第1話 山門健 part1
小鳥の鳴き声が朝を告げる。
閉ざされたカーテンの隙間から朝日の微光が部屋に入り込む。
俺は腕を伸ばすように大きなあくびをしながら目を覚ました。
ベッドの傍に設置してある台には目覚まし時計と小さな鏡が置いてある。
タイマーの時間は七時にセットしていたが、今の時刻は六時四十五分の近くで予定より早く目覚めていた。
もう当日だろって言う時間に寝ても、予定より早く起きてしまう現象あるよね、分かる?俺だけじゃあないはず。でも、俺の場合はワクワクが押し寄せているというわけではないな。
次に鏡の方に視線をやると後頭部の寝ぐせが気になった。下手なワックスでセットしたみたいにはねている。
これでは気が引き締まらない。
とういうことで、それを直すために洗面所に行くことにした。
パジャマ姿のまま、部屋を出る。
俺の部屋は二階にあり、洗面所は一階にあるために階段を降りる必要がある。別に降りることは苦ではない。しかし、洗面所に行くということが憂鬱なのだ。
少しだけあの日の事を思い出しそうになるから。
あの日とは、俺たちが乗船していた客船が襲撃された日。
俺は、
階段を降りながらあの日の後の出来事を思い出してみた。
俺はいつのまにか、血塗れの服を着ながら海上で漂流していて、そこで漁船に保護された。その後は警察などに事情を聞かれたが、残念ながら俺は船でのことを二つの事しか覚えてない。
一つは二度大きな揺れが起きた事。
そして、もう一つは襲撃者の額には鬼のような角が生えていたこと。
詳しくは知らないが俺のほかにも生存者が居たらしいが、彼の方は目の前で人が残酷に殺される場面を目撃してしまったらしく、大きな心的障害が残ってしまった。
その結果、遂に自殺してしまったらしい。
彼の残した遺書には、彼が目撃した凄惨な殺害場面が色濃く書き記されており、その内容には世間に大きな衝撃が走った。
例えば、胴体から無理矢理内蔵を引き釣り出されたり、体を引き裂かれたり、頭部を握り潰されたなど、スプラッター映画でしかお目にかかれない殺され方だ。
他に生存者が居ないということは、俺の両親も殺されてしまったのだろう。
薄情かもしれないが、まだ俺は未成年として未来がある。いつまでもそのことを気にしていては生活ができない。
階段から降りて、洗面所に向かう。そこは隣にはお風呂場があるため脱衣所を兼ねている。
洗面台の左隣りには洗濯機があり、お風呂の残り湯を利用している。わぁーおエコロジー。
まず冷水で顔を洗い眠気を取る。その次に髪を濡らしてからドライヤーにかけて寝ぐせを取る。
そのまま鏡に映る自分の顔を観る。
「だいぶ痩せたな」
今日の第一声がこれ。
そうなるほどに、客観的にみて俺の体は痩せていた。日頃から母親の献立のお陰で健康を保てていたが、自分で食事を用意の用意し始めた結果、栄養バランスに偏りが生じてしまった。
突然の一人暮らしのせいで生活習慣が乱れて遅寝遅起きが続いたせいで、眼も細くなってきた。
ザ・不健康児の出来上がりだ。今度から食事はアイツに頼もう、それならアイツも息抜きになるだろうし。
そんな状態のまま、夏休みは終わり今日から新学期が始まる。
俺は道内の進学校に通っている。
元々は親友と共に通う予定だったが、彼は家の都合で通えなくなってしまった。しかし、今年こそは一緒に通うという約束をしている。
洗面所にて寝ぐせを直しリビングへと向かった。 リビングには大きな食事用の長机と三つの椅子が設置されていて、その奥にはキッチンがありその
「今日はトーストだけで良いか」
冷めた声でそう言い俺は真っ直ぐにキッチンに行き、トースターに食パンを二枚入れて焼き上がるまでにコーヒーを用意する。
「おっ、焼けた。いい匂いだ」
焼けた事を確認すると冷蔵庫の中のチルド室に入っているバターを取り出し、
それらをお盆に乗せて机まで運ぶ。自分の席にて食事を始めた。
トーストにバターを塗り、それを口に放り込む。口いっぱいに香ばしいパンの味とまろやかなバターが相まってとても美味である。
最後にコーヒーをググっと飲む。
「苦ッ!そして、ごちそうさま」
残った眠気を完全に飛ばし切り、それぞれの皿をお盆に戻して流しに戻す。
それらを洗剤と流水で洗い流す。
リビングの壁際においてある大きなアンティーク時計に目をやると時刻はまだ七時半。学校の登校時間までまだ大分時間がある。
だから自室に戻る事にした。
とりあえずすることがないのでパジャマを脱いで制服に着替えた。うちの学校の制服はブレザーで男女共におしゃれなデザインの制服だ。それを目当てで受験に挑む者もいるらしい。なお、大半は授業のキツさに嘆くと嘆かないとか。
暇な時間がまぁまぁある為に、どうにか時間を潰そうと部屋の壁際の本棚に向う。コレは三年ほど前に中学校の入学祝いに買ってもらったもので、父さんと共に家具屋に足を運んで選んだものだ。
本棚には一般文芸他ラノベまで自分の気になった作品だけを置いている。そんな中で一番下の段には小さな金庫がある。それはダイアル式で、その暗証番号を俺は知らない。でも、随分と前からウチに置いてあるから幼き日の俺が設定して忘れてしまったのだろう。置く場所がないから今はここに置いている。本棚の空間がなくなれば、どっか別んところに移す予定だ。
手頃な積み本に手を伸ばして、残り時間は軽く読書しながらダラダラと時間を過ごした。時間になると本に栞を挟んで学校に行く準備を済ましたバッグを手に取り、ささっと家の外へ出た。
あれ、おかしいな?普段ならしつこい記者の大群が群れてくるはずだが、今日は一人も居ない。
なんだか嫌な予感がするわ。
予想が外れて欲しいと願いながら、自転車のカギを外して上に乗って学校へと向かった。
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