第2話 旅立ち、そして…冒険者に

 祝福の儀から数日、家族と過ごしながらお世話になった村の人や先生、元冒険者のオジサンなどに冒険者になる為に村を出る事をレクスと共に伝え歩く。

 皆から頑張れよと言われ別れをすます。

 レクスは村の女子達に泣かれるほどに別れを惜しまれている姿にジョンは苦笑いをしていた。

 ジョンは最後まで難色を示していた母マルテをどうにか説得して旅立つ準備を終えた。


「本当に冒険者になるのね…ジョン」

「あぁ お母さん。子供のころからの夢だったし…何より自分がどこまで出来るのか試してみたいんだ。危険なのは十分理解してるつもりだし、そんな甘い世界じゃないってのもわかってるつもりだよ」

「ジョンは私達にとって、ずっと大切な子よ。大切な子を危険な場所だと知ってて送り出したくはないの…でもジョンがずっと憧れていて今まで頑張って来たのも知ってる。…だから、凄く凄く辛いけど。ジョン、頑張ってらっしゃい」

「ありがとう…」

「ただし、無茶し過ぎたりで怪我したり、どうしようもなくなったら帰って来なさい! その時はゆっくり村で休んで次に繋げなさい。ちゃんと頼りなさいよジョン。一人で無理しないで」

「うん ありがとう心強いよ。頑張ってくる!」

「いってらっしゃいジョン」

「ありがとう! 母さん!!」


 そう言ってジョンは行商人が待つ馬車へと駆け出して行った。

 母と子の会話を少し離れてみていたガルデがマルテのそばへ行き肩を抱く。


「よく耐えたなマルテ…」

「ん…母さんだって…」

「ジョンも15だ。祝福の儀を終えて立派な大人だ。それにこれから男を磨くだろう。信じて送り出そう」

「ずっと、夢だったもんね…でもアナタはいいの? ジョンとは良く狩りに出てたじゃない」

「ん? まぁ寂しくないと言えば嘘になるが、あれも冒険者になる為の訓練だったのだろう。狩りの腕はかなりのモノだ。だから俺はその辺は心配していない」

「そっか…」


 そこに少し寂しげにロシュウとアンが来て、アンは母親の足元に抱き着く形でジョンの門出を見送った。

 1度家族に振り向いたジョンは大きく手を振り、馬車に乗り込むのだった。




 行商人の馬車に乗り村から一番近い大きな街ダンタルムへとジョンとレクスは向かう。ダンタルムは魔物や魔獣が蔓延る魔素が濃い自然と遊戯神が創り出したと言われるダンジョンがいくつも存在していて魔物や魔獣の素材はもちろん、ダンジョン産の逸品を求めて冒険者が集う。それを見越した商人が行き交うダンジョンの街として名を馳せている。

 村からダンタルムまでは街道と言う程には立派ではないがそれなりに踏み固められた道があり、そこを通って行く。

 行商馬車で3日程の道のりでその間の食事等はジョン達持ちである。

 もちろん干し肉などを行商人から買う事も出来るが道を少し外れれば森なので食材は豊富にあり二人には無用であった。

 簡易的な投石具で鳥を射落としたり、道から離れた所にボアがいてそれを仕留めたりして自分達が消費する以上の物は行商人に売り、肉は加工することが出来ないので配って歩いた。

 3日の道のりでジョン達は臨時収入を得て行商人カシムンと仲良くなっていた。


「いや~こんなに新鮮な肉を食えた行商は名残り惜しいですねぇ~ いつもは極力経費を抑えてるので食事なんて最低限ですし。レクス君、ジョン君、何度も言うけどどう?一緒に働かない??」

「何度も言いますけど、オレとジョンは冒険者になりたいんです! なのでお断りします!」

「オレもレクスもその為に頑張って来ましたから」

「う~ん 元気に断ってくれるねぇ~ 益々気に入っちゃうね! 私も負けてられないね! レクス君とジョン君が冒険者として成功した暁には贔屓にしてもらえるよう頑張るぞ!!」

