おい、実家が大変なことになってるみたいだぞ

 ラスタール村への道すがら。

 馬車に揺られながら、僕はレイから衝撃的な話を聞いていた。


「マジかよ……ダドリーの奴、そんなことを……」

「うん。たぶん、マクバ家はいま大変だと思うよ」


 元孤児にして、《白銀の剣聖》というスキルを得たダドリー・クレイス。


 こいつがどうも、かなりの問題児らしいのだ。


 まず、元々の性格が最悪。

 孤児院でもトラブルメーカーだったらしく、しょちゅう年下をいじめていたらしい。生まれつき体格が良さそうだったので、良い気になっていたんだろう。


 教会にて彼を見守っていた仲間たちは、別に応援するつもりではなかったらしい。願わくは、外れスキルであってほしかったと――仲間のひとりが語っていたという。


 しかしながら、ダドリーが得たのは、最強のスキル《白銀の剣聖》。

 おそらくだが、ダドリーはこのまま父上の後を継ぐだろう。剣聖として名を馳せ、さらなる高みに上っていくに違いない。


 だから、その高慢な性格に拍車がかかった。


「父上は……父上は、なにも言っていないのか!?」


 僕の問いかけに対し、レイは小さくかぶりを振る。


「うん。そうみたい。見て見ぬふりをしてるって」


「…………」


 見て見ぬふり……


 そうか。

 父上は、王族との関わりをなによりも重視していた。


 だからこそ僕とレイが出会えたのもあるが、裏を返せば、父上は王族との関係が途絶えるのを誰よりも恐れている。


 そうでなければ、あんなにも冷たく僕を突き放すことはあるまい。


 だから――見捨てたくないのだ。

《白銀の剣聖》という、類稀なるスキルを持つ者を……


「ね? これでわかった?」

 レイがすがるように僕を見つめる。

「私の護衛はあなたが務めるはずだった。それができなくなったいま、私の護衛候補は誰になると思う?」


「あ……」


「だから嫌だったんだ。外れスキルとか関係ない。私はあなたと……あ」


 そこまで言いかけて、レイは頬を赤くし、

「な、ななななんでもないわ!」

 と取り繕った。


「ん? なんだ?」


「いいの! なんでもないの!」


「そ、そうか……」 


 よくわからんオチになったが、しかしマクバ家の現状はよくわかった。


 正直、心残りがないと言えば嘘になる。あれでも一応、僕の実家だしね。


 でも。

 戻る気はさらさらない。

 父上は僕を見捨て、孤児を選んだ。皇都の者たちも、僕が《外れスキルの所持者》と知って、急に態度を変えた。


 そんな場所に戻る気はない。


 僕は僕で、自分の人生に浸ってみようと思う。いままで剣だけに打ち込む世界だったからね。別の世界というのも知っておきたい。


 ……さて、では今後はどうしようか。


 正直、このまま死んでも構わないと思ってたけれど、レイが絶対許さないだろうし。すこしくらいは前向きに生きてみたいと思う。


 そうだな……


「レイ。ラスタール村にも冒険者ギルドはあるか?」


「え? うん。小さいけど、あったと思うよ」


「そうか……」 


 であれば、いっそのこと冒険者を目指してみるか。

 前述の通り、僕は剣一本で生きてきた。戦うことしか能がないんだ。それも《外れスキルの所持者》だったから台無しだが。


 僕の表情から、レイもそれを察したのだろう。目をキラキラ輝かせ、身を乗り出すように言った。


「ね! 私も一緒に冒険者になっていい!?」


「は……」

 あっけにとられる僕。

「それはさすがに無理があるんじゃないのか? ラスタール村の人だったら、おまえが皇族ってこと知ってるだろ?」


「ふふん。大丈夫! ギルドマスターと仲良いから、偽名で登録してあるんだ♪」 


「えっ」


 マジかよ。

 つまりは先輩冒険者ですか。


「わー。楽しみだな、アリオスと冒険者生活!」


 僕は面倒くさいんですがそれは。

  


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