第17話 彼の視点 その4

愕然とした。彼女は本当にそのまま帰ってしまった。


付き合い始めてからのこの一年間、一度もこんなふうに怒らなかった。やっぱり俺は言い過ぎたかも。ただの業務連絡でこんなふうに怒らなくていい、今後悔しても遅かった。ちょっとぐらい邪魔されただけで、切れたらこういう状況になった。せっかくの誕生日と記念日祝いを台無しにした。


でも、内心ではまだ収まらない怒りと不満があったので、素直に自分の非を認めたくなかった。


年明けから、彼女と会うことが急に難しくなった。表の理由は仕事が忙しいから習い事で週末にも時間がないと言って、俺は理由が別にあると思った。仕事のことをあまり俺には言わなかったので、いったいどうしてそんなに忙しいなのか理解できなかった。もちろん、管理職の責任や守秘義務があったことは分かったが、ここまで秘密にする必要があるか、いつも疑問を持っていた。でも、一々彼女に問い詰めたのもカッコ悪いと思ってそうはしなかった。モヤモヤの不安は俺の中にずっと渦巻いていた。


正直に言うと、俺は今回の旅行で彼女にある提案をしたかった。俺たちの関係を公表すべきだと思った。一年も経ったのに、まだ極秘交際を続くっておかしいって。


彼女には言わなかったけど、実は会社で噂話のことで公表を早くやった方がいいと思った。偶然男同士の集まりで、彼女が話題になった。なぜかみんなは彼女の悪口を言っていて、結構厳しいことまで言った。話を聞く限りでは、男性陣は彼女が職場でめちゃくちゃ期待されたことや異例な出世に対して面白くないと思った。俺にはこういう優秀な人と付き合っていたことが誇らしくと思ったけど。


自分の彼女がここまで誹謗中傷を受けていたから、黙ってはいられなかった。でも、俺は勝手に彼女を庇うような行動を取ったら、逆に事態を悪化させるではないかと心配していた。だから、彼女と相談してたく、公表したら彼女に対する誤解をなんとかしたかった。今の俺はこれをできなかった理由はこの隠れた関係にあった。多分彼女は反対するだろうけど、でも俺はやっぱりやってみたかった。


結局大事な話も話せず、お祝いもダメになった、一人であの温泉旅館に泊まった。情けない話だろう。


それから仕事場で会っても、彼女はいつものようにただの同僚扱いされた。まじで面白くないし、だから俺は謝りたくなかった。


だけど、俺はこのままだといけないと思った。先に自分の態度が良くないことについて謝っていたが、俺が言っていたことは悪くないと言い張っていた。今考えれば、本当にくだらないプライドだな。素直に謝ればいいのに。結局向こうも自分の飛び出しについて謝ったが、言った言葉を撤回するつもりはなかったようで。


もう2週間以上彼女と会ってないので、やっぱり俺は先に折れるしかなかったと思った。


でもタイミングが悪かったか、またとんでもないことが起きてしまった。

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