第11話 馬飼琉助 part2
警察署に御呼ばれして、事情聴取を受けることになった。
どうやら犯人はネット掲示板で集まった一人らしく、これから第二陣が来ることも分かった。
警察には犯人を捕らえるために囮になってくれないかと提案を受けたので、『喜んで』と、軽いノリでその提案を受けた。
最初の襲撃者曰く、主犯格のユーザーが俺の家の住所や学校の名前をマスコミにリークしたらしい。
そんな事をして被害が無い者は限られてくる。
その中で、掲示板をしている奴となると、犯人は琉助だろう。これはあくまでも俺の仮説に過ぎないから、警察に言うことはなかった。これは単に違ってほしいからという幼稚な理由もあっただろう。
最悪の場合俺には妖気法がある。妖気を纏うことがまだ完璧ではないが、相手がおっさんクラスではないなら問題はないはずだ。
やっと警察署から解放されて、家に帰れた。帰り際に警察官の一人から小型の発信機を預かった。何かあったら、ボタンを押せば警察に居場所が伝わるらしい。
「よぉ、琉助。今日は来ないんじゃなかったのか?」
家に着くと門の前にコンビニのビニール傘を差した琉助が立っていた。どうやら、本当に琉助が関わっていたらしい。
紺色のトレンチコートに身を包んでいる琉助は真っ直ぐ俺を見据えてこう言ってきた。
「あー、昨日お前の家に忘れ物しちまってな。取りに来たんだが、お前が不在だったから、待ってたんだ。何かあったのか?」
「いやー、晩飯買いに行こうと家を出たら、家に空き巣に入られたみたいでな、今、警察のとこ行ってきた」
それをきてもさして驚くことはない様子。
昔から感情を押し殺すのが得意だったもんな琉助は。こんな事では動揺するはずがない。
「そうか、家の掃除手伝おうか?と言っても俺の忘れ物探すついでな」
「マジか!それはありがてぇや」
そうして琉助を家に上げた。
玄関に手稲に靴を並べて、リビングに通した。
「こりゃ、ひでぇな。ガラスとかどうなってんだ」
窓ガラスは応急措置として段ボールとガムテープで塞いでいる。
床などは軽く拭いたが、壊れた家具や壁は直せるはずもなにので、そのままだ。
「うわぁテレビとかばきばきじゃねぇか。映んのこれ?」
「一応は点くぜ画面は映らないけどな。音声だけだ」
「そうだな、可哀そうだから。飯作ってやるよ」
あの男はキッチンまで行っていないので、そっちはほぼ無傷だ。
まるで、この時のための伏線かのように。
琉助はものの数分で晩飯を完成させた。料理中はずっと見張っていたから、怪しい行動はしていない。
晩飯はチャーハンを筆頭にした中華定食だ。ご丁寧にレンゲまで付いている。
だがどこか怪しい、食べるのを躊躇していると琉助も同じ定食をもって机に着いた。
「おいおい、毒なんて入れてないぜ」
そういうと琉助は自分のチャーハンを食べて見せて、安全だと証明した。だが、口を滑らしたな。
「何だよ、毒って?」
ここは追及してみよう。
「だって、夕方の襲撃は俺が仕込んだんだぜ。お前なら警戒すると思ってな」
「ッ!・・・・・・・・・」
琉助があっさり自白した。
「どういうことだよ。それは!」
俺は机をバンッ!と叩き立ち上がった。
「いいから先に飯食えよ。冷めたら不味いだろ。話は後だ」
「本当に入ってないんだよな?」
「ああ、食べ物を粗末にするのは嫌いだからな」
そうか。と一言言ってレンゲでチャーハンをすくって口に入れた。
「ッ!」
「どうした?」
琉助がニヤリと笑って聞いてきた。
こ、コイツ。
「美味い。滅茶苦茶美味いなこれ!」
正直、凄い美味い。
「だろ?」
その後、数分もしないうちに二人して完食した。
洗い場に食器を置くと、琉助が口を開いた。
「さてと、話そうか。面貸せよ」
「いいぜ。どこ行く?」
俺もそれに付いて行き、玄関を出た。
「あそこに行こうぜあの公園」
「ああ、あの公園だな」
共に並んで道を歩く、傘に雨が当たる音がパチパチと鳴るがそこまで強くない。
あと一時間もすれば晴れるだろう。
「そこにお友達は居るのか?」
「誰も呼んでいないぜ。一人捕まったら、ビビッて来てない」
あっ、それも知ってんのね。
「まぁ、それはそれでちょうど良いや」
琉助はどこか落ち着いた様子だ。
何かの覚悟を決めているかの様な。 いや気のせいか?
「自分の犯した罪は結局のところ、自分でしか責任取れないからな」
琉助はボソリと何かを呟いた様だが、雨音のせいで上手く聞き取れなかった。が、もう一度それを聞くのも野暮だろう。
その後は幾つかの雑談を交わしながら、俺たちは例の写真の撮影場所に到着した。
「着いたぜ琉助。話ってなんだよ?」
俺をこんなところまで連れて来たんだからそれ相応の理由があるのだろう。
「・・・・・・・・・」
琉助は俺の声に無反応でただ背中を向けている。
その背中からは悲壮感が漂っている気がした。
だから俺は再び尋ねた。
「教えてくれ、お前の心の本音を」
親友とのはじめての対話が始まった。
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