第18話 平行

一か月近く会えないというのはまずいだろうっと、彼は思った。このまま何もしないってきっとこの関係がダメになる。


彼女の仕事は益々忙しくなったというのは分かった。よく商談で席を空けることが多く、オフィスで遭遇しても周りの視線を気にして声をかけられなかった。それで彼は決めた、今夜彼女を待ち伏せし会って直接話をするしかなかった。


彼は8時すぎから会社の正門の近くで待っていた。9時を少し回ったたころ、彼女はようやく会社のビルから出てきた、明らかに疲れたようだ。同僚に見られたら大変なことになると思って、彼は彼女に電話をかけた。電話の着信音が鳴り続けても、彼女はただじっと画面を見て、電話出るのを躊躇していた。ようやく決心をして、画面を押して電話がつながった。


「もしもし。」

「もしもし。今から会えないか?」

「残業で疲れて、今家にいるから、もう出たくない。」


まだ会社から出たばかりなのに、彼女は嘘をついた。それを見て、彼は分かった。彼女は今彼に会いたくなかった。でも、このチャンスを逃したら、次いつ彼女と話せるかは分からないので、彼は彼女の方向へ歩き始めた。


彼女は彼が突然自分の前に現れたことに驚いた。自分の嘘がバレた以上、もう逃げられないと悟った。


二人はタクシーで会社からちょっと距離があったバーへ向かった。無言のまま、バーに入って、頼んだものが来たから彼は切り出した。


「そろそろ話をしたくて、会社の前で待ってた。何で嘘をついた?」

「どうやって何を話すかまだ分からないから。正直に言うと、あの夜にあんな形になったことは残念だと思った。だけど、解決策がどうしても浮かび上がらないだ。」


彼は深くため息をついた。


「これは話し合って解決するものでしょう?二人のことなのに、一人でも決めるつもり?」

「じゃあ、私から言う。私の理解では、あなたが私の仕事状況について不満があった。それによって、私たちが一緒に過ごせる時間が前より減ってきた。仕事以外の時間にも、私は他にやらなければならないこともあって、そして一人でいられる時間とスペースが欲しいし、これらによってこの状況を悪化させたことは分かった。でも、私はそれなりに埋め合わせるように頑張った。だから、あの夜に聞いた言葉ですごく傷づいた。」

「俺は言い過ぎたことについて謝っただろう?それなのに…」

「あなたはただ言い方について謝った。肝心なのは、あなたは自分が言ったことは間違っていないと考えたぐらい分かった。」

「普通のカップルはできるだけ一緒に時間を過ごしたいと思わないか?まして、俺たちはいつも人の目を気にして、まるで犯罪を犯したようにコソコソ隠れて付き合っているから。限られた時間を最大限して、一緒にいたいというは悪い?」

「カップルでも、毎日会えるとは限らないでしょう?無理矢理そういう理想の状態を実現するために、お互いにとってだんだん息苦しくなるでしょう?」

「あなたはこのまま仕事に集中しすぎると、俺たちの状況はいつまでも改善できない。」

「じゃ、あなたが思っているのは、この状況が生まれたの原因は私にある?」

「そもそも、極秘交際は間違った。別に不倫でもないのに、正々堂々付き合えばいいだ。」

「どうしてまたこの話になる?すべてをこれに結び付けないで。二人で決めたことなのに、今更後悔してどうするの。」

「提案したのはあなただった、俺は仕方なく従っただけ。」

「そうですか、よくわかりました。でも、あなたは一度も考えていないよね?私はどうしてこれだけを譲らない理由?」

「元カレの件だろう?どうして俺はそいつがやったことで罰を受けたんだ?」

「あなたは彼とあまり変わらないだ。」

「どういうこと?」

「自覚してる?あなたは異性に対していつも優しく接して、あなたの周りはいつもたくさんの女子がいた、絶え間ないぐらい。でも、あなたはその異性たちとの距離をちゃんと取った?ないよね?だから、みんなはあなたを理想な男として見てて、あなたを自分のものにしたいことで争っている。」

「あんなことは俺たちにどんな関係がある?俺が好きなのはあなたってわかってるだろう?」

「彼女たちはそれを知らない。だけど、あなたが取った行動で、私を特別視することぐらい薄々気づいたから、私は公敵になった。例えばSNSで投稿をする度、あなたからの”いいね”とかコメントがどうしても目立つ。私はそれに反応しないのは周りにそこを気づかないようにしたから。でも、あなたを好きな子たちは相変わらず私の悪口を言うし、事実でもない噂を流し、悪意と敵意が感じられる接し方を取る。このすべてがあなたに一度も言わなかった。なぜなら、あなたに言っても何も変わらない。私は考えた末に、みんなの前に自分からちゃんと距離を置けば、女子たちの敵対心は少し弱まってくるだろう、それに私はちゃんと仕事に集中できるから。なのに、あなたはいつも私の努力を台無しにした。」

「どういうこと?」

「彼女たちに相変わらず優しくしているうちに、ファンがどんどん増え、あなたに対する思いが強くなっていく。だから、みんなはライバルが現れる度に潰したいって。」

「俺はいつものことをやっているだけ、むしろいきなり態度が変わったら、余計に怪しまれるじゃない?交際が公できないのに、彼女でもいないのに。」

「公しなくても、実際に彼女がいるから、異性と適当な距離を置かないの?誤解されるような行動を続けてもいいってこと?」

「俺はそういうつもりでやったわけだし、ただし向こうがどう思われるかはそっちの自由。それに、あなたのこういう言い方だと、俺が原因であなたの仕事の邪魔になった、本当にあなたの言いかかりだと思う。」


これを聞いた彼女は黙り込んだ。これ以上話しても平行線なままで、解決なんかできない。彼も彼女が言ったことを言い訳としか聞こえないので、話を続ける気もなくなった。


頼んだ飲み物を一口も飲まずに、二人は沈黙したまま店を出て、振り返ることもなく別々で帰った。

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