第59話 別途~彼女の場合~

最後に電話でお互いへの誤解を解けて、自分がしたことに謝れて、本当に良かった。彼女は彼から電話をかけてくれたことに感謝していた。


出発前に、彼女は自分の思いを伝えようと思ったが、甘たるい言葉を言うのは自分のスタイルじゃなかったので、大好きな歌の歌詞を借りた。


今回の心境は前回とだいぶ違った。日本へ戻られる時が分からず、この先仕事で何があるかも未知のまま、そして日本で待っててくれる恋人はもういない。だけど、自分が選んだ道だから、前を向いて進むしかなかった。


ロンドンに到着する時は早朝なので、彼女は急行列車でロンドン市内へ行こうと思った。到着ロビーから出ようとする時、目の前に三無さんが立っていた。現れるはずがないのに、何で?彼女は混乱したまま、その場から動かなくなった。そしたら、三無さんは彼女の方へ歩いて、目の前に止まった。


「何でここにいるの?」

「こんな朝早く一人で列車を乗るつもり?」

「まあ、仕方ないでしょう?タクシーで市内へ行くには高いから。」

「女一人でこの時間に列車を乗るって、危険だろう。車で来たから駐車場へ行こう。」


そう言った三無さんは彼女のスーツケースを取り、出口へ歩き出した。しばらくして、彼女は彼の後ろに付いて行った。


どうやら、彼女の安全を気にかけて、わざわざ空港まで来た。二人が住むところから空港まで行くと、車でも1時間以上かかるのに、睡眠時間まで削ってここまでしてくれた。しかも今日は平日、三無さんが彼女を家まで送ってから仕事へいかなければならないだった。彼女は三無さんの心遣いと行動に感動した。


仕事が正式始まってから、彼女の勤務時間は前より伸びった。それでも、三無さんは彼女の仕事終わりまで待って、毎日一緒に帰ることになった。早く帰れる時は家の近くで晩ご飯を食べるが、遅くなるとほとんどの店は営業していないので、お互いの部屋で自炊することが前より多くなっていた。週末は前のように、一緒に出掛けることがメインだけど、とても寒い時はお互いの部屋で料理をして、映画を見て、別々で本を読むこともあった。


彼女はロンドンへ来てから、一度も彼に連絡しなかった。別に絶交ではないが、連絡する理由が見当たらなかったから。向こうからも、連絡することもなかった。だけど、彼は相変わらずの人気者で、聞きたくてもいろんな噂が入ってきた。例えば、仕事での活躍とか、女性社員が彼に巡っての「争奪戦」とか。


彼女の心境はちょっとづつ変わってきたことが自覚した。最初はまだ彼のことに引っかかって、特に女性関連のことになると、聞かされたら機嫌がよくなかった時もあった。最近はそういう感じがなくなり、むしろ彼が新しい恋を見つかればいいと思った。


これは彼のことをもう愛していなかったという証拠なの?


逆に悩ませたのは、彼女と三無さんの関係だ。周りから見れば分かるように、三無さんは彼女のことを特別扱いをしていた。時々マンションの住民や大家さんたちにもからかわれて、早く付き合えばいいのにって。三無さんの答えはいつもこうだった。


「俺はまだ努力中、応援してくださいね。」


これって本気か、冗談か?だって、三無さんは彼女がロンドンに戻ってから、一度もそういうような話をしてこなかった。だから、彼女は二人の関係を定義するには適切な言葉が見つからなかった。隣人?友達?友達以上、恋人未満?


そして、クリスマスシーズンがやってきた。


三無さんはクリスマスマーケットと装飾が見たいと言って、二人は市の中心部へ行った。最後のスポットは屋外にあるアイススケート場だった。スケートリンクの真ん中には大きなクリスマスツリーがあって、周りのビルにも星のようなキラキラしたきれいな装飾がたくさん飾ってあった。


「何でアイススケートしたいの?」

「俺はやったことないけど、あなたが教えてくればいいじゃない。」

「私にあまり期待しないでよ。」


そういった彼女は、三無さんの両手を取りゆっくりスケートし始めた。ようやく自力で動けるになったその瞬間、三無さんはいきなり彼女から離れて、切れ切れな動きで滑り始めた。やっぱりだね、彼女は呆れたような顔で、自分のところに戻ってきた三無さんに聞いた。


「スケートできないって嘘でしょう?」

「まあ、俺はカナダで大学のアイスホッケー部にいたから、スケート上手は当たり前だ。」

「面白いなの?私をからかうのは?」

「真剣に俺にスケートを教えた君は可愛いかったから。」

「じゃ、ご自分でスケートすれば。私は一人でスケートするから。」


彼女は三無さんから離れようとした時、向こうが彼女の手首を掴んだ。


「あのさ、俺はもう待ってられないよ。」

「何を?」

「あなたはロンドンに戻ってから、俺はずっと待っていた。あなたは俺を受け入れる時を待っていた。もちろん、前の彼氏と別れてあまり時間が経っていないけど、俺はもう我慢できない。」

「何も言ってくれないから、あなたの気持ちはどうなったかは分からなかった。自分からあなたに聞けないし…」

「じゃ、今返事をくれる?俺と付き合って。」

「ストレートだね。」

「遠回りするようなことはしない。もうずいぶん待ったから。」

「私の返事は今から言う。」


彼女は三無さんの顔に近づき、唇に軽く触れるようなキスをした。離れようとした瞬間、三無さんは自分の腕を彼女の腰に回って、彼女を自分の方に引き寄せて、深いキスをした。ようやく放してくれた時、二人の顔はすで赤くなった。寒さのせいか、それとも酸欠したせいかは分からなかったけど。


「何するのよ?いっぱい人がいるじゃない。」

「俺たちは幸せだから、他人が見られてもいいだろう。」

「ここでしなくても…」

「じゃ、今から家に帰って続きをしようか?」

「そんなことはしないよ。私はまだまだスケートしたいから。」

「これからどこでも一緒に行こう。」


三無さんは自分の手を彼女に差し伸べた。彼女はそれを見ていて、決意をした。これから、この人と手をつなぎながら、人生を歩むことを決めた。


恋人になった二人は、相変わらず出会ったマンションでお隣同士として住んいた。彼女は以前周りに自分の恋愛事情を知られることが嫌がっていたが、今回はもうそういうことを気にせず、三無さんとの恋愛に思い存分楽しめたかった。まあ、周りに他人の恋バナに過剰な関心を持つ人たちがいないから、彼女にとってこれで楽になる一因でもあった。。それに、三無さんはクールな見た目に反して、実は情熱的な人で気持ちも顔に出やすいから、恋愛していると隠さない、あるいは隠せないタイプだ。


三無さんの賃貸契約が切れる前の夏ごろ、新しい家を探そうと言い出した同時に、彼女にある提案をした。


「俺の妻として、一緒に住もうか?」

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