第3話 二人目の出会い
車掌ちゃんが去ってから30分ほどが立った。ユメの中で30分というのも合っているかわからないし、おかしいかもしれないがないがとにかく30分ほど経った。
ついさっきまで僕は列車内部の探索をしていた。
車掌ちゃんにああは言われたものの自分の望む終着駅に辿り着く為に
何をして良いのか全く分からなかったからだ。
探険は昔から好きだった。未知の世界の景色や経験が自身の体験として昇華されていく感覚は心が躍る。
そういうわけで僕は列車を端から端まで歩いた。
列車内部は特に変わった物はなかった。
だが、まだまだ謎が多く危険性も分からぬ世界だ。警戒しつつも先へ進む。
偶に
”関係者以外立ち入り禁止”
の部屋があったがそこへは何をしても入れなかった。
車両の先頭では車掌ちゃんが列車の整備をしつつ運転をしていた。シャーフはそんな彼女のサポートをしているようだった。車掌ちゃんは鼻唄を歌いながら本当に楽しそうに仕事をしていた。
心底車掌の仕事が好きなんだなぁと思った。
同時に好きな事を仕事に出来ている彼女を羨ましく感じた。
挨拶をするとコーヒーとピッツァをサービスしてくれると言う。何故ピッツァ?と思ったが僕の好物だからと言う返答にまた何か心でも読んだのかと納得した。
そして僕は今、元の席に戻って車掌ちゃんを待っているというわけだ。
それから少しして車掌ちゃんがシャーフを連れてきた。シャーフは背中にサービスのコーヒーとピッツァを乗せている。本当に便利な羊だ。
僕の席でピッツァとコーヒーを置き車掌ちゃんは言った。
「お待たせしました。マルゲリータのソーニョ風とセットのコーヒーです。」
「メェ〜」
「美味しいんだよ〜。食べてみて」
急に似合わない敬語を使ったりするのは車掌としてのこだわりでもあるのだろうか。気になったが聞くのはやめておいた。
自分から何かを聞くのは人見知りな僕には苦手な事だ。特に初対面の人とは。
会話の受け手の立場になれば割と普通に話せるのだけれども。
代わりに僕は他に聞いておかなければならない事を聞いた。
「これは…その、失礼ですけど食べて大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよー。ここはユメの世界なんだからねー。例え毒が入ってたって死にゃしないよー」
そういうものなのか。説得力があるようなないような。
とはいえ確かにピッツァは僕の大好物だ。
特にマルゲリータは。ぜひこの不思議な世界で出来たピッツァに興味がある。
お腹も空いた気がする。美味しいと言うなら…
恐る恐る一口味見した。瞬間信じられない旨味が口に広がって
「うまっ!!」
つい声に出してしまった。
今まで食べてきた中でも1、2を争うかもしれないくらいには美味しいピッツァだった。普通の店ではこの味は出せない。
ユメの世界ってもしかしてパラダイス? なんて感動しながら残りのピッツァを頬張る。
量が多く食べきれなかったが、かなり僕の中での満足度はかなり高かった。
「これ美味しいね!車掌ちゃん。はぁー、確かな満足」
美味しい物を食べてテンションが上り僕は車掌ちゃんに同意を求めるつもりでそう言った。
「シャーフもありがとうね」
そう言って羊の頭をなでる。
シャーフは気持ちよさそうにしてくれた。
「そう、それは良かった。…ねぇ?」
その時、車掌ちゃんは何もない所に振り向いて言った。
? 誰に言ったのだろう?
「それにしても君、何か物事に夢中になると自分の殻みたいなものから飛び出してくるね」
確かにおいしいものを食べてはしゃぎすぎたかもしれない。
言われてみれば確かに何かに夢中になるとあまり考えて発言しなくなるのは僕の癖だ。
良いか悪いかは置いといて。
「次からは今みたいに自然に話してくれると嬉しいなー。ほら、私敬語とか堅苦しくて好きじゃないし」
確かに車掌ちゃんはは友達のように話すほうが好きそうだなと僕は思った。
同時に車掌ちゃんだって変なタイミングで使ってるくせにという
言葉が浮かんだがこれは飲み込んでおこう。
「う、うん、わかったよ」
「それじゃあ私はやる事があるから戻るね。頑張ってねー」
何を?
と聞こうとしたが車掌ちゃんは僕の残したピッツァを回収し行ってしまった。
車掌ちゃんと話していて気づかなかったが
落ち着いて来ると自分の変化に気づく。
先程まで感じていた浮遊感が殆ど消えていたのだった。
どうしたことかと考えつつ、また外に目を向けると外の景色も大きく変わっていることに気がついた。
「なんだこれ!?」
星空には光る魚が飛んでいて遠くには大きな巨人が見えて、たまにどこかで見たような
怪獣が見えた。
他にも不思議な物体が多く浮かんでいて若干、いやかなりかなりカオスな世界になっていた。
きれいな星空と羊が何処かにいるということは変わっていなかったが。
つい見入ってしまい背後から黒い液体の塊らしき物が近づいて来ることに
僕は気がつかなかった。
「ねぇ」
突然呼ばれて振り返るとそこには僕より一回り大きい何か大きな黒い物体が見下ろすように佇んでいた。
「うわぁぁぁあああ」
また悲鳴をあげてしまった。本日何度目だろう。このユメは本当に心臓に悪い。
その黒い液体の生物はそのまま僕の体を飲み込んで行く。ゼリー状の液体に阻まれうまく体を動かせなかった。息がうまくできない。
「うわっぷ」
もがこうとするも徐々に溺れていく。
あぁ、ここで僕は死ぬんだな。
そう思うと無性に死にたくないという思いが強まってきた。
液体から逃れようと必死にもがこうとする。
意外と僕の生への執着は強かったらしい。新たな発見だ。
しかし、抵抗はあまり意味がなかったのである。
直ぐに黒いゼリー状の液体は僕から離れて隣の席へと体を置いたからだ。
「ふふふふふふふ」
その黒い液体の生物は深みのある声で笑った。
その笑い声は次第に低音から高音へと変化し、黒い物体は可愛らしい小さな少女へと変貌していった。
うーん、と伸びをしてその少女は言った。
「あ――――よく寝た」
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