おい、外れスキルだと思われていた《チートコード操作》が化け物すぎるんだが。 〜実家を追放され、世間からも無能と蔑まれていたが、幼馴染の皇女からめちゃくちゃ溺愛されるうえにスローライフが楽しすぎる〜
どまどま
剣聖の息子、追放される。
スキル。
それは誰もがひとつは持つはずの特殊能力。
剣聖と呼ばれる者は《剣聖》のスキルを持ち。
賢者と呼ばれる者は《賢者》のスキルを持つ。
このため、スキルは人生に大きく左右する。
スキルが開花するのは18歳の誕生日とされており、この日は誰もが浮き足立つ。そして神官から告げられるスキル名に一喜一憂するまでがセットだ。
僕――アリオス・マクバも、今日18歳の誕生日を迎えるひとりだ。
「とうとうこの日がやってきたな。アリオスよ」
「はい……そうですね」
父の言葉に、僕は小さく頷く。
「ふふ。いったいどんなスキルなんだろうな。私の息子だから、さぞ高位なスキルであることは違いない」
「はは……だといいんですが」
父――リオン・マクバは、僕のスキルが高位であることを疑わない。
なにしろマクバ家は、《剣聖》として代々その名を残してきたから。父もご多分に漏れず《剣聖》を授かっている。その実力を買われて、マクバ家は王族の側近を務めているほどだ。
だから僕は日頃から厳しい特訓を受けていた。
スキルが強いことは間違いない。
だから18歳になるまでに腕を磨いておき、最短で最強の剣士になりなさい――父からそう教え込まれていたから。
まあ、マクバ家は剣の腕だけで王族の信用を得ているからね。弱い剣士では、信用問題に関わるんだろう。
「見て。あの方、剣聖リオン様じゃない……?」
「素敵……!」
「となると、あのお子はスキルを授かる年頃か……。大きくなったなぁ」
街の教会。
僕たちの周囲には、すでに多くの人々が集まっていた。
剣聖として名高いマクバ家のスキル開花日。
自分で言うのもなんだが、話題になるのは間違いないだろう。
「アリオス様ー!」
「頑張ってー!」
女性たちの黄色い声援も聞こえてくる。嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいな。いままで剣の道に没頭してきて、女の子と関わったことなんてなかったし。
まあ、マクバ家は国内でもかなり有名。結婚できれば将来の安泰は間違いない。そういった思惑も込み込みだろうけどね。
「……では、いきますよ。アリオス殿」
教会の壇上。
机を挟んだ向かい側にいる神官が、神妙な面持ちでそう尋ねる。
「はい。……お願いします」
なんだか緊張するな。
心の揺らぎは剣の揺らぎ。
父上からずっと教わってきたけれど、メンタルの調整だけはいまだ慣れないもんだ。
「アリオス。しゃきっとするんだ」
「は、はい……!」
ちなみに父上は数歩引いたところで僕を見守っていた。結果を確信しているのか、腕を組んで自信満々な態度だ。
「むむむっ……!」
神官は表情を歪めるや、机上の水晶に向かって両手をかざす。色彩さまざまな光が飛び交い、その流麗な輝きに、僕は思わず見惚れてしまった。
そして。
「出ましたぞ。アリオス殿。あなたのスキルは――」
そこまで言いかけて、神官はきょとんと目を丸くする。
「むむ? おかしい。こんなはずは……」
その様子に、僕は本能的に嫌な予感を覚えた。
「あ、あの。どうされたんですか……?」
「……アリオス殿。心して聞かれよ。あなたのスキルは――《チートコード操作》だ」
「……え?」
ざわざわ、と周囲がざわつき始める。
「チ、チートコード? おまえ知ってるか?」
「いやいや、知らないよ……。なんだそれ……」
「まさか《外れスキル》か……?」
僕もまったく同意見だった。
チートコード。
そんなもの、聞いたことがないぞ。
「馬鹿な! そんなはずはない!」
父が真っ赤な表情で壇上に上がってくる。
「神官殿! それはいったい、どんなスキルなのだ!」
「わ、わかりませぬ。アリオス殿、念のため、スキルを発動してもらえぬか」
「は、はい……!」
言われて僕はスキルを発動する。
条件は簡単だ。
小声でぼそりと、スキル名を唱えるだけ。
すると、視界に次の文字列が浮かんできた。
――――――――
使用可能なチートコード一覧
・攻撃力アップ(小)
――――――――
「攻撃力アップ(小)……」
その文字列を、僕はなかば放心して唱えた。
「攻撃力がアップするそうです……父上……」
「な……に……」
父も同じくぽかんと口を開ける。
攻撃力アップ(小)。
たしか、攻撃力が1.2倍くらいになる効果だったはず。
――外れスキルだ。
「え……嘘だろ……?」
「剣聖様の息子が……外れスキル……?」
周囲の声が、侮蔑のそれに変わっていく。
「なんだ。あれじゃ玉の輿無理じゃん」
「つまんな。ブサイクだから狙いやすいと思ったけど、あれじゃメリットないわね」
黄色い声援をあげていた女性たちも、すっかり態度を豹変させている。さっきまで、僕と目が合っただけでキャーキャー言ってたのに……
なんだ。
なんだったんだよ。
昨日まで、一人前の剣聖になるために精一杯努力してきたのに。
辞めたくなった日もあった。
それでも、明るい未来を夢見て頑張ってきた。
あの苦しかった毎日が――全部、無駄になるってことか……?
