おい、剣聖より強いスキルとかないよな? たぶん
「んーしょいと!」
可愛らしいかけ声とともに、レイは大きなリュックを背負い直す。
――第二王女レイミラ・リィ・アルセウス。
いきなり僕に同行してくれることになったお姫様。
深く帽子を被り、身軽な服装をしてはいるものの、美人だと一目でわかる。いまは髪を後ろで束ねているが、『第二王女』としての彼女は長い髪をおろし、毅然とした態度で公務にあたっている。そのギャップが、僕はいまでも記憶に残っていた。
「……で」
レイは改めて、ブラックグリズリーの死体に目を向ける。
その周囲には、僕が図らずも燃やし尽くしてしまった焦土が広がっていた。
「これさ……どうやったの?」
「…………」
僕は数秒だけ黙考し、短く答える。
「いや、わからん」
「へ?」
「本当だ。なんか適当に手をかざしたらこうなってた」
「て、適当にって……」
珍しくもレイが呆れ顔を浮かべる。
「これ、指定Sの魔物が暴れた跡地みたいだよ……。みんなびっくりすると思うけど」
「そ、そこまでか?」
「そこまでだよ! 魔法でここまでの大爆発を起こすって普通ありえないって!」
いやいや。
さすがにそれは。
いままで剣の道しか見てなかったからな。魔法の常識がわからないんだ。
ちなみに『指定S』というのは、魔物の強さランクみたいなものだ。
最低でE。そして最高がS。
ランクがB以上になると、危険度が一気に跳ね上がるらしい。
特にA以上の魔物は災害級。
存在するだけで大災害を引き起こし、街や村、ひいては国そのものが滅びかねないほどの危険度を持つ。
その『指定S』と僕の魔法が同等レベルだというのは、いくらなんでも言いすぎってもんだ。
「アリオス……もしかしてあなたのスキル、とんでもないくらい強いんじゃないの?」
「あの『剣聖』より? はは、まさかそこまでは」
きっと、気を遣ってくれているんだろうな。
剣聖のスキルを得られず、実家を追放された僕に対して、彼女なりに気を回してくれているんだろう。
あのちびっ子だった女の子が……大人になったもんだ。
「な……なんで見てくるの? なんかついてる?」
頬を赤らめながら王女が言う。
「あ」
こりゃまずい。
感心するあまり、ちょっと見つめすぎていたようだ。
「すまない。なんでもないんだ」
順調にいけば、僕はレイの護衛を務めるはずだった。
栄えあるマクバ家の跡継ぎとして、立派にその責務を全うするつもりだった。
僕なんかがおこがましいかもしれないけれど……せめて彼女が城に戻るまでの間は、きちんとした『護衛』でありたい。
まあ、間違いなくあの孤児――ダドリーに役目を奪われるだろうけど。
「あ。そうだ!」
思い出したようにレイがパチンと両手を合わせる。
「私も少しずつ自分のスキルを高めてきたから。戦闘のときは頼ってね!」
「お……たしか『聖魔法使い』だったか?」
「うん! お城で兄様たちと特訓したから」
聖魔法使い。
アルセウス王国に在住する魔術師において、ほんの数パーセントの者しか使えないと思われる上位属性だ。他属性よりも強力な魔法を使えることから、戦闘時ではかなりの火力になる。
レイは僕よりすこしだけ誕生日が早いからな。
18歳の誕生日にスキルを授かり、いままで彼女なりに磨いてきたんだろう。
「わかった。もしものときには、その腕前、見せてもらうよ」
「うんうん! しっかり見といてね!」
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