第4話 黒い液体から謎の美少女が?でも人間じゃないみたい
改めて見るとこの少女も人間ではない。彼女の頭部にはロバか馬のようなよくわからない動物の耳が付いており、少女の服は布ではなく黒い霧のような物で構築されている。
「はぁ はぁ、今何を?」
息を整えながら警戒を最大限にし、僕は彼女を見る。
「おおげさだなぁ。ちょっと味見しただけさ。ちょっと変わった味だったけど」
さらっと恐ろしいことを言われた気がした。一体僕の何を味見したというのか。
「なるほど、君が次のマヨイビトね。」
そういってその少女は自分の懐からカップを取り出し、手から黒い液体を出してコーヒーカップに注いだ。
するとその液体はたちまち紅茶の色に変色し、知らなければ紅茶と思ってしまうだろうなと思うほどにそっくりな物へと変化した。
「久しぶりの来客だ。私は今回はずいぶん長く寝てた気がするから。さぁあなたのユメが覚めるまでゆっくりお茶会でもしようじゃないか。」
目の前の少女は何か興奮しているようだった。
「えぇ!?今何が」
しかし僕はそれよりも今黒の物体が突然紅茶になったことが堪らなく気になって尋ねた。
「ふふん、すごいだろう?まぁもっともここでなら君にも似たようなことが出来るのだけれども」
「え?僕にも?」
「ここは君の想像の世界だからねぇ。まぁ練習は必要だろうけど。」
「それよりも話をしよう。人間との話は楽しいからさ。ワクワクするなぁ」
そこで僕は今までこの少女が誰かも分からぬまま彼女のテンションに流されていた事に気付いた。
「君はその…誰?」
「私?私はネム。ユメの世界の住人」
「君はこの世界の事を何か…知ってるよね」
「ネムで良いよ。普通に名前で呼んでほしいね。その方が会話が楽しいから」
「わかったよ、そのネ…ム」
ぎこちなくなってしまって気づいた。女性を名前で呼ぶのは久しぶりだ。
車掌ちゃんは本名っぽくないからノーカウントで。
「それとさっきの答えはイエスさ。ここに住まわせてもらってるわけだし大体の事は知ってると思うよ」
「じゃあ、あの、この世界の事を詳しく教えてくれないかな?」
「えぇ~ なんで?車掌ちゃんに聞いてないの? 」
「うん、その…一応聞いたんだけどよくわからなくて」
「あぁ、成る程。あの子説明が下手、いやしない事が好きだもんねぇ」
「どういう事?」
「車掌ちゃんからどこまで聞いた?」
「えっと…ここの列車は僕の行こうとする場所に向かってて…でもそれは僕の行きたい場所じゃないかもしれなくて…あれ?言ってて分からなくなってきた。」
何といって良いか分からなくて苦し紛れに頭をひねる仕草をする。
やっぱり僕も説明とか下手だった。
「ふふっ、やっぱりね。あの子、車掌ちゃんはそうやってあなたが悩んでるのを見て楽しんでるってわけ。せっかく謎だらけの世界なのに簡単に攻略されてもつまらない。もっと悩めーってね」
「えぇ!? ひどい」
「まぁそっちの方が君たち人間のためになるっていうのもあるんだけどね」
?どういう事だろう?
「そうそうこの世界で望む場所に辿り着く方法はね。自分を持って進む事さ。これがしたいっていう確固たる意志をね。」
「それだけ?」
「そう、それだけ。でもそれが難しいんだよねぇ。特に此処に迷い込むような人間にとっては」
「どういうこと?」
「君、何かを迷ってるだろ。そして何かに不安がってる。」
「なんでわかったの!?」
「そういう味がしたからねぇ。しかも色んな感情が混ざり合ってこんがらがった様な深みのある味だった。」
アジッテドユコト?
さっき黒い液体に飲まれたあれ?
でも確かに迷っているというのは心当たりがある。そういう人間がここに迷い込むということだろうか?
「ふふん。まぁそう心配しなさんな。お姉さんが相談に乗ってあげよう。」
「いいの!?」
「もちろん。私もその方が楽しいしね。まぁ一石二鳥ってやつさ。」
何となく安心した気がした。誰かが聞いてくれるだけで楽になるとよく言うが本当にその通りなのかもしれない。お姉さんには見えないけどね。
小さなネムの体を見てそう思った。
その時車掌ちゃんのアナウンスが車内に鳴り響いた。
「まもなく
その駅の周辺には牧場があった。その背景には満天の星と先程から見える不思議な幻影の数々が浮かんでいる。
そこで羊が草を食べているのが見えた。
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