第2話 初「デート」

映画館へ行く道はそれほど遠くなかった。


電車で行くと、たった三つの駅の距離で、駅から映画館まで歩くの時間を加算すると15分しかかからなかった。彼は彼女のそばでうろうろしていたが、彼女の周りは他の同僚が常にいて、中々近づくことができなかった。彼女も彼の存在を近く感じていたが、自分からアプローチするどころか、見て見ぬふりをしていた。


あの中途半端な自己紹介以降、二人の会話は続かなかった。映画を見に行く同僚の数は10人で、二人きりで話す機会が確保できなかった。そして、みんなの席は同じ列にあったため、彼と彼女の席の間は5人も挟んでいて、会話するどころか、うす暗い映画館内に彼は彼女の顔すら見えなかった。


ようやく映画が終わって、みんなで夕食を食べにいった。彼は素早く彼女の前の席に座って、やっと彼女と話す機会を手に入れた。


「さっきの映画はどうでした?」

「予想以上に面白かったが、ちょっと長かったです。あなたはどう思いましたか?」

「会話が多すぎで、ついていけない部分もありました」

「そうね、ところどころは字幕に追いつかない感じがありました」

「あなたはよく映画を見に行きますか?」

「面白いものがあれば行きますけど。普段は時間がそんなにないけど、レンタルとかテレビで見るのは多いですけど」

「結構忙しそうですね。それで、どんな映画が好きなんですか?」

「ちゃんとしたストーリーがあって、考えさせられるテーマとか、サスペンスとか、人生の課題とかいろいろ見れます。ホラーとコメディは苦手ですけど」

「仕事で結構頭を使うのに、映画を見るときぐらい楽なものの方が選んだほうがよくないですか?」

「みんなの好みはそれぞれですけど、ただ個人的に映画を見終わったら何かを得られる方が好きなだけです。まあ、みんなの映画の楽しみ方って分かれますから…」」

「そうですね、違う視点から物事を見えるのはいいですね」


短い会話だったが、彼は彼女との距離を少し縮めたことでウキウキした。その反面、彼女は彼から積極的に話をかけていたことにちょっと困惑した。元々ほぼ初対面の人とすぐに仲良くなれるのは苦手だし、そして彼は自分だけにそういう態度を取っていたことにもプレッシャーを感じていた。彼女は彼の質問に答える時、いつもより慎重で、そして中々本音を言わないようにわざとしていた。


しかし、食事後みんなで駅の違うホームへ向かおうとした時、彼が彼女との帰り方向が同じだったことが分かった。彼はこの千載一遇のチャンスを絶対逃がさないと思って、電車を降りるまでずっと彼女と話をしていた。彼の提案でお互いのSNSをフォローして、自分の駅に到着した時、彼は惜しみながら彼女と別れた。


この夜の展開、ある意味予想外だが、いろいろな収穫ができて、予想以上にとても楽しかった。

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