育みあえる相手
シヨゥ
第1話
「選ばないことも選択だ」
背の高い男は言う。
「目の前に出された選択肢の中に、お前が最良だと思えるものがなかったのだから仕方がない。いや妥協できるほどの選択肢がなかったというのが正解か。その顔だと」
「うるさいな」
小柄な男は本心を言い当てられた動揺した。
「まぁ将来を決める見合いだものな。妥協はしたくない。その気持ちは分かる。俺だって何十年も毎朝顔を合わせる嫁さんをそう簡単に決めはしなかった」
「その割にはすんなり決まったじゃないか」
「あれは運が良かった。見合い写真だけじゃ会ってみたいと思う人はいなかった。だが、オババの話を聞いて会ってみたい。そう思えた人が居たってだけだ」
「オババの話を聞いても会ってみたい人が居なかったんだよな」
「それはお前の理想が高いからだろう。俺も初めはそうだった。こんなこともできないのか、とよく思ったものだ。だが、あまりにも親がうるさく言うものだから考えを変えてみることにした」
「どう変えたんだい?」
「できないことをできるようにするために一緒に歩ける娘は誰かってな」
「ほぅ」
「手がかかる子ほどかわいい。なんて言うが、それは嫁も一緒じゃないかって思うんだよ。まぁ逆もしかりだな。だから、育みあえる相手を探す。それが一番いい見合いの心構えじゃないかと思うんだ」
「やっぱりお前は大人だな」
「よせよ。照れるじゃないか」
「それなら一人だけ。一人だけあってみたい娘が居たな」
「ほうそれは良いことだ」
「とりあえず話をつけてくる」
「善は急げだ。早くしないと嫁ぎ先が決まってしまうからな」
「あぁ。話を聞かしてくれてありがとよ」
小柄な男は駆けだした。その背を眺める背の高い男は優しい目をしていた。
育みあえる相手 シヨゥ @Shiyoxu
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