どこにでもいる女の子

シオン

どこにでもいる女の子

「物を買うなら高くて良いものを買えって言うけどさ」


「うん」


 学校の昼休み、僕は香菜子ちゃんと一緒に弁当を食べていたところ香菜子ちゃんが話題を振ってきた。


「最初はどうしたって安い物を選びがちだよな」


「まあそうだね。最初から高い物を買う勇気はないよね」


 香菜子ちゃんがこういう話題を振ってくる時は大抵何かあったときだ。心なしか香菜子ちゃんの機嫌が悪い。


「この前よう、ちょっと絵描きに目覚めて画材を揃えようと思ったんだ」


「またか。香菜子ちゃん前は音楽に目覚めていたよね」


「そんな昔のことは忘れた、裕太よ。それであたしはノートと鉛筆を買おうとコンビニへ行こうとしたんだ」


 絵を描くのに紙と鉛筆は必要だろうけど、あまりにも道具を選ばなすぎる……。それと絵の本も必要じゃないのか?


「そしたら親に声をかけられて絵を描くことを伝えたら、親が張り切ってス○ッドラーの鉛筆全種類とコ○トマンのスケッチブックに色鉛筆四十八色を揃えてきたんだ」


 香菜子ちゃんも大概だけど、両親も両親で大概だった。それ全部揃えるのに結構お金かかっただろうに。


「そこまでされて親に感謝しないほどあたしは腐っちゃいない。ちゃんとお礼もした。だけどなんかなぁ、その無駄に気合いの入った画材たちを見たときやる気なくなってしまったんだ」


「おー……」


「なんかさぁ、そのプロ御用達の画材見たとき少しだけ萎縮したっていうか、あたし自身がその道具に見合ってないってわかっちゃうんだよ」


「なんとなく分かるよ。その道具がいかに優れていても、その使用者が未熟だと使いこなせなくて、そんな自分にがっかりするよね」


 おそらく香菜子ちゃんはそこまで気合いを入れて絵を描こうと思っていた訳じゃなく、ただ何枚か適当に描ければそれで良かったのだろう。


 仮にそれから絵にハマることがあっても、最初の段階で完璧に準備してしまったから早い段階で満足してしまった。


「こうして才能って奴は潰れていくんかな」


「否定はしないけど、香菜子ちゃんそんなすごい人間じゃないでしょ?」


「なにおう、あたしほど可能性に満ち溢れた人種はそうそういないぞこの野郎っ」


 不満を話したおかげか、香菜子ちゃんはスッキリして少しだけ笑った。香菜子ちゃんはそれでいい。


 香菜子ちゃんは言葉遣いも粗暴で女の子らしくないかもしれないけど、僕はそんな香菜子ちゃんが好きだから。


 だから今日も、香菜子ちゃんの相手をしよう。女の子らしくないけど、どこにでもいる女の子の相手を。


おわり

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