第9話 侵略者

彼女は彼の決心を甘く見ていた。


そもそも、彼女は彼のあの「宣言」が本気だと思っていなかったので、もちろん彼の「攻撃」も予想しなかった。


同僚たちは会社の近くに新しくオープンしたスペイン料理の店で、食事会をしようとした。今回の参加人数は結構あったのに、彼は彼女のそばにある席をさりげなくゲットできた。やられたと思っていた時はすでに手遅れで、彼女は他の席へ移ることができなかった。


料理が出されたすぐ、彼は率先して周りの人のために、料理を取り分け作業を始めた。他の方の皿に一見平等に料理を盛り付けた後、彼はわざと彼女が好きな食べ物ばかりを選んで、彼女の皿に載せた。これに気づいた彼女はドキッとした。いつ、どこから自分の食の好みを把握したのか?彼の心遣いに感動した一方、彼女は同時にプレッシャーを感じていた。


そして、彼女の飲み物が無くなったら、彼はすぐ彼女のグラスに水を注いだ。いつもの彼なら、みんなに優しいし、気配りも上手だから、こういうことをしても、みんなに怪しまれない。だから、彼は周りの目線を気にせず、堂々と彼女のためにいろいろなことをしてくれた。


彼女は彼の意図に気づいたので、頭の中に「こいつは確信犯だ」という考えが浮かび上がった。彼の行動を止めさせようとしても、向こうは一切聞く耳を持たない姿勢を見せた。


「あなたは俺を好きじゃなくても、俺はあなたを好きになる権利と自由がある。そして、好きな人にやさしくしたいというのは、間違っていることだ」


本当に呆れる理屈だが、彼には一理あり、それで彼女は反論できなかった。


別の日の夕方、みんなでバドミントンをすることになった。彼はわざと彼女とダブルスを組みたいと言い出して、ポイントを稼ぐたびにハイタッチとかのスキンシップを自らしてくれた。周りの目を気にしていて、彼女は彼とペアを組むことを拒否する理由がなく、それで嫌々で一緒にプレイすることになり、挙句の果てハイタッチからも逃げることができなかった。彼は休憩時間に全員分のスポーツドリンクを買って来てくれたが、彼女の分だけは無糖のやつにした。周りにそれに気づき問い詰めたところ、彼はうまく適当な理由で誤魔化した。しかし、本当と言えば、彼は彼女がそのタイプの飲料を飲んだことを覚えていて、わざわざ彼女の好みに合わせてそれを買った。


この一連のアピールは彼女を非常に困らせた。いくら彼と距離を置きたい、彼のアプローチに応えないとしても、彼は相変わらず、ただまっすぐに自分の気持ちを表現した。だけど、彼はそれを利用して、彼女に自分の気持ちを必ず受け止めさせようとしなかった。


度重なる「攻撃」に対して、彼女は自分の決心が弱まっていくことを恐れていた。


この侵略者、侮れなかった。

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