第5話 妖気法 part1
「間に合ってます」
インターホンの先に現れた男は、どこか宗教勧誘のそれに近い君の悪い印象がある。生憎さま、俺は宗教を信じていない。健全な日本人だ。そういうことはお断り、すぐさまにインターホンを切った。しかし、すぐさまインターホンが鳴った。もう面倒臭いな。
「何なんですか。貴方は?」
「えー、また言うの?しょうがないな。ワシは影村寿雄と言う」
おっさんは、若干面倒くさそうに最初から名乗ろうとした。
一々ダルイな。もぉ。
「違います。目的の方です」
同じことを繰り返すな、お前はゲームのCPUかよと心の奥でツッコミながら、本当の目的の方を尋ねた。
「ワシは、君に復讐の仕方を教えに来たんだよ」
やっぱり宗教の勧誘じゃねえか。
そういうのには興味が無いんだよ、マジで。
「は?キモッ」
割かし強めの口調で突き放した。これでまだ来るなら多分ドマゾヒストだな。
そうして、また、通話を終わらした。
「おや?鍵が掛かってないぞ。それでは、おじゃましまぁーす」
どうやら琉助が閉め忘れたらしい。
そのことに気付いたおっさんは家に勝手に入ってきた。
「貴方を不法侵入で訴えます。刑務所にぶち込まれる。楽しみにしておいて下さい。良いですねッ!」
白いスーツに赤いネクタイ、そして変な帽子をした奇妙な格好のおっさんは不法侵入するないきなり家のキッチンを勝手に漁りだして、優雅に紅茶を飲み始めた。
「まぁまぁ、落ち着いて。紅茶飲む?」
おっさんはそう言いながら、俺にポット夫人型のティーポッドを見せてくる。
てか、何故ポット夫人?確かに母さんはディズニープリンセスで美女と野獣が一番好きだけど、それは初めて見る。
「いや、早く出て行けよ。てか、それウチの紅茶」
俺の言う事を無視しながら、おっさんは再び紅茶を口に運んだ。
「熱つ!ワシ、アイスティー派なんだよね。でも、郷に入っては郷に従えと言うし、君の家では熱い紅茶を飲む。それがマナーだ」
キリッとした眼で、こちらを向いているが、何だろう?物凄く腹立つ。
「マナーを遵守するなら、人の家に勝手に上がるな。聞いてんのか、てか、何でウチでは熱い紅茶を飲むのを知ってんだ?俺は紅茶飲まないぞ」
俺は健全な日本人として烏龍茶が好きだ。緑茶と紅茶は飲まん。茶色とも言うし、お茶は茶色のしか飲まない。
「それは、君のご両親がそうしていたからだ」
それは故人を悲しむような瞳をしていた。
「両親の知り合いでしたか、では、先程の失礼な態度申し訳ございませんでした」
そうならそうと、先に言って欲しかった。
紅茶を飲み干したおっさんがそっと口髭を親指でなぞると、妙な事を言った。
「いや、ワシは君の両親とは会ったことも話したこともないぞ」
えっ、どういう事?
こんなに日本語って難しいっけ?日本語検定三級持ってる俺でもイマイチ今の意味が分からん。
「え?じゃあ、何で両親がそうしてたと思ったんですか?」
「勘ってやつ?てか、基本、紅茶って出来立てもあったかい方が良いよね。」
は?舐めてんのコイツ?
さっきから人を馬鹿にしてるだろ。
「この家から出ていけッ!」
堪忍袋の尾が発展途上国の奥地の吊り橋のロープばりにキレそうになって、俺はとうとうブチ切れてそう大声で叫んだ。
「と、冗談はさておき。本当はさっき見たんだ。この『瞳』でね」
そう言うと、男は右の掌を開いてこちらに見せてきた。
おっさんの掌にはなんと『瞳』がついていたのだ。そして、その純粋とはかけ離れた不気味な『瞳』が俺を真っ直ぐ見据えながら数回、瞬きした。
あり得ない事象を目撃して声も出ず、その場で腰を抜かしてしまった。
「な、な、何なんですか?貴方は?」
「もう一度言おう。ワシは影村寿雄。日本に多分三人しか居ない。・・・・・妖気法使いの継承者じゃよ。山門健くん」
そう言うと、また掌の『瞳』が瞬きした。
「妖気法使い?なんですか、それ」
家にある広辞苑にも載ってないであろうワードに俺の好奇心がくすぐられる。
「簡単に言えば、妖気を扱う事が出来る者のことかな。詳しくは、実演を踏まえて話したいから外に行かないかい?」
「何でですか?面倒臭いんですけど」
興味はあるがこの時間に外に出るのは非常にダルイ。だってまだ夏の残火が、暑いし。
「ちょ、ちょ、ちょっと。そこはぁ、話を聞くとこでしょ!」
急に縋って来たので渋々受けることにした。
この人の正体とか少々疑問に思うが、後で分かるだろう。
「分かりました。少し待っててください。着替えて来ます。今、パジャマなんで」
「それパジャマだったの!いや〜最近の寝巻きはオシャレだね。あ、動きやすい服装にしてね」
急いで上に上がって部屋のタンスを漁り動きやすい格好に着替えた。
まだ、暑いので、辞めた高校の指定体操服を着ることにした。なんか恥ずい。
それに、警察に補導されないかしら?
あとは、あの口ぶりから運動するかもしれないから、動きやすいスニーカーを履き外へ出た。
外に出ると太陽がだいぶ上って来ていた。
腕時計が指し示す時刻は十時で、季節は秋よりだが運動を始めるにしては少し遅いかな?
「家の鍵閉めた?泥棒が、ワシみたいに入っちゃうぞ」
外で待機していたおっさんが、冗談ぽっく言うが、最近の例から否定できない。
「安心してください。こんな時間から人の家に勝手に入るのあなたぐらいです」
が、この街に悪い人は居ないと心の底から信じたいので、おそらく部外者のおっさんだけ、強めに当っとく。
「と、とりあえず、あの、ここいらで一番広い公園行こ。競争でね。よーいどんっ!」
言い返されたことにことで焦ったのか、おっさんは慌てて話をすり替えた。
まったく騒がしいおっさんだよ。そしてそのまま、走り出してしまった。
「まっ、待って」
俺も慌てて手を伸ばして引き止めようとするも、もう手遅れで、
「競争に待ったはなーい。そう言ったやつから遅れていくのです」
そう言いながら猛スピードで走り去っていった。
陸上のオリンピック選手もびっくりな速度を出していた。まぁ、そのことはひとまず置いておいて。気になる事が一つあった。
「あのおっさん、公園の場所知ってんの?」
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