第12話 親友 part1

俺だって昔は普通の家庭として仲の良い家族だった。

 

 父は中小企業の社長として、少しばかり裕福と言っても差し支えない家庭だった。

 そんな生活をしていたある日、俺の家の隣の東京から引っ越してきたのが、お前だったよな、たける

 それからだ全てが狂い始めたのは。



 ##############



 ポツポツと雨が降る中で、二人の少年が向かい合ったとさ。 

 一人は目を離さず相手を見据えて

 一人は目を相手から背けて。


 雨のせいで凍りつく空気の中、琉助はポケットから小さな箱とライター取り出した。そして、その箱を開け中から小さな紙でできた筒を抜き出し、それを口に運び咥えた。


「知ってるか?大人の味って、俺たちが思っているより不味いんだぜ」


 咥えたそれにライターで火をつけながらそう言った。筒の先から出る白い煙は弱々しく真冬に吐く白い息のようにも映った。


「なんだよ急に」


 なんの脈絡もないセリフに咄嗟に返した。


「俺はこの味が嫌いだ。そして、それと同じようにお前の事がずっと昔から大嫌いだった。だから、お前の両親が死んだって聞いて、どう思ったと思う?喜んじまったんだよ。ひでぇよな、最低だよな。小さい頃に勝手に憧れて勝手に嫌うなんてさ」

 

 その言葉からは様々な琉助の中の様々な感情が読み取れる。それぐらいに俺は琉助の事を理解しているつもりだった。でも、違ったみたいだ。長い付き合いだった琉助の心情を俺は勝手に理解しているつもりだった。だから、さっき俺の読み取った事は実際の意味ではないのかもしれない。だから、少し悩んだ末に聞き返した。

 


「・・・・・・・・・。それがどうした」


「人として軽蔑してくれよ。頼むよぉ。なぁぁ」


 物乞いするように頼んできた。

 それはまるで、飼い犬が飼い主に餌を求めるように。なぜだろう?それは琉助の本心にはどうも聞こえなかった。

 

「そんな話を言いたいから、わざわざこんなことをしたのか?」


 俺はそう尋ねた。俺が話したい事はそんなことではない。今のが、本心でないと信じたいから。


「いつもそうだよな。お前は、お前はいい奴すぎるんだ。いい加減、俺を殴れよ!蹴れよ!頼むからよぉ。俺に罰を与えてくれ!」


 琉助は傘を投げ捨てて言葉を叫んだ。

 雨が当たり火のついたそれは自然消化され、地面に落ちた。それを琉助は思いっきり踏み躙った。

 その眼からは雨か涙か分からないが、水滴が零れ落ちた。


「教えてくれ琉助。お前の本音を、今までのような皮一枚みたいな薄っぺらな対話ではない。芯のある言葉を俺に言ってくれ」


 俺も傘を地面に放り投げて、駆け寄ろうとした。


「俺に、俺の心にこれ以上近づくなぁ!お前に許されることを俺が許してないんだ!」


 近づく俺に対し、先程の要求とは逆に琉助は蹴り飛ばし突き放した。

 

「近づかなきゃ、話せないだろ!」


「近づくなって言ってんだろ!」

 

 再び近づく俺の顔面をに琉助は殴り飛ばした。

 だが、俺はもう一度歩み寄る。


「そうやって逃げるのかよ!」


 深く一歩一歩進む。

 湿った地面にその足跡を刻みながら。


「お前が、お前がァッ憎い!俺にないもの全てを、全てを持ってるくせにどこか人間臭いお前が憎いんだよッ!ずっとずっとずっとずっとーーーーオッ!」


「それでも、俺はお前の親友だッ!」


 俺が地面に刻んだ足跡はもう雨程度ではもう消えない。

 

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