第126話

 その横穴は幅3メートル程、高さはそれより少し高く4メートル程だろうか、100メートル程歩くとその先で左に曲がっているのが見えていた。


 二人は抜刀したままで奥に進んで行き、左に曲がると横穴の先が広けた場所につながっているのが目に入ってきた。さらに近づくと上から陽の光が差しているのが見える。


 そうして横穴の出口に立った二人。そこはこの山の火口の様だった。

 上を見上げるとかなり上に噴火口が見えている。高さにして100メートル以上はあるだろう。岩肌はほぼ直角になっていてとても上からは降りては来られない。


 そして視線を下に向けた二人はしばらく無言でそれをじっと見る。


「何だよ?これ?」


 しばらくしてからデイブが声を出した。ダンは黙って視線を下に向けたままだ。


 二人の視線の先、噴火口の下は空洞ではなくそこには真っ黒な雲の様なものが渦を巻いていたのだ。立っている場所から10メートル程下にあるその渦巻き状の黒い雲は激しい勢いで渦を巻いている。


「…聞こえてこないか?デイブ?」


 黙っていたダンが言った。


「ん?」


「脳の中に直接声が響いてきている」


 ダンの言葉を聞いてデイブも下を覗き込みながら集中すると


『…ここにやって来た強き者たちよ。もっと強くなりたければ飛び込むが良い。この星の他の大陸で強くなりたければここに飛び込むが良い』


 そうして言葉が切れ、しばらくすると再び同じ言葉が脳内に伝わってくる。



「この星には他にも大陸があるのか…」


 デイブが言った。


「そうみたいだな。さっきから同じ言葉を何度も繰り返している」


 ダンがそう言って顔を上げてデイブを見るとデイブがダンを見ていた。


「どうする?」


 とデイブが聞いた。ダンはデイブの目を見て


「俺は強くなりたい」


 と言う。デイブはそのダンの言葉にすぐに返事はせず、一旦座ろうかと言った。デイブの言葉で火口の縁に座る二人。


「オーブを試してみよう」


 ダンが魔法袋から取り出したオーブをデイブに渡す。そして魔力を注ぐと暫くして反応が来た。


「いつもより感度が悪いわね」


 オーブの向こうでミンが言う。確かに今まで程明瞭な声ではない、オーブに映る画像も鮮明ではないが相手がわからない程ではない。


「オーブを切らずにこのままでワッツとレミーを呼んでくれないか?」


「わかった。このままオーブを持って移動しちゃうね」


 そう言ってミンがオーブを持ち上げると視界が暗くなった。袋の中に入れた様だ。そのまま待っているとオーブの向こうが明るくなりいつもの3人が映っている。


「少し前までオーブが使用できなかったんだ。何かの干渉を受けていたみたいだ」


 そう前置きしてからデイブが前回の報告から今までの事を話しする。オーブの向こうで3人はじっと話しを聞いていた。ミンは聞きながらメモを取っている。


「つまりお前たちが山の中腹で見つけた洞窟がそこに来る為の入り口だったってことか」


 ワッツが言うとその通りだと答えて、


「そういう訳で洞窟の中にあった鉄の扉の門番をしている2体のゴーレムを倒して、その魔石を扉にはめて開いた扉から中に入って、誰かが作った階段を登ってきてその横穴を歩いて来て今ここにいるんだが。そこにあったのがこれだ」


 デイブはオーブを持つとそれを火口に向ける。


「見えるかい?」


「何なんだ?それは?」


 黙っていたワッツの声が聞こえてきた。3人ともオーブに顔を近づけている。


「黒い雲の様な渦がこの火口で激しい勢いで渦巻いている。そしてこの渦から脳内に強くなりたければここに飛び込めと言う声が聞こえてきている」


 そう言ってデイブが実際に脳内に聞こえてきた声を復唱し、オーブを元の位置に戻すと3人の驚愕した顔が写っていた。


「ダンにも聞こえているのか?その声は?」


「聞こえている」


 ワッツの言葉に短く答えるダン。


「それで…お前たちはどうするんだ?」


 ワッツが続けて聞いてきた。


「俺の答えは決まっている。俺は強くなりたい。それだけだ」


 ダンは飛び込むと言っている。オーブの向こうで3人の視線がデイブに向いた。


「他の大陸に飛べる様な場所がここにあるってことは、行った先にも同じ様な場所がある可能性が高い。いつになるかはわからないがこっちに戻って来られる可能性があるなら飛び込んでみようという気になっている」


 デイブが言うとオーブの向こう側で暫く沈黙があった。しばらくしてから


「お前たちの人生だ。好きにすればいい。そしていつかまた戻って来た時に俺の店に顔を出してくれればいい」


 ワッツが言うとレミーもミンもそうね、自分たちのやりたい様にして、後悔しない様にしたらいいわよと言った。



 結論が出た。


「ありがとう。また会える日を楽しみにしているよ」


 そう言ったデイブ。ダンがオーブに顔を向けて


「色々と世話になった。強くなって帰ってくるよ」


 ダンの言葉に大きく頷いている3人。



「じゃあそろそろ行くよ」


 しばらく沈黙のあとデイブが言った。


「あっちでも一応オーブは試してみてね」


「分かった」


 ミンの言葉にデイブが答えると通信を終える。


「オーブはアイテムボックスに入れておこう。その方が安心だ」


「確かにな」


 デイブがアイテムボックスをオーブを収納した。二人が立ち上がると火口の縁に近づいて下を覗き込む。


「さて、どんな世界が俺達を待っているのか楽しみだな、ダン」


「その通り。どんな強い奴らがいるかと考えるとワクワクするよ」


 最後に拳を合わせる二人。


「行くぞ!」


 デイブの声に合わせて二人は同時に激しく渦を巻いている黒い雲の中に飛び込んでいった。




【完】




 これにて一旦完結となります。最後までお読みいただきありがとうございました。

 現在この続編(仮名:新大陸編)を執筆し始めています。

 

 ある程度書き溜めができた時点で公開する予定ですので

 引き続きよろしくお願いします。


                            花屋敷


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ノワール・ルージュ 花屋敷 @Semboku

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