第7話 妖気法 part3
「ぜぇ、ぜぇ、疲れた」
あれからめっちゃ走った。一周が四百メートルある公園を十周はザ・不健康児には辛い。
「で、汗の感覚分かった?」
「ええっと。なんとなくは」
もう走りたくないから、嘘をついた。てか、早く先に進めろよ。
「なんとなくか~。なら、 もう一回同じコース行ってみよう!レッツゴー!」
「は、はい」
クソが。
そうして、合計2時間ぐらい走り回った。
「もう、無理です。脚がパンパンです」
俺は地面に仰向けになりながら、限界を告げた。
「そうか、では、ここいらで一回、草に妖気を送ってみよう」
もう何でもいい。やってやるよ。
そう言われて、俺はゆっくりと起き上がって、草をむしり握った拳に力を加えた。汗をかくイメージ。すると、瞬時に草が朽ちて消滅した。
「で、出来た。やったー!」
俺は両腕を広げて大きか喜んだ。なんか、初めて自転車に補助輪なしで乗れた気分。
「は、早い!遅くても三日は日はかかると思ってたのに。」
どうやら、すごく早いらしい。これって才能があるって事で良いんだよな?良いんだよね?
「じゃあ、次のレッスンに進もう。レッスンツー妖気を無機物に纏わせてみよう。このことは戦いにおいて、最も重要な役割を果たす。」
おっさんがポケットからいきなり木刀と金属バットを取り出した。
てか、明らかに容量ガン無視してんじゃん。四次元ポケットかよ。
「えっ、どこから?」
「ああ、コレか?知り合いの妖気法使いの弟子に頼んで収縮してもらった。どこでも携帯できるようにな」
もはや何でもありだな。
そのうち、意味の分からない能力出て来ても、おかしくないぞ。このままでは。
「とりあえず持ってて」
金属バットを渡された。俺は持ち手をしっかりと握り縦方向に構えた。
おっさんは木刀を構えてそれで切りかかって来た。
木刀の刀身が金属バットに当たるや否や金属バットが真っ二つに切り裂かれた。
「妖気を纏った物は拳以上の強烈な破壊力を生む。しかし、その為には直接、触れる事が大切だ」
つまり、銃のような銃弾に触れることの出来ない遠距離武器には使えず、弓ぐらいになら纏う事はできると言う事だ。だが、木刀でさえこの威力だ。相当使い勝手がいいのだろう。
「使い勝手がいいと思うなよ?自分に纏う以上に物にするのは至難の技だ。まずは、しっかりと自分の体に妖気の纏い方を叩き込む。とりあえずは、今日はここまで、あとは、自宅で練習しなさい」
どうやら、今日はここまでの様だ。おっさんは身体を翻して、去ろうと歩き始めた。
「はい。影村さんはどうするつもりですか?」
「ワシはちと用事があるから、今日はお別れだ。これワシの連絡先ね。何かあったら連絡してくれ」
電話番号とメールアドレスの書かれた紙を受け取ると、何処かへと去っていた。
そのとき、携帯に着信が来た。どうやら、琉助から電話が来てたらしい。
『お前どこにいんの?家の鍵も閉まってるし』
何、世界では俺の家は空いている事が前提で進んでいんの?俺にはプライバシーは無いんですか。おっさん然り琉助然り、勝手に俺の家に上がれると思っているの。
もういいや。一々気にしていたらキリがない。
「すまん、少し運動しに公園行ってた」
素直に答える事にしよう。そうすることに損は無いはずだ。
『運動?まぁいいや、元気出たか?』
「バッチリだ。今から帰るから、少し待ってくれ」
そもそもそこまで凹んでいないし。まぁ、奇妙な体験が出来た事で中卒人生に対する元気が出た。
『了解だ。昼飯何がいい?』
それを聞くや否や昼飯の質問をされた。いやいや、既にメニュー決まっているくせに。琉助がこういう質問する際には模範解答は用意されていることが多い。
「何でも良いぜ。美味かったらな」
ならば、これが正しい回答だな。
『つまらない奴。もっとユーモアのある回答しろよ』
そう言って電話が切れた。何なんだよアイツ。でも、昼飯が楽しみだ。
熟年の夫婦のような通話を終えて、帰路に着いた。
家に帰るとあの記者の名刺がポストに入っていた事に気付いた。俺は渋々、それを回収して家に入った。
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どうやら能力はうまく機能していたようだな。
影村寿雄はそう考えながら人混みの中に消えた。
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