第6話 宣言

彼女はああいう言葉をあんな話し方ですることは不本意だった。だけど、そこまでしないと、自分の決心は揺らぐかもしれないし、それで後戻りができない状況をわざと作ってしまった。


どうしてもここまでしなければならない理由があった。


昔付き合っていた男との関係はあまりにもひどい終わり方になってしまったので、彼女はそれ以来恋に対して悲観的な考えを持つようになった。その上、今の彼女は恋愛をする神経と余裕がないから、面倒なことにならないために、自分から彼との可能性を断ち切った方がいいと思った。


もちろん、こんな理由と背景を彼に説明する必要はなかった。


しかし、彼を傷つけたことに対して、申し訳ない気持ちもあった。


一方、彼は冷静になってから、この状況を何度も頭の中に整理しようとした。自分が焦りすぎたことは確かに良くないが、彼女の拒絶反応はちょっと行き過ぎたかなと思った。それに、どう考えてもここまで自分を嫌がっていた理由は見当がつかなかった。もちろん、こんなふうにされたことは気分が良くないが、今すぐ彼女に対する思いを断ち切ることもできないし、やっぱり彼女にこれ以上迫らないことを決めた。


あの夜から、二人は会社で会っても、まともな会話ができないまま、挨拶しか残らなかった。


転機が訪れたのは数週間後のことだった。会社の同僚が結婚パーティーを海辺の会場でやるから、みんなはそこに集まることになった。


彼は彼女と会うのを楽しみにしていた。いつも会社でしか会えないから、仕事服以外の姿を想像したくなるぐらいワクワクだった。しかし、彼女にとって、この結婚パーティーで彼と会うのを考えると、めちゃくちゃ緊張した。また声をかけられたら、どうやって対応するかを躊躇して、だから二人きりにならないように細心の注意を払っていた。


結婚パーティーの最中、彼女は息抜きをするために、会場を出て海辺にあるベンチに座った。目の前にあるのは真っ暗の海だけど、満月の光は水面上に反映され、何だか幻想的な雰囲気を作り出した。夜の海風はちょっと冷たいけど、ここの静寂さは心地がよく、会場から聞こえた歓声、音楽や歌声とはいい対照になった。大人数の集まりはやっぱり苦手で、彼女はいつもこういう場面にストレスを感じやすいから。


彼は彼女が出ていく姿を見て、どうしてもついて行きたかった。彼は後ろからしばらく彼女を見つめて、ようやく勇気を出して、彼女に近づくことを決めた。


「何をするの?」


彼女は突然の声に驚かされて、後ろを振り向いたら、彼に困惑した表情を見せた。


「どうしてここに?」

「さっき、出ていたところを見たから、それでついて来た」

「そうですか。でも何でついて来たの?」

「君と話をしたいので。だって、会社だと、そういう機会がなかなかないだろう?」

「別に話をすることはないでしょう、私たちは」

「俺はさあ、もし君に何か悪いことをして、君がそれを気に入らなかったら、先に謝る。ごめんなさい」

「別にそんなことはないから、謝らなくていいです。こっちこそ、あの日に言ったことは行き過ぎたと思うので、すみませんでした」

「そんな…俺は多分あなたに迫りすぎたかも、だからそういう反応が出てくるから、それについて反省する。でも、俺はあれからずっと悩んでいた。どうしてあなたの態度が急に変わったのか、でも答えを見つからなくて…」


彼女は彼から目を逸らし、また海の方を見つめた。


「あの…それを深く考えなくてもいいです。私は元々あういうふうに人と話すことが多くて、だから冷たい人間だなってよく言われますから。気分を損ねたことに謝ります、すみません」

「あなたの謝罪を求めたいわけじゃないから。それに、あなたは本当に冷たい人間だなと思わない。むしろ、わざとそう演じて、他人は簡単にあなたへ近づけないためにやったと思う」

「分かったような言い方で勝手に解釈しないで欲しい」

「理由は分からないけど、今すぐあなたに話させたいというつもりもないから、安心して」


これを聞いた彼女は黙り込んだ。


「だけど、俺ははっきり言いたいことがある」

「それは私には関係ないので、やっぱり会場に戻ります」


ベンチから立ち上がりたかったが、彼は彼女の手首を掴んで、彼女を引き留めた。


「あなたのことが気になりすぎて、どうしても頭から離れない。いつから好きになったかは分からないけど。もちろん、君には俺の気持ちを受け入れない権利がある。ただ、俺はまだ諦めたくない。これから、俺の気持ちをあなたに伝えたい。これだけを君にはっきり伝えたい」


この宣言を聞いて、彼女はしばらく何も言わなかったが、自分の手を彼から離した。


「時間の無駄だと思いますけど」

「無駄かどうか俺が決める」

「勝手にすれば」

「俺はそう簡単に諦めないタイプなので、覚悟してください」


これを聞いて、彼女は振り向かずに会場へ向けて歩き出した。同時に、彼は彼女の後ろ姿を見て、自分が言いたいことが言えたので、満足そうに微笑んでいた。

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