第12話 彼の視点 その3

あれから時間が過ぎて行った。今日は俺の誕生日で、そして俺たちの交際一周年記念日でもある。


一年前のこと、多分一生忘れられないだろう。


交際申し込みの際、また断られるだろうと思った。まさかのOKをもらえるなんて、その場で飛び上がりたいぐらい興奮した。いきなりキスされて顔が真っ赤になった彼女の顔を思い出す度に、今でもかわいいなあと思った。


この一年間は本当に人生の頂点に立っていたように幸せだ。


二人でいろんなところでデートしたなあ。映画館へ何度も行って、映画を見終わったら感想を話し合うことがとても刺激的で楽しかった。だって、今までこういうふうに感想を言える相手がいなかったからだ。彼女は大の映画好きだけど、ロマンス系とホラーだけは嫌がっていた。


夏は海を満喫していたが、彼女は水泳ができないので、残念ながら水着姿は今だに見たことない(笑)。星空の下、静かな夜の海辺で打ち上げ花火を見ながら、ラブラブな雰囲気に包まれた。


秋には紅葉を見に行ったし、家で旬の食材を使って料理もした。彼女は料理上手で、付き合い始めたころにはまだ分からなかった。一回体調を崩した時、彼女の手料理を初めて味わえて奇跡的な回復ができた。それ以来、何度もお願いして、彼女にいろんな料理を作ってもらった。俺は一人暮らし歴が長いから、ある程度の料理はできるけど、彼女のレベルは別格だ。料理を作ることが趣味で、料理教室にも通ったおかげで、簡単な和菓子も洋菓子もできるんだって。もし私たちが結婚したら、俺は確実に太るだろう。


特に何もせず、家でテレビ番組を見たり、別々で本を読むときもあった。彼女は写真を撮るのが好きで、外で散歩する時はいつもあっちこっちで写真を撮っていた。彼女の世界を見る目はとても新鮮で独特だった。俺にはそういう感性がないなあとつくづく実感した。


まさか、彼女を知る過程がこんなに楽しいのだなんて。まるで、底知れない宝箱の中を覗いてみた感じ?どんどん新しいことが発見できたし、驚いたり感嘆したの繰り返し。4歳年下の彼女はとても面白い人だ。


とても幸せな気分だけど、唯一の不満といえば、極秘交際のことだ。


俺たちは独身だし、もう30代の大人でもある。付き合っていることは別に秘密にしなくてもいいと思った。芸能人でもないし、不倫でもないのに、何で公表できないのか?俺は彼女を何度も説得しようが、帰ってきた答えはいつもこれだ:


「職場恋愛だから」


部署も違うし、俺の上司でもないのに?


「周りから好奇の目で私たちの行動に注目されるでしょう?噂の主人公になって、本当のこともうそのことも話題になる。私たちの間にこれから何かあったら気まずくなる。だから、公表したくないの」


理由は分かるけど、納得できない部分はあった。そもそも、何で俺たちの関係がうまくいかない可能性があるという前提なの?まさか、俺と長く付き合いたくないから、公表せずに周りに別れの理由を説明しなくて済むつもり?


そう考えるとどんどん不安になる。


大体、こういう心境って女性の方が多いんじゃない?よく聞くけど、男はいろんな理由で秘密の交際をしたいから、女を不安させるってこと。うちの場合は逆だ。俺の彼女は俺を隠そうとしている。


そういうことで、俺は一度も彼女の家に行ったことがない。彼女は大学時代の親友二人とシェアハウスで暮らしていて、男を家に入れないことを約束した。だから、その子たちも俺のことを知らない。彼女は彼氏がいるってことを言ったが、誰なのかは言ってない、写真も友達に見せない。なぜなら、親友の一人の彼氏もうちの会社で働いているからだ。そんな偶然があるなんて、想像もしなかった。


俺の家に彼女は朝まで泊まりなんか一度もなかった。どんなに遅くても自宅に帰るって、家に帰らないといけないって。最初の言い訳は着替えが欲しいとか言っているが、着替えを俺の家に持っていけば問題ないよね?それなのに、彼女は朝まで残らないし、俺の家にも彼女の所持品を一切残さない。


「会社の同僚があなたの家に来て、私のものだと気づいたらアウトですよ」


俺は秘密の交際は好きじゃないが、彼女と一緒にいられるなら我慢するしかなかった。


でも、我慢だけで何も解決できないって、それを知ったのはかなり先のことだ。

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