第2話どこに向かえばいいのだろう?

「リラックスできた?」

「メェ〜」


 車掌ちゃんが明るく話しかけて来る。仮面と全く合ってないそのポジティブな声には違和感しかなかった。


「はい、まぁ一応」


 しかし、よく見てみると車掌ちゃん、背はそんなに高くないが胴体と比べて足がすらっと長い。つまり、とてもスタイルが良い。顔も小さく仮面を取ったらかなりの美人かもしれない。なんて事を考えた。


「それでどこまで話したっけ?あぁ、そうそう私がここで何をしてるかって事だっけ?ここはユメの深淵、人間の深層心理のさらに奥にある世界さ」

車掌ちゃんが話を続けてくれた。

でも結局ユメってことだろう?


「ノンノン」


車掌ちゃんは指を振りながらそう言う。あれ?今声に出してたっけ?


「正確にはここはゆめと現実の狭間。これは確かにゆめだけどここで起こったことは確かな真実として世界に記録される」

「じゃあこの電車は何処に向かっているんですか?」

「さぁ、ここの路線はお客さんが行こうと思う場所に進むように出来てるんだよねー。だからこの電車が何処に向かうかはお客さん、つまり君次第なのだよ。私はただ中立の立場としてここに迷い込んだお客様を送り届けるだけ」


僕が進みたい方向…

それはフィクションの法則でいうと辿り着きたい未来の自分…みたいな事だろうか?


「言っておくけどたどり着いた場所が君の本当に望む場所とは限らないよー。好きな事とすべき事はちがうからねー。すべては君の心ひとつさ」


まただ。まるで心を読んだような事を言ってきた。

ほんとに読んじゃってるの?心を

少しずつ不思議な世界にいる事が実感になってきた。


それにしても好きな事とすべき事は違うか。

どちらを選ぶべきか分からない僕はやっぱり中途半端なんだろうな。


もしかして、その決断の先にたどり着ける列車…ということなのか?


「そこに着いたらどうなるんですか?」

「帰れるよ。そこでこのユメは終わる。ただね。そこが君の望む場所でなかったのなら…君は一生そこへはたどり着けないだろうね。」


「…ッ!? それってどういう」

「つまりねー。例えば君になりたい自分があったとしよう。

それでもこの列車の終着点がその場所じゃなければ、一生なれないってことさ。

素質がないからね」


 つまり、ここにいる間に僕がどうしたいのか選ばなければ、

僕の望む未来は永遠に訪れないということか。この僕にそんな決断ができるのだろうか。

また得体のしれない不安がちらつく。


僕はなんて返事を返していいか分からず、しばらく沈黙が続いた。


「まぁそんな深刻になる事はないよー。旅はまだまだ長くなるだろうし、心境の変化もあると思うから大丈夫だと思うよー」


 本当にそうだろうか?随分と楽観的に言うけどそう簡単にいくとは思えなかった。


「それではお客様、ごゆっくりユメの旅をお楽しみください。」


 そう言うと車掌ちゃんは帽子と仮面を整えて、敬礼のポーズをした。

そして、シャーフを連れて出て去っていったのだった。

僕は何をすれば良いのだろうか。正しい選択をするために。


考えてもわからなかったから窓の景色に目を移した。

何度見ても美しい景色だったが微妙に景観が変わっていた。

列車の窓からの景色なのだから当たり前か。




 遠くで羊の群れが通り過ぎていくのが見えた気がした気がした。


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