第16話 彼女の視点 その4

旅館から飛び出した後、タクシーを乗ってそのまま駅まで行って、新幹線で帰った。


いつもの自分なら、ここまで短気ではなかった。多分いつもの自分なら、時間をかけて彼の機嫌を取り直そうだろう。今日の自分は違った、私らしくないなあ。人を好きになったことで自分がおかしくなった。


数日前に聞いた噂話で機嫌が悪くなったが、彼にはどうしても打ち明けなかった。言っても解決できないだろう。だから、無理矢理笑顔を作り、何もなかったのように、彼のために計画していたこの旅行に楽しんでもらうことが最優先した。仕事のことで非難されたのは予想外だった。その上、嫌味たっぷりの言葉で私の仕事を馬鹿にした。


この状況では、私にもある程度非があると思った。


管理職である私は、いろんなことを秘密にしなければいけなかった。違う部署とは言え、彼に自分が何をしていたのか何を知っていたかを一々報告できかった。恋人とはいえ、やってはいけないことをやらなかっただけ。でも、彼から見れば、私は常に何を隠していたかを疑われるだろう。何も知らないので、私の苦労や状況の難しさも知らなかった。だから平気で、仕事の重要さと重さを軽く見て簡単に馬鹿にしたかも。


確かにあの喧嘩をした前でも、仕事を口実で彼と距離を置こうというのは事実だ。忙しいなのは本当だが、残業をしていないのに彼に噓をついた。一緒にいると、いろんなことでストレスを感じていた。周りが面白がっていた噂話にあった誹謗中傷、女子からの敵意満々な目線、彼が自覚なしの異性に対する人好し言動に嫌になって、押しつぶれそうな気持だった。だから、一人でこういうネガティブな気持ちをそれなりに消化しないと、彼に八つ当たりするかもれないことをしたくなかった。だから一人でいたかった、一人の時間が今まで以上に必要だ。


帰りの新幹線で彼の着信が何度も来たが、出る気はなかった。出ても話したくなかった。ただ家についた時、彼に安心させるためメールで「自宅到着」という四文字を送った。


あの日以来仕事がさらに忙しくなったので、丁度私たちの問題の解決を後回しした口実にもなった。


ようやく仕事が一段落したところもう2週間後のことだった。


この2週間の間はただメールでやり取りをしていた。肝心なことを触れなかったので、ただの挨拶か居場所や状況確認程度のものだった。会社で会っても、いつものように挨拶ぐらいした。まあ、彼は落ち込んでいたとは思わないぐらい、相変わらず女子たちの熱い視線を浴びていた、私なんかを構えられないだろう。


彼はその夜の態度について謝ったのは一週間後になったが、言った言葉に対しては同じ考えではなさそうだろう。私だって勝手に帰ったことだけに対して謝った、彼は多分これに対しても不満があっただろう。


このままは何も解決できないと思った。状況を打開しないといけない。


だけど、そうする前にまた事態を悪化させた事件が起きてしまった。

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