第1話 祝福の儀
ここは何処にでもあるような細々とした農業と狩猟を主として営まれる村。
そこにちょうどいい長さの木の棒で打ち合う二人がいた。
「ジョン!! 明日が祝福の儀だからって動き悪いんじゃないか??」
「寧ろいつもより調子いいわ!! 隙あり!!!」
「うわっ イッツ~畜生、勝って祝福の儀受けたっかのに負けちまった~」
「浮足立つレクスの心の隙を突いたまでよ。ほいレクス、立つの手伝ってやるよ」
「勝者の余裕か?勉強になったよ。ありがたく手伝ってもらおうか! オラ!!」
そう言うとレクスを起こす為に手を伸ばすジョンを思いっきり引っ張り転ばせる。
「オワッ!? レクスお前!」
「これでオレの勝ち越しだ」
男のオレですら見惚れるようなイケメンフェイスを向けながら屈託ない笑顔でそう言うレウス。
こいつは本当に負けず嫌いだよな
そう思いながら、なされるがまま地面に寝転ぶ。
「いいよいいよレウスの勝ちだよ。その勝ちへの執念にオレは負けたね。
ふぅ この稽古も明日で一段落して、ついにオレ達も冒険者目指せるのか」
「だな。オレ達なら上に行けるさ絶対」
「さすがの自信だな。変なところで
「その辺はジョンに任せるわ。勉強は神童のジョンの方ができるだろ」
ジョンは村の中で一番賢い子供だった。
運動もそこそこにできレウスと稽古を始めてからメキメキと運動神経も良くなっていった。
しかしレウスも決して体力馬鹿という事ではなく、子供の中では理解力や高く冒険者になるという目的意識が高いので必要そうなことを手当たり次第やる出来る子供だった。
「レウスだって勉強出来るし何だったら冒険者についてはオレより詳しいだろ?」
「適材適所だよ。ジョンの判断の方が良いし何よりオレは信頼してる」
「村一番のモテ男に信頼されたら頑張るしかないな」
皮肉まじりではあるが嬉しい気持ちを隠し切れずに、そうジョンは答えた。
文武両道だけでは足らずイケメンで人当たりもよいレウスは村の子供達のアイドルだった。
レウスはモテモテだったが本人は冒険者で活躍する夢を実現させる為にと、勉強やら稽古やら先人の知恵や経験を聞いて回ったりと忙しくしていてそれにジョンも付き合わさせられていた。
その為にレウスの知らないところでジョンは女子達に話す時間を御膳立てして欲しいとかジョンがいると私(達)が話せないからと邪険に扱われたりしたこともあったが不思議と苦ではなかった。
同じ夢を持つ親友だと間違いなくお互いが言える間柄だからだろう。
「じゃぁ 明日教会で祝福の儀終わったらオレの家なジョン! すぐ来いよ!!」
「わ~ったよ どんなギフトでも恨みっこなし オレが戦闘向けじゃなくてもお前のサポートで付いて行くからなレウス」
「本当か! 頼もしいな。どっちかが戦闘向けギフトならオレ達は冒険者だ!」
「どっちも違ったら?」
「ぐっ…その時は冒険者ギルド職員試験…」
「ぷ レウスお前戦闘系ギフト以外考えてなかったな」
「ギフトも使い方次第だって師匠も言ってたしオレは絶対冒険者になる!! もちろんジョンも!!!」
「だな。それにレウスはすごい強い戦闘系ギフト授かる気がするよ。」
「おう? ジョンがそう言うなら心配すること無さそうだな」
「どっからその信頼がくるのやら。じゃぁ明日なレクス」
「おう 明日なジョン」
ギフト、それはこの魔物蔓延る世界アゼガルドで生き残り繁栄する為にと凡人種が15歳になると授かる事の出来る神々からの祝福である。
多種多様な人種があり数多の神々の気まぐれよって各人種が別々の年齢でギフトが授けられる。
その日を多くの人種は成人の日と定め大人の仲間入りをするのだ。
二人は土埃を軽くはらってから家路についた。
「ただいま~ お腹すいた~」
「あ お兄おかえり」
「おかえり~お兄ちゃん」
