ゆるやかな10月末日

城崎

1031

「トリック・オア・トリート!」

「にゃわー!?」

 突然の来訪者にめちゃくちゃビックリしてしまった。

 そうか、今日は確かにハロウィンだ。けれど、この言葉を言われることがあるとは思っていなかった。というか、この言葉を現実で言う人がいるなんてことをこの歳になるまで知らなかった。

 私の世界にも実装されていたのか、ハロウィンってやつは……!

「お菓子ちょーだい!」

 目の前の彼女は、手の平をこちらに見せてお菓子を催促してくる。その白さと小ささが産み出すなんとも言えない「カワイイ」に何だってあげたくなるけれど、彼女が今求めているのはお菓子だ。ハロウィンの存在を都市伝説だと思っていた私が、お菓子を持っているわけがない。

「も、持ってない……」

「え!?」

 驚きというよりも、もはや悲鳴だった。

「持ってないの……?」

 この世の終わりを見たとでも言いたげな声だ。そんなに期待されていたのに、何も出せない自分が惨めだ。

「い、今から一緒に買いに行こう!」

「今から……?」

「うっ」

 どことなく嫌そうな顔だ。お菓子がないのも嫌だけど、今から用意されるのは違うってことなんだろうか? 

 よくわからない。難しい!

「け、ケーキでもいいよ! ショートケーキとか! チョコとか! なんでも!」

 とりあえず、彼女が喜びそうな提案にしてみる。

「えっ! いいの?」

 一気に彼女の顔に笑みが浮かんだ。

 良かった! 彼女にとっても、良い提案だったみたいだ。早く行こうよと、手を引かれる。あわてて近くにあったバッグを手にとって、近くのケーキ屋さんを目指す!

 ……そういえば、トリートは良かったのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゆるやかな10月末日 城崎 @kaito8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