第10話 誕生日

彼と彼女の誕生日は同じく3月だった。彼の方は上旬で、彼女のは下旬だ。


彼は自分の誕生日の前に、彼女にあるお願いをした。その日に一緒にすごしてくださいって。


「一つのお願いがあるの、俺の誕生日に一緒に出掛けてくれるかな?」

「せっかくの誕生日なのに、他の人と一緒に過ごせばいいじゃないですか?家族とか、親しい友人とか」

「好きな人と一緒にいたい。だから、俺の誕生日プレゼントとして、あなたの一日をください、お願いします」


彼女は断りたくても断れなかった。あまりにも切実なお願いだから、彼の顔を見てどうしてもNOを言えなかった。


ということで、これは二人にとって正真正銘の初デートになった。


彼は待ち合わせ時間の30分ほど前、すでにカフェで彼女を待っていた。昨夜、時間をかけて服を選んでいて、カジュアルルックに決めた。白シャツ、同じく紺色のジャケットとジーンズ、そして黒のスニーカーで、無難なコーディネートだと思った。今日の日程を考えると、やっぱりフォーマルすぎる服装はふさわしくないと判断した。


彼はワクワクしながら、彼女の到着を待っていた。しばらくしたら、彼は彼女を歩いてきた姿を見かけた。


普段会社で彼女はいつも黒のスーツを着ている。他の女子と比べると、それは確かに華やかさがなく、地味とも言えるかもしれないけど、彼は別にそれはいいと思った。黒のスーツルックはいつもシャープで洗練されたイメージがあったし、彼女にはそれが似合うと思った。それに、彼女がもしドレスアップしたら、他の男子はきっと彼女に注目し、こうなったら彼にとってとんでもない迷惑だ。彼女のいいところは彼だけが分かればそれでいい。


今日の彼女は薄い紫色のセーター、薄青のジーンズ、そして黒のスニーカーを着ていた。いつも髪を頭の後ろにポニーテールスタイルで結んでいたが、今日は初めて髪を下した姿を見た。なかなか新鮮で、いつもと違う魅力を感じていた。


彼女はカフェの中にいる彼を見かけて、慌てて店へ向かって小走りにした。


「遅刻してすみません」

「いいえ、俺は先に来ただけで、それに今は待ち合わせ時間まであと10分だし。ちょっと水を飲んで一息ついた方がいいよ」


彼女はカバンから一つの箱を取り出して、それをテーブルに置いて彼に差し出した。


「まず、お誕生日おめでとうございます。これは誕生日プレゼントです。大したものではないが、気に入ってくれたらいいと思う」

「ありがとうございます。プレゼントはいらないって、言ったよね」

「手ぶらで来るにはちょっと違和感を感じて、やっぱり何かをあげないと」

「今開けてもいい?」

「どうぞ」


箱を開けたら、紺色の携帯ケースだった。


「携帯ケースがこの前に壊れたと聞いたから、色が好みに合うかどうかわからないけど、良かったら使ってください」

「大事に使わせていただきます、本当にありがとう」

「それで、今日は何をしたいの?」

「とりあえずここでブランチを食べて、その後はよこはまコスモワールドへ行く。赤レンガ倉庫で夕飯でも食べてから、散歩しながら夜景を見るつもり」

「細かく計画するタイプだね」

「今日は大事な初デートだから、準備しないといけないと思って」

「じゃ、スニーカーを履いて正解だった。たくさん歩きそうね、今日は」

「たくさん歩きそうだけど、今日の天気は散歩にしていいじゃない、寒すぎず風も強くないし」

「3月にして、結構暖かいね」

「ああ、言い忘れたことがもう一つがあるよ」

「うん?何?」

「今日の君はきれいだね。」

「…いきなりこれを言ってどうするの?」

「そのままの誉め言葉だけど」

「じゃ、いつもの私はブスってこと?」

「違う。今日はいつもよりきれい。普段はカジュアルルックじゃないから、あなたの別の魅力を発見した」

「よくこんなセリフを平気な顔で言えるね」

「あなた限定だから」


彼女はこれを聞いて、恥ずかしくて彼から目をそらした。逆に、彼はそんな彼女を見ながら、かわいいなあと思った。

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