第6話 妖気法 part2

「何で、歩いて来た俺の方が早く着くんですか?」


 俺が公園のベンチで休んでいるとおっさんがようやく到着した。


「ぜぇ、ぜぇ、いやー、迷っちゃった。テヘ」


 俺の予想通り、知らなかった。それに凄く息切らしてる。

 俺が公園に着いてから、三十分くらい待ったのに、走り疲れたとか言って帰んないよな?


「ぜぇ、ぜぇ、もう、疲れたから、ぜぇ、帰って良い?」


 舐めてんの?

 俺の脳を読んだみたいな発言怖いからやめて欲しい。


「と、冗談はさておき、それでは妖気法について説明しよう」


「お、お願いします」


 おう、なんだか緊張して来たな。


 おっさんは、徐にポケットから野球の硬式ボールを取り出した。

 それを空中に放り投げると同時にそれを殴った。普通に飛んで行った。

 俺は関心があるように見えるように「おおぉー」と棒読み気味でいいながら接待ゴルフみたいな拍手をした。


「このように、普通のパンチじゃボールは飛んでいくだけ。でも」


 再びポケットから同じ物を取り出し、先程のように空中に放ってそれを殴った。

 

 先程とは異なりその場でボールが粉々に弾け飛んだ。


「えっ!」


 思わずビックリして声を上げてしまった。


「このように、妖気法とは基本的に妖気を身体に纏う事で身体能力を上げるモノだ。妖気とは通常の生物には感知する事が決して出来ない物質のことだ。感知出来ない故に原子番号も存在しない。本当に未知の物質だ」


「え?でも。あなたは感知できるのですよね?」


「無論、出来ない」


 じゃあ、何だよ妖気法使いって。見えないのに使いって言えんのか。


「え?じゃあ、どうやって」


「感じられなくても、普段の生活で人間は妖気を蓄えているのだよ。妖気は物の性質や見た目を変化させる事ができる。例えば、生物の体が年老いて衰えるのも妖気のせいだ。知っての通り生物には寿命があるだろう。それというのは、それぞれ生涯にかけて溜め込める量が定まっているんだ、それがマックスまで行くと生物は死亡する。寿命ってのはこういう原理ね。でも、このルールには抜け穴があるんだ。それが妖気法だ。何故なら、溜め込んだ妖気を消耗することで使用するからね」


 なるほど、結構難しい話だな。気をを引き締めよう。


「次に妖気法が生まれた経緯を解説するけど、ことは弥生時代まで遡る、その時代の女王が老いを恐れていたらしく、そのタイミングで大陸からやって来た渡来人が永遠に近い若さを得ると言われる秘術を日本に伝えたんだよ。これが後の妖気法ってわけ」


 改めて学校の先生の板書がいかにありがたいモノだったのかが分かった。

 ありがとう、花棚先生。


「ここまで聞いて君は妖気法使いになる気があるかい」


 復讐とかには興味ないけど学校も無くて暇だから付き合うか。


「お願いします。師匠!」


「し、師匠か〜、照れるなぁ〜。でも、今後は禁止ね。ワシの弟子は1人だけだから」


 それはよく分からないがまぁ、いいか。


「よし、じゃあ始めよう。レッスンワン、妖気を身体に纏う感覚を覚えよう。コツとしては、少し曖昧になるけど汗を出す感覚かな」


 本当に曖昧だった。てか、逆にイメージしづらいんだけど。


「とりあえず、やってみます」


 まぁ、物は試しだ。拳を力強く握り集中した。


「おおー、凄いぞ」


 その様子を見ているおっさんのテンションが急に上がり始めた。

 俺って案外才能あるのかも。


「出てますか?」


 俺は少しウキウキでおっさんにそう尋ねた。

 心なしかテンションも上がってる気がする。コレが妖気法か。


「いや、さっきも言ったけど見えないから何とも言えん」


 その一言でテンションの株価は一瞬で崩落した。

 じゃあ、何が凄いんだよ。無駄な期待させやがって。ボケたウザい師匠キャラかよ。

 こういうのって中盤に見せ場が出てきて人気上がるが、現実だったら普通にウザいからな。


「なら、黙っていてください。集中してるんで」


「うーん、そうだな、良い方法教えよう。その辺の草を取って拳に力を入れてみて。原っぱの草は人よりも生命の循環が早いから、出ているか分かりやすい」


 そういう事はもっと早く言って欲しいモノだ。

 有能と無能がホームシェアしてんかよ。


「分かりました」


 言われるがままに、公園の草を抜き拳の中に力を込めた。

 しかし、何も変化は起きなかった。


「まぁ、最初から出来るわけないから、徐々に出来るようになれば良いよ。あと、少し説明したい事があるから本格的な練習はそのあとね」


 おっさんが軽く咳払いをしてから目の鋭さを変えた。口調も厳しいものへと変わった。


「話は一番最初に戻すが君の復讐つまり鬼を殺す事にどう繋がるのかだけどね。それは簡単だ。鬼は人間よりも遥かに強い。だから、ただ纏うだけでは倒せない強者も存在する。その為の能力だ」


 いや、別に復讐には興味ないんですが。まぁいいか。

 徐ろにおっさんが右の掌にある瞳を再び見せてきた。

 

「この瞳にはその場所、人物の過去を見る事が出来る能力が備わっている。だから、家の過去の映像を再生し、君の両親について知った」


 何回聞いてもあまり強そうには到底思えない。


「その力がどう関係するんですか?あまり戦闘には役に立たなそうですけど」


 おっさんは軽く咳払いして講義を再開した。

 自分もそう思っているのだろう。


「バトル漫画とか読む?ワシはああいうのは読まないけど、大抵はみんなバラバラの能力があるでしょ。ワシは百年前に妹を殺した犯人を突き止めるためにこの能力を作っただけで、戦闘向きの能力を持つ人もいるよ」


 ゴクリ、と唾を呑み込んだ。能力の世界ってやっぱ奥深いんだな。

 だが、その前に一つ気になった事があった。


「え?百年前」


 いや、明らかにおっさんの見た目は四十代前半だ。

 そう尋ねるとおっさんの目が優しくなった。


「そうそう、言い忘れてたけど妖気法は使えば使う程に寿命が伸びるよ。理由は分かるよね。だって、老いの原因を消費し続けるんだもん」


 また、目を鋭くした。忙しいなこの人。


「この妖気法には一つ欠点がある。それが今日、最後に教える事だ。この力を使い続ければ、ワシのようにいずれ人間ではなくなる」


 人間を辞めるぞぉーーーーーッ!ってこと?そんな奇妙なセリフは漫画でしか聞いた事がないぞ。


「どういうことですか?」


「この手のように、いつか能力が肉体と融合する。そんな者を人と呼べるか?それをあやかしと呼ぶ。ワシらの見解では鬼たちはその妖となった者の子孫だと考えているよ」


「俺もそうなるんですか?使っていれば、いつか」


 俺自身も使い続ければ人ではないモノになってしまうのだろうか。

 その事を聞いてとても怖かった。


「能力にもよるが、ワシのぐらいのでも百年での変化は掌だけだ。君が作る能力にもよるとしか言えない。最後にもう一度聞く。それでもやるか?」


「やります。教えてください」


 どうせ、そこまで教えたんなら。やるしか選択肢なだろ。なら、怖いがやるしかない。

 それに特殊能力には憧れる。


「じゃあ、まず妖気を纏えるようにしよう。そのためには感覚を覚えるのが大事。まず、汗の出し方を覚える為に、この公園を10周してみよう。ワシはあそこのベンチで休んでいるから」

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