「カシムンさんがお店を構えたら、オレ達絶対行きますから! なっ ジョン」

「うん その時は安くして下さいねカシムンさん」

「もちろんですよ。その時は勉強させて頂きますね~ では明日の早朝に出発すれば昼前にはダンタルムに着きますので最後まで宜しく御願い致しますねぇ~ おやすみなさい」

「「おやすみなさい」」


 早朝、予定通り出発に昼前にはダンタルムの検問所に到着した。

 カシムンは行商人用の列があるとのことで、軽くお礼と別れを告げジョン達は一般用の列に並んだ。


「いよいよだな」

「あぁ こんなにデカい街に来るの初めてだし、楽しみだ」

「まずは冒険者ギルドだよな?」

「だな 冒険者になってからの方が宿の都合がつきやすいって師匠からアドバイス貰ったからそうするつもりだ。 レクスはそれでいいか?」

「おう もちろん! ワクワクするなぁ~」


 レクスはジョンの最後の問いかけに生返事で答えながら今か今かと呼ばれるのを待つ。

 暫くすると前方から


「次の者」


 と検問をする兵士が声をかけたのでやっと出番かとジョンとレクスは前に出る。


「二人か…荷物はそこの机に、何用で来た。何か身分を証明できるものは?」

「冒険者になる為に来ました! 初めてなので何もありません!!」


 レクスがハキハキと答える。

 村にいた元冒険者に検問所について事前に「素直に聞けば教えてくれるから従え」と説明を受けていたので堂々と答えた。


「ふむ そうか。金はあるか?割符を渡すには一人5000アゼル必要になるが…」

「あります! 2人分、確認お願いします。」


 そう言ってジョンは1万アゼルを兵士に渡した。


「うむ 確かに。この割符はこの街にいる間は肌身離さず持っていること、これがないと滞在証明することが出来ないから所持してなければ最悪捕まることになる。もし無事に冒険者になれたならギルドカードを持ってくれば割符代は返金するから持って来なさい。」

「「わかりました。」」

「荷物も問題ないようだな。では、通ってよし! 頑張れよ」

「「ありがとうございます」」


 手早く説明と点検をした兵士が通行許可を出したので荷物を背負い直し二人は足早に街に入る。

 溢れんばかりの人が行き交う大通りにジョンとレクスは目を輝かせながら歩みを進めた。

 大通りの更に目立つところに冒険者ギルドと書かれた大きな建物があり更に興奮する二人。

 検問所での待機時間により昼を過ぎたが、真っ直ぐ冒険者ギルドへ向かう。

 中に入ると昼頃なので人はまばらで、併設されてる酒場で昼食をとる者がちらほらいる程度だった。


「おぉ 思ってたより綺麗だな」

「だな おっ レクスあれじゃないか? 冒険者登録カウンターって」


 そう言いながら受付目掛けて歩みだす。

 近づいて声を掛けようとすると受付の方から先に声を掛けられる。


「こちら冒険者登録カウンターになりますがお間違いないですか?」

「は、はい! 登録お願いします」


 先制され驚いたものの登録受付までたどり付けたことに安堵した二人。

 それでは、記入用紙と冒険者の説明を受ける。


 冒険者カードを発行するにはBランク以上の冒険者の推薦かギルドが定めるクエストを完了すると発行されると言う。

 採用条件がない冒険者とは言え、荒くれなど誰彼なれる訳ではなく、それなりの対応が出来る人間に限られるのだと受付嬢は説明する。

 それに試験費用が1人1万アゼルかかるのだが、これも試験の一環なのだとか。

 冒険者はランクがありアダマンタイト(例外)、オリハルコン(英雄)、ミスリル(超一流)、ダイヤモンド(一流)、ゴールド(上級)、シルバー(中級)、カッパー(低級)、ストーン(新人)

 までの階級がありそれぞれで受けられる仕事や立ち入れる場所の有無などの制限があること。

 などなど細々としたことを受付嬢に口頭で説明された。


「さらに詳しくはそちらにある冒険者規範をお読み頂ければと思います。大体の方は読みませんけど…」


 そうニッコリと笑顔で言いつつ黒いオーラを放つ受付嬢。


「ふ、不備がないか確認お願いします。 あ! あと二人分2万アゼルです。」


 黒いオーラにたじろぎながら二人は記入用紙に必要事項を書き渡した。


「はい 確かに。レクスさんにジョンさん…不備はないようですね。それではいつでも試験を開始できますが如何いたしましょうか?」

「「いつでも行けます!」」

「畏まりました。試験内容はギルド倉庫の片付けになります。案内人の指示に従って倉庫の片付けをお願い致します。」


 酒場で食事をする冒険者らしき人物達が「げっ マジかよ ご愁傷様だな」や「ギルドもひでぇよな」など様々な慰めの言葉がボソっと上がった。


「え? そんなのでいいのですか?」

「はい この時間から出来る試験はこちらが最も適していますので。どうされますか?」

「受けます」

「それでは係の者が来るまでお近くで待機していて下さい。」


 そう言って待機するであろう場所に手をかざす受付嬢にお礼を言ってそこへ向かう。

 到着するとレクスが小声で話し始める


「簡単…な訳ないよな?」

「だろうな。たぶん結構大変なんじゃないか? 先輩達の哀れみの声が聞こえたし」

「だよな…だとしてもオレ達ならやり切れるさ」

「さすがレクスだな。どのみちオレ達は冒険者になりに来たんだし、オッサンも言ってたけど、なんでもやる気概で挑もうぜ!」


 そんな風に改めて気合をお互いに入れ直していると声がかかった。


「おう 坊主どもが受験者か。こっちだついて来い。道すがら説明するからよ」


 よく通る声で屈強な男が二人を呼んだ。

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