「父上……ぼ、僕は……」
「…………」
父の態度もすっかり変わっていた。あからさまに冷たくはなってないが――その豹変っぷりは、息子たる僕が一番感じ取っていた。
「んー、コホン」
ふと神官が気まずそうに咳払いをかます。
「申し訳ないですが、次の方が控えておりますのでな。そこをどいてくれませんか」
「は、はい……」
その突き放した態度。
僕は泣きそうなのをなんとかこらえながら、神官の言う通りにする。
次の相手は孤児のようだ。
孤児院の仲間と思わしき子どもたちが、ごくりと息を呑んで開花の瞬間を見守っている。
劣悪な環境にもめげずに育ってきたんだろう。僕とはまた別種の力強さが、その孤児から放たれていた。
「むむむ……。こ、これはっ!!」
水晶に手をかざした神官が、大きく目を見開く。
「出ましたぞっ! 《白銀の剣聖》!」
おおおっ、と。
僕のときとは打って変わり、黄色い歓声が沸き起こった。
「は、白銀の剣聖だって……!!」
「やべぇ! ただの《剣聖》より上位っぽいぞ!」
「え、ちょっと待って! あの男の子、なんかかっこよくない?」
「うんうん、厳しい人生を生き抜いてきた感じがある!!」
「たしかに! どこかのおぼっちゃんとは違うわね!!」
なんだこれ。
なんだこれ。
なんだこれ!
「え……剣聖? 俺が? マジ?」
「うむ。お主は今日より、剣の道に進むがよい。明るい未来は間違いないぞ」
戸惑いをあげる少年に、神官がにっこり微笑む。
その態度の違いに、僕は煮え切らないものを感じたけれど。
でも、ここで取り乱しちゃいけない。他人が強いスキルを獲得したんだから、ここは素直に賞賛しなくては。
「はは。父上、すごいですね。あの人、剣聖って……」
「素晴らしいっ!」
しかし、父の目に僕は映っていなかった。顔を上気させながら、あの少年に歩み寄っていく。
「白銀の剣聖! いずれ私をも超えるだろう、素晴らしい高位スキルではないか! 少年、名をなんという!?」
「え……? ダドリーですが……あ、あなたは?」
「私はリオン。剣聖リオン・マクバとは私のことだ」
「えっ!? あの剣聖様ですか!?」
「うむ。どうだ。君さえよければ、私のところへ来ないか。君も剣聖として名を残そうではないか!」
「え……ぼ、僕が、剣聖に……? いいんですか!」
「当然だ。辛く苦しい環境を生き抜いた君の生命力は、きっと大きな力になるだろう!」
え。
なにを言ってるんだ父上は。
僕は。
僕はどうなるんだ……?
「ち、父上……?」
おそるおそる、僕は最愛の父に尋ねてみる。
すると。
「なんだアリオス。まだそこにいたのか」
「え……」
「まあよい。おまえもダドリーの的くらいにはなるだろう。今日からは雑用役として動いてもらうぞ」
ひどい。
こんなこと。
こんなことってあるのか……!?
「なんだその態度は。雑用では不服か。そのスキルでは、これくらいが精一杯だと思うぞ?」
「いえ……」
「納得いかぬなら出て行くがよい。おまえはすでに18。独り立ちするときだろう」
こうして僕は、剣聖マクバ家を追い出されたんだ。
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