「おかえりレウス もう少しで晩御飯出来るから手伝って!!今日はお父さんがジョンの為にって立派なファングボアを狩って来てくれたの!」
「おぉ やった!! で、お父さんは?」
「たぶん裏で片付けしてると思うわ」
「わかった。ごめんロシュウ、アンと先にお母さんの手伝ってあげて。オレは父さんのところに行ってくる」
「わかった」
「はーい」
ジョンは帰宅早々、次男のロシュウと末妹のアンに食事の準備の手伝いを頼み父親がそこに狩で使った道具や、売りに出す毛皮や牙などの素材を整理している父親の姿があった。
声を掛けようとジョンが父親の方へ向かうと
「ジョンか。おかえり」
「さすが父さん。ただいま」
「さすがも何も隠す気無く近づいてくれば誰だってわかるさ」
「でもだいぶ離れてたのに…ファングボアを仕留めてくれてありがとう。あ 手伝うよ」
「助かる。当たり前だろう。自慢の息子が明日祝福を受けるのだから。それにこの季節はファングボアが冬終わりに降りてくるからな。それに村の安全対策にもなる。」
「恥ずかしいこと言わないでよ。嬉しいけど。結構な素材量だね、かなり大きかったの?」
「ん? あぁ かなり肉付きは良かったな。これ以上にデカくなると一発で仕留めるのは難しかったから運が良かった。明日の行商に卸す分もかなり余裕ができる。」
「おぉ~このサイズでも父さんの弓なら一発なんだ。」
「なんだ、明日の祝福が不安か?」
そうジョンの父ガルデが作業の手を止め息子ジョンに向く。
「うん やっぱり不安だよ。冒険者になるんだって今まで頑張ってきたどギフトは頑張りようがないし…」
「そうだが、祝福の前は皆が緊張し不安に思うものだ。父さんもそうだったしな。だが、どんなギフトを授かろうと冒険者にはなれるだろう。それはジョンの方が詳しいはずだ。それにギフトがなんであれ俺の自慢の息子なのは変わらない。母さんもそう言うだろう。まぁ母さんからしたら村を出て行かないで済むギフトをこっそりお祈りしてるかも知れないがな」
ジョンが抱える不安を和らげつつ身内ネタでさらに不安を軽くする父のガルデ。
「プフッ それはあるかもね」
「ジョンが母さんって呼んだだけでも涙ぐんでジョンがーって慌ててたくらいだからな。だがもう15の年だ。母さんも送り出してくれるさ」
「ありがとう父さん」
「当然だ。さ もう少しで終わるから早く片付けてしまおう。母さん達が待ちくたびれてしまう」
「だね」
二人で手早く作業をし家族団らんの夕食へと赴く。
母親のマルテが腕によりをかけて作ったファングボア料理を頬張り幸せな気分で眠りについた。
翌朝、家族総出で送り出される。
母マルテからは「頑張ってね」と涙ぐみながら言われ背中を押され少し残っていた不安が消えた。
村から乗合馬車に揺られ町の出張教会所へと向かう。
多くの祝福の儀を受ける子供達が広場へと集まり、開始の合図を待っていた。
ジョンもその中にいて見知った顔がいないかと何気なしに周りを見る。
しかし見当たらなかったのですぐに数ヶ所ある出張教会所の受付に札をもらいに列に並ぶ。
テンポ良く流れて行くも暇を持て余す位には時間がかかった。
ついに自分の番が来て指示通りの場所にて祝福の儀を執り行う為に膝をついて祈りの姿勢を取る。
周りに光の粒子が輝き、何処からともなく光が降り注ぐ。
その時、強いギフトを授かる者は神に会うと言う。
ジョンも祈りの中で、哀しげに優しく微笑む中性的な者を目にした。
ハッと気がつくと、祝福の儀が終わったことをそばに居た神官に告げられた。
「彼の者の祝福の儀はつつがなく終わりました。幾万の神々よ、そして祝福を下さった神よその慈愛に感謝致します。」
「ありがとうございます」
「では、あちらでどう言ったギフトなのか視てもらうといい」
「はい ありがとうございました神官様」
神官は何度も同じ事を繰り返し行っているにも関わらず丁寧にジョンに次に向かう場所を教えた。
