第8話 宿題なので黒歴史作ってきますね②

 

「かれん先生のぉ~っ、秒でわかる魔眼講座~っ‼」


「ぉお~っ‼」


 一人だけズバ抜けてハイテンションなかれんに合わせて、輝夜かぐやが手をパチパチさせている。


 そんな二人を尻目に、悠斗ゆうと達は思う。


(何この状況……っ‼)



 昨夜、ナムタルを退けてから一夜明け、かれんと輝夜は魔眼の使い方を伝授すべく悠斗の家を訪れていた。一階のリビングに集まり、教壇に立つような振る舞いをするかれんを囲んで皆が座っている。


「魔眼と量子論、実はある言葉で繋がっています──それはぁ~っ『厨二』‼ みんな『シュレーディンガーのネコ』って知ってるかな~?」


「あれでしょ? 毒ガスでネコが生きてるかどうかみたいな話」


 莉奈がそう答えると、待ってましたとばかりにかれんが話を続ける。


「ふっふ~ん‼ 聞いた事はあるけど、それが何なのか知らない人もいるだろうから簡単に説明するね~! これはぁ、量子論の『ある解釈』の問題点を指摘するために、シュレーディンガーさんが考えたすっご~い『思考実験』なんだよ~!」


「思考実験?」


 莉奈が首をかしげる。


「そう‼ 実際にネコちゃんで実験したりしてないから安心してね~! その実験の内容を詳しく説明すると長くなるからぁ、九十九パーセントすっとばしちゃうと、『その解釈だと結果が原因を導く事になるからおかしいよ⁉』って言いたかったんだね~!」


 一呼吸置いて、かれんは皆の反応を確認する。


「原因があって結果が導かれるのが普通でしょ? 順序が逆になっている──つまり『因果の逆転』っていう厨二の子が喜びそうなワードに結び付くんだね!」


「因果の逆転──なんかかっこいいぞ!」


 悠斗が食いついてきた。


「そしてぇ~‼ 厨二とシュレーディンガーさんがバトりながら発展してきた量子論はついに! 悠斗によって魔眼開発までたどり着くのでしたぁ~‼」


「マジか‼」


「──厨二悠斗」


「ユートは厨二」


「えぇ⁉ こんなのテンション上がるでしょ‼ 上がらない⁉」


「──ちなみに量子論っていうのは、原子とか電子、光子こうし重力子じゅうりょくしっていうちぃ~っちゃいミクロな世界の理論なんだけど、〝魔力子まりょくし〟もそういうのの一つなんだよ~」


 悠斗は「ふむふむ……」と頷きながら話を聴いている。


「魔力子が発見されたのは二〇八七年! 魔眼は観測装置って話したの憶えてる? 魔力子は観測される事で、みんなが魔法として空想していた事を実現できるの‼ だから〝魔力子〟っていう名前が付けられたんだね~!」


「て事は〝魔眼〟って呼び方もファンタジーが由来なのか……?」


「鋭いね悠斗くん! まぁ君が魔眼を開発してそう名付けたんだから、当然なんだけど……」


「やっぱり厨二悠斗」


「ユートは厨二の中の厨二」


「か、かぐやは厨二の悠斗さんも好き、だよ……っ!」


「輝夜ちゃんフォローになってない……」


 悠斗は〝キング・オブ・ザ・厨二〟の称号を手に入れた。


「悠斗は人工的に魔眼を創っちゃったけどぉ、歴史に名を残す偉人達は自覚がないだけで、天然の魔眼持ちだったりするんだ~! みんなここまでは大丈夫かなぁ~?」


「────」


 莉奈が少し考え込んで水月に尋ねる。


「何とか……ねぇ、水月は人工魔眼を持ってるけど魔眼の使い方は知ってるの?」


「ううん、使い方ははっきり知らない。わたしが魔眼を移植してもらったのも、魔眼で魔力子を操る研究段階で、実験の被験者がなかなか見つからなかったらしくて。それで視力を失ったわたしが選ばれただけだから……」


「なんか未来のおれ……マッドサイエンティストみたいになってるな」


「だいじょーぶ! 悠斗はそんな悪い子になったりしてないから!」


「ならいいんだけど……」


「で‼ 肝心の魔眼の使い方なんだけど、魔眼で観測された魔力子は観測した人の脳波に反応します! だからぁ、頭の中でこうしたいってイメージすると、魔力子がそれを実現してくれるんだよ~!」


「そんだけでいいの⁉」


「ふっふっふ……甘いね悠斗くん、そんなに簡単じゃないよぉ~! コツは、はっきりしたイメージを持つ事、それと、イメージを実現できるって信じる事!」


「それって悠斗の得意分野じゃない? いつも言ってるでしょ、『妄想こそが未来を創るんだー』って」


「わたしもそれ聞いた! ユートいっつもそんな事言ってるの?」


「おれの妄想力なめるなよ? 魔眼ぐらい秒で使いこなしてやるからな⁉」


「悠斗さん、そんなにすごい人だったんだ……かぐやもいっぱい応援……するからね!」


「よしよし~っ、ちなみにイメージをはっきりさせるには、言葉に出すのがとっても有効なんだ~! だからぁ、技名、考えておきましょー‼ 輝夜ちゃんみたいに呪文唱えるのもオススメだよ~?」


(……はっず‼)


 三人の心が一致して同じように顔を赤くした。


 かれんは面白そうにその様子を眺め、悠斗は叫ぶ。


「黒歴史作ってこいみたいな宿題出すのやめて────っ‼」



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