第3話 山門健 part3

校長室の壁には歴代の校長の写真が飾られている。

 何というか重苦しい空気が流れている。校長先生と教頭先生を正面に右に花棚先生、左に福田先生に挟まれて精神的にも重苦しい。


「つまり退学ってことですか?」


 俺の疑問に教頭がゆっくりと口を開いた。

 その相手の名は、読売太陽よみうりたいよう。俺とも少なからず因縁のある人物だ。

 彼は三十七歳の若さで教頭になったエリートだ。教頭になる方法は知らんでも、若いしエリートだろう。

 いつもと同じ灰色のスーツに赤いネクタイをしっかりと締めている。確か、それらは娘さんが小学生の頃に彼の誕生日に奥さんと一緒にプレゼントしたものだったはず。いつも綺麗に丁寧に自分でアイロン掛けしていて、十年前の物なのにほとんど劣化しておらず、あの頃と何ら変わりない。


「違うよ。校長先生の知り合いの私立で全寮制の高校へ転校したらどうかな?って言っているんだ」


 そう言って教頭は机の上にある高校のパンフレットをコツコツと突いた。

 普段は生徒に対して優しい教頭のこの行動を見た、後ろのスキンヘッドが凄く進んでいる眼鏡の校長がビクついている。

 同じく、俺の両隣の先生たちにも冷気に近い緊張感が走った。


「言葉を変えているだけで本質は何も変わってないないですよね?つまりこの学校をでてけていう意味ですよね」


 言葉は丁寧にだが、強い言葉で返した。はいはい、若気の至り。


「これは君だけの問題ではないんだよね。今朝の記者たちが来ていたように君がこの学校に在籍しているというネットに上がってしまっている」


 教頭は自身の携帯電話で匿名のネット掲示板の画像を見せてきた。

 そこには、俺だけでなく学校に対する誹謗中傷までもが書き込まれていた。一人に関しては、凄いくらいに俺に対する悪口を書いている。俺この人に何かしたっけな?


「・・・・・・・・・」


 それらの書き込みを読んで、思わず絶句してしまった。

 何故なら、これらが人間と言う生物の悪意だけを抽出したようなドス黒いものだったからだ。いや、でもさぁこれいくらなんでも酷すぎない?


「本来なら、先に親戚にアポイントメントを取るべきだったが、何せ君には親戚が一人も残ってないではないか。それにこれは最大の譲歩だ。本来なら自主退学を促すつもりだったんだが、わざわざ転校先も用意したんだよ」


 なるほどな。学校側から退学させた場合は学校のイメージを落としてしまうっていう事か。

 この人の考えは昔から理解しているつもりだ。ここまで用意したってことは断ってもセカンドプランが出てくる可能性がある。


「既に悪戯に他の生徒の個人情報をネット上にあげる輩も現れた。もう一度聞きくが、転校してくれるか?」


 次に別のサイトも見せてきた。

 そこには俺とは舞った関係ない生徒に対しても誹謗中傷が書き込まれていた。何、インターネットはいつから世紀末になったの?


「既に君だけの問題を超えてしまっているんだよ。君なら分かってくれるよな?」


 俺は机に置かれたパンフレットを手に取った。中身に軽く目を通した。

 どうやら普通の学校のようで最新の設備まで整っているようだ。だが、その学費は私立という事だけあってとても高い。


「僕の現在の所持金じゃあ、ここの学校の学費を払うだけで精一杯で私立に通う金なんてないんですよ」


 本当は親の遺産とか沢山あるけど、流石にそれはゲスい。


「それなら、私が用意しよう。君には娘が世話になったからね。それに、君が学費を払えないことも最初から分かっていたからな。これで問題ないだろ?あとは、君の判断待ちだ」


 うっ、ここまで手厚くされると断るのも気が引ける。

 俺は一体どうすればいいんだ。再び、長い静寂に部屋は包まれた。

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