そこへ向かう為、歩みを進めるジョン。
ギフトの詳細は本人が研鑽と共に深め、そして強化して行くのものだが、ざっくりとした祝福の
方向性(戦闘系や生産系など)はギフト鑑定の簡易魔道具で調べられる。
それを調べて祝福の儀は終了となる。
「お願いします!」
「はい ではこちらに手をかざして下さい」
「はい!!」
手をかざすと一瞬淡い光を放った魔道具を見て担当していた神官が唸りをあげる
「ん? これは…なんだ?」
「え?」
「よ、読めない…少し待ってて下さい。確認してきますので。」
「…はい」
そう告げると神官は足早に何処かに行ってしまった。神官が呟いた言葉に言い知れぬ不安を覚えたジョン。だがギフトを授けられてから体の軽さやキレの良さを自覚していた為、それを確かめるように待っている間は少し離れて体を動かしていた。
「おっ やっぱりキレが違うな! 凄いなギフト」
「すまない待たせたな少年よ」
夢中になって体を動かしていたら後ろから先程の神官よりは確実に上の立場の者だろうとわかる雰囲気の神官が謝罪した。
「いえ! 大丈夫です。つい嬉しくて体を動かしてましたのでお気になさらずに」
「ほぉ その年で随分丁寧な言葉遣いだ。関心関心。して、少年の鑑定結果だがな私にも読めんのだ」
「え? そういう事は良くあるのですか?」
「いや 私の知る限りでは無いな。強大なギフトを授かるとより鮮明に鑑定されると言うことはあるが、どんなギフトでも系統はわかるものだ。解読不能な事は恐らく初めてでは無いだろうか」
「そう…ですか。」
「すまんな力になれずに。少年のギフトは少年が探究するしかあるまい。腐らずに神と対話を試み、己の心身を鍛えることだ。」
「はい!ありがとうございます。冒険者になりたいのでそこは問題無いと思います!」
「ふむ 冒険者か。危険な職業だ、ギフトが判らない分より慎重に頑張るのだぞ」
「はい神官様! 今日はありがとうございました!」
ジョンはその高位な神官から鑑定の結果が書かれた木版を貰うと駆け足で乗合馬車に向かった。
「己のギフトがわからなくても、前へ進むか少年よ・・・神々は時に我々には想像もつかぬ試練を与えるものよ…」
そう高位な神官はジョンの背中を眺めながら呟くのだった。
村に着く頃には日が来れ始めていてレクスに会うのは明日かな、と思いつつもレクスの家に向かう。
「おっ! ジョン! やっと帰ってきたか!!」
レクスの家に着くにはだいぶ先だが、ジョンはレクスに声をかけられた。
どうやら夕暮れと言うこともあってレクスは馬車の発着場から少し行った辺りで待っていてくれたようだ。
「おう レクスの方が先に帰ってたんだな。で、どうだった?」
「ジョン驚くなよ、オレは雷と光の妖精の加護を妖精神様から授かったぜ!!」
「おぉぉ!! 凄いな。もしかして神様に会った?」
「そうなんだよ!! すんげー楽しかったわ! ジョンにも会ってくれって頼んだけどダメだって言われたわ。すまん」
「さすがレクスだな…神様にそんなこと言える奴そうそういないだろう。それに神様に会えたってことは強い加護を授かったんだな。凄いなレクス」
多少苦笑いしながら祝福の儀の後でも相変わらずのレクスに安心するジョン。
「で ジョンの方はどうだったんだ?」
「まぁその…たぶん戦闘系?だと思う…体のキレも良いし力が増した感じもするから」
「え?鑑定してもらったんだろ?」
「そうなんだけど、読めないからわからないって言われたんだよ。後は自分で研鑽しなさいだとよ」
「へぇ~教会でもわからないギフト授かるとか、さすがジョン! これなら問題なく冒険者になれるな!!」
自分のギフトが謎だが後は自分次第だと決意を新たにし、ジョンは答えた。
「だな 最高の冒険者になってやろうぜ」
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