おい、外れスキルが急にぶっ壊れたんだが

「さよなら。父上、母上……」


 そう呟く僕に反応する者はいなかった。


 マクバ家。その屋敷。


 王族と繋がりのある家系だけあって、その外装はかなりのもの。大貴族にも引けを取らない規模があると思う。この家で僕は育ち、苦楽をともにした。仲の良い召使いもいた。


 だけど、見送ってくれる人は誰もいなくて。


 改めて、僕は現実の厳しさを目の当たりにした。


 僕はただ、剣聖の息子だからチヤホヤされていただけ。

 親の七光が剥げたいまとなっては、誰も僕なんかを気に留める者はいない。


 ――剣聖の息子は、外れスキルの所持者だった――


 そのニュースは瞬く間に広まっていったようだ。通行人たちの視線が嫌に痛い。


 込みあげるものを懸命に抑えつけ、僕は家を出ることにした。


 行く宛なんかない。

 ただ、家での迫害っぷりに耐えることができなかった。それだけだ。


 とりあえず隣街あたりに行ってみよう。距離はそこそこあるが、なにも問題ない。どうせ家に帰ってもまた迫害されるだけだし、野垂れ死んだらそのときだ。


 そう思いながら、だだっ広い草原をひたすら歩く。


 と。


「グルルルルル……!」


 魔物――レッドウルフの群に遭遇した。赤い毛並みが特徴の、すばしっこい魔物だ。しかも小さな火球を吐き出してくるので、戦いに慣れていない者には苦労する相手に相違ない。


 が。


「はあああああっ!!」


 マクバ流。

 ――紅葉一閃。


 僕が剣を抜き、そして鞘に納めた頃には、すべてのレッドウルフが切り刻まれていた。


 生きている魔物は一匹もいない。


 全滅だ。


 僕が《外れスキル》の所持者といっても、剣聖にずっと鍛え込まれてきただけの実力はある。この程度の魔物、どうってことはない。


 情けないよな。

 涙が出てくるよ。

 剣の才能があると思われて、懸命に剣技を磨いて……その結果がいまだ。


「しかし……妙だな」


 ここは街道のど真ん中。

 魔物除けの街灯が等間隔に並べられている場所。


 強い魔物ならいざ知らず、レッドウルフごときが街道近くをうろつくなんてありえない。


「いやぁぁぁぁあああっ!!」


 悲鳴が聞こえてきたのはそのときだった。


 女の声。

 しかも聞き覚えがある。


 僕の直感が正しければ、この声は――


 気づいたとき、僕は走り出していた。

 これもきっと、《マクバ家の跡継ぎ》として叩き込まれてきたからだろう。


 剣聖は王族との結びつきが強い家系。

 ゆえに、王族の危機にはなにがあっても駆けつけねばならぬ――


 果たして、木々の密集地帯に《彼女》はいた。


 レイミラ・リィ・アルセウス。

 ここアルセウス王国の第二王女だ。


 しかも相変わらず、護衛のひとりもつけていない。


 まったく、あのお嬢様は……!


 対する魔物はブラックグリズリー。

 漆黒の体毛に包まれた、獰猛極まる魔物だ。さっきのレッドウルフとは格が違う。腕に覚えのある剣士でも、数人がかりでなければ敵わない相手だ。


 むろん、僕ひとりでは勝てない。


 剣聖たる父上なら楽勝なのだろうが、意味不明なスキルしか持っていない僕には決して勝てない相手だ。


「レイミラ王女! こっちへ!!」


 それでも僕は彼女の名を叫んだ。

 心のどこかでは、まだ剣士としての意地が残っているのだろうか。


「ア、アリオス……!?」


 王女も僕のことを覚えてくれていたらしい。目を見開き、名前を呼んでくる。


「た、助けて……。足が、足が動かないの……!」


「く……!」


 まずい。

 ブラックグリズリーの威圧にやられてか、完全に腰が引けているようだ。


「グオオオオオオッ!!」


 対するブラックグリズリーは、獰猛な片手を掲げ、レイミラに狙いを定めている。あの腕に切り裂かれたが最期、レイミラの命はあるまい。


「くそっ……!」


 なかばヤケになって僕が飛び出した、その瞬間。


――――――

 

 戦闘の勝利により、スキルレベルが上がりました。

 使用可能なチートコードが解放されます。

 

 ★火属性魔法の全使用


――――――


「は?」


 僕は思わず目を見開いた。


 火属性魔法の全使用?

 どういうことだ? 僕は生まれてこの方、魔法なんて使ったことないぞ?


 だが背に腹は変えられない。


 以前、父上と戦っていた凄腕魔術師の魔法を思い浮かべる。

 当時、凄腕の魔術師が使っていた魔法は……


「終極魔法――プロミネンスバースト」


 ドゴォォォォォォォン!!


 轟音と同時、見るも激しい大爆発がブラックグリズリーに襲いかかる。心なしか、一帯が激しく揺れている気がした。


「へ? なんだこりゃ」

「ウガガアアアア!!」


 間抜けな僕の声に反して、ブラックグリズリーは大きな悲鳴をあげる。


 そして黒煙が完全におさまったときには、ブラックグリズリーは横たわったまま動かなくなっていた。

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