おい、ありのまま起こったことを話すぜ?

 あ……ありのまま今起こったことを話すぞ。


 スキル《攻撃力アップ(小)》を起動した。そんで冒険者を殴った。

 そしたらその冒険者が吹き飛んでいったんだ。

 まるで超ド級の技でも喰らったみたいに。


 だが、おかしい。


 たしかに容赦なく殴ったが、普通、あんなに飛ぶか?

 俺はただ、レイへの攻撃を妨害するために殴打しただけだぞ?


「え?」

「え?」

「屁?」


 その場にいる誰もが、素っ頓狂な声をあげる。


 さっきまで威勢の良かった冒険者たちも、すっかり肝を抜かれてしまったようだ。ぽかんと口を開け、冒険者の飛んでいった方向を見上げている。


「…………ぁぁぁぁああああ」


 やや遅れて、かの冒険者が戻って(落ちて)きたようだ。

 悲鳴をあげながら、受け身も取らずに地表に激突する。


 ――ドォォォォォン!!


 冒険者は地面深くまで沈んでしまったようだ。

 万歳したような人の形の穴が地面に開く。


 おそるおそる穴を覗くと、相手はまだ生きているようだ。ぴくぴく足を動かしている。


 まあ、さすがに殺しまでするつもりなかったからな。正直、ちょっと安心した。


「お……おい」

 残った冒険者が、掠れた声で俺に訊ねる。

「おまえ……いま、なにをしたんだ……」


 その様子に、やはりさっきまでの威勢はない。むしろぶるぶる身体を震わせている始末である。


「いや、そのな」

 僕は後頭部を掻きながら答える。

「攻撃力アップ(小)をかけて殴っただけだ」


「「んなわけあるか!!」」


 総員に突っ込まれた。


「そんなこと言われても。マジでそうなんだって」


 攻撃力アップ(小)って、その名の通り、攻撃力が微増するだけのはずなんだがな。


 けど、この《チートコード操作》ではどうもそうではなさそうだ。

 攻撃力アップ(特大)になると、いったいどうなってしまうのか……


「くそ、奥の手を隠してやがったとはな。さすがは剣聖の息子かよ……!」


「いや。だから違うって……」


 僕は片手を振って否定する。


 が、

「ひっ!」

 たったそれだけの所作を、冒険者たちは恐怖に感じたようだ。


 びくっと身体を竦ませ、互いに抱きしめ合っている。


 ――ま、いっか。

 想定外の事態ではあったが、これはチャンスだ。


「懲りたんならとっとと失せてくれないか? 馬車屋にも迷惑をかける」


「く、くそっ! 覚えてやがれっ!!」


 小物感溢れる捨て台詞を吐き、冒険者たちは退散していく。 


「ま、待ってくれぇぇえー……」


 吹き飛ばされた冒険者も、よれよれになりながらも帰っていった。


 あとには静寂だけが残された。


 さっきまで僕の陰口を言っていた者たちも、いまの騒動を見てやばいと思ったみたいだな。

 急に静かになった。

 本当にわかりやすい奴らである。


「アリオス……あ、あなたにあんな力があったなんて……」


 レイも肝を抜かれたらしい。

 ぽかんと僕を見つめていた。 


「す、すごいじゃん! 本当に、お父さんより強くなってるかもよ!」 


「んー、さすがにそこまでは……」


 剣聖――リオン・マクバの本気を、僕はまだ見たことがない。 

 ただ、バカみたいに強いことはわかる。 


 だからさすがに《剣聖》スキルより強いとは思わないけれど。


 謎スキル《チートコード操作》。


 このスキル、思ったより化け物かもしれないな。

 ひとり、そう思う僕だった。





 

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