ヤバいじゃん野宿??」

「慌てるなよレクス。こういう時用に冒険者ギルドは宿も営業してるし、提携してる宿も紹介してくれるよ。そうですよね、ダイドスさん。」

「もちろんある! が! ジョン、お前はもう少し可愛げが必要だな~レクスを見習えよ。」

「アドバイスありがとうございます。一応考慮します。」

「そうだったそうだった~ダイドスさんの迫力にやられてうっかり忘れてた」


 そんな雑談をしつつ冒険者ギルドに戻って行く三人。

 冒険者ギルドに着く頃には日も隠れ、冒険者ギルド内の酒場の方では早速ジョッキを傾ける冒険者達の姿で溢れていた。

 受付へと歩みを進めダイドスが受付嬢に声をかけた。


「おう 戻ったぞノルン。新人冒険者のレクスとジョンを連れてな」

「お疲れ様ですギルド長。 レクスさんもジョンさんもお疲れ様でした。そして、冒険者試験合格おめでとうございます。これからのご活躍を祈っております。」

「「ありがとうございます!」」


「おぉ~倉庫整理おつかれちゃん♡」「おめぇら合格かよ、よくあんな雑用やってたなぁ」「大先輩かあのありあてぇぇおことばぉお~~」「うぇ~い!!」


 ギルドの酒場で盛り上がっていた先輩冒険者達は耳聡みみざとくジョン達の合否を聞きつけそれを酒の肴に楽しそうに酒盛りをして適当な事をあーだこーだとジョン達に向けて投げかける。

 ジョンはそんな騒音とも言えるアドバイスを聞き流しながら、「この筋肉巨人、ギルド長なのかよ!」と内心で驚く。「すげぇ! ギルド長だ!」と尊敬の眼差しを向けるレクス。

 そんな内心を知る由もないギルド長ダイドスは後は任せたとノルンに丸投げして颯爽と奥へと消えていった。


「ギルド長から宿泊先の手配をされていないとのお話を伺ったのですが、こちらで手配されますか?」

「あ はい お願いします。」

「それでは冒険者ギルド併設の宿泊所に空きがございますのでそちらで如何でしょう? よければ2部屋か1部屋でお二人分のベッドがあるお部屋、どちらかご用意いたします。」

「では安い方でお願いします。」

「畏まりました。ではこちら1部屋の方のカギでございます。紛失・破損されますと弁償して頂くので取り扱いには注意して下さい。お部屋はあちらの扉へ向かっていただければ施設案内板がございますのでそちらで確認していただければと思います。不明な点等ありましたら、フロントでお尋ねください。」

「わかりました。ありがとうございました。」

「ありがとうございました。」


 受付嬢のノルンに別れを告げた二人は今日の疲れを癒すべく、「ちょっかいを出さないように」とノルンに注意されながらも茶化す酒場の冒険者達をかわしながら宿のフロントへと足早に進み鍵を受け取って部屋へと向かった。


「ふぅ~なんやかんや疲れたな今日」

「ハハ、オッサンくさいなジョン。確かにこれならまだ狩りしてる方が楽だったかもね。でもこれで冒険者になれたし、こっからだな!!」

「だな! ストーンランクで雑用ばっかだろうけど」

「まずは地道にコツコツ、だもんな。」

「焦らず、腐らず、サボらずやってこうぜ。」

「全然自由じゃないな冒険者って。」

「まぁな 自由を手にするには力をつけなきゃだし頑張ろうぜレクス。」

「当たり前だ、ジョン!! 駆け抜けようぜ!」

「おう!」


 そう言いながらお互いの拳をぶつけ合うのだった。

 

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