マロンのこと
朝靄の向こうからマロンが吠える声が聞こえた。
「未沙、どこだ? なぜマロンを離したんだ?」
「ごめーん。今行くわ!」
じゃあ、ごめんね。と二人の子供たちに言おうと振り返ると、そこに先ほどの二人の姿はなかった。
一瞬で晴れた青空が広がり、少し先に陸斗の姿と狂ったように吠えるマロンが走ってきた。私は早朝に吠えると近所迷惑なので慌ててマロンの顔を両手で触る。
「何してんだよ。一人じゃ危ないだろう、心配するじゃないか」
「だって、走るのが早くてついて行けない。マロンはどうしてこんなに吠えているのかな」
マロンは見たことがない、怒りの表情をして牙をむいて大きな楠のある方へ向かってうう~と唸っている。前足は爪を出して今にも飛び掛かりそうだが、今はもう誰もいない。
「お前が来ないからだよ。こいつは未沙の用心棒じゃないか、な、おい」
マロンは陸斗の顔を見上げるとようやく落ち着きを取り戻した。陸斗からマロンのリードをもらうと、彼らが立っていた方へと視線を向ける。
「今、そこに見たことのない小学生くらいの男の子と女の子がいたの。ずいぶん痩せて昭和時代の子供っていう感じなのね」
「寝ぼけているんだろう。もしかしてネグレクトかもな。かわいそうに食べるものが家にないんじゃないか?」
「そうかも、知れない……」
私になにか言いたいことがあったのかも知れないなと思い、楠を見上げて陸斗と二人で七時になる前にお互いの家に帰った。
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