第106話
「ボスが大型のワイバーンだったと?」
レーゲンスに戻ってギルマスに報告するとギルマスであるカントレーが素っ頓狂な声を出した。
「大型のワイバーンってそりゃドラゴンじゃないのかよ?」
「ドラゴンにしちゃあ小さかったよな?」
「ああ。途中のフロアにいたワイバーンの大きな奴だとばかり思ってたよ」
デイブとダンがギルマスとそんなやりとりをしていると魔石の鑑定が終わった様で職員がドアをノックして入ってきた。
「魔石はドラコンの魔石でした」
「!!」
まさかとびっくりするダンとデイブ。
「ランクはSSSSクラスですね。こんなの見たことがありません」
と魔石を持ってきた職員も興奮気味だ。ギルマスのカントレーは呆れた顔をして目の前に座っている二人を見ている。しばらくしてから
「ドラゴンを討伐したなんて話は聞いたことがないぞ」
ギルマスが言った。
「ずっとワイバーンだと思ってたよ」
「そうだな。あれがドラゴン?おそらくドラゴン種の中でも最弱の奴じゃないか?」
デイブが言った後にダンが続けた。カントレーがどうやって倒したんだと聞いてきたのでデイブが説明をした。その説明が終わるとう〜んと唸り声を出すギルマス。
「SSSSのドラゴンを無傷で倒しただと?炎を避けて口の中に精霊魔法を撃って水蒸気爆発させただと?」
「その通りだ。爆発をしてのけぞったところにダンが目にも止まらない速さでその首に無数の傷をつけた」
「まぁ今まで対戦したダンジョンボスの中では一番強かったかもしれないな。結構手こずったよ」
ダンが言うとソファに座って体を伸ばしていたカントレーが上半身を起こしてテーブル越しに二人の方に身を乗り出してきた。そして
「手こずったで済む話じゃないだろう? まぁいい。これ以上言っても同じだ」
「何をカリカリしてるんだい?」
訳がわからない二人。ダンジョンをクリアして報告してからずっとこれだ。
「お前さん二人には今までの冒険者の概念ってのが全く通じないってのが頭では分かっていたつもりだったのにこうやってドラゴンの魔石を見て話を聞いてまた驚いている自分に腹が立ってるだけだ」
「なんだそりゃ?」
とダン。
「こっちに八つ当たりはやめてくれよ。お門違いって奴だ」
デイブが言うとカントレーは分かってると言ってからそばに立っている職員にむかって
「それでその魔石の買取価格について何か言ってたか?」
聞かれた職員はええ、と言ってから
「実はSSSSランクの魔石、しかもドラゴンの魔石は初めてなので値段が付けられないって言っているんです。もし無理やりにつけるとしたら白金貨1枚は下らないだろうって」
その言葉に今度はダンとデイブがびっくりして職員を見る。
「白金貨1枚? 金貨10,000枚分だぜ?」
そうなんですとデイブの言葉に職員が言い、続けて
「それでも少ないかもって言ってました」
「そんなに価値があるものなのか?」
デイブが言うとカントレーが
「レアな魔石ってのは錬金術ギルドに渡せばいくらでも使い道がある。今回はそれがドラゴンでしかもランクが桁違いに高い。この魔石を使えば武器、防具はもちろんそれ以外のところにいくらでも需要があるんだよ。もちろんこれを使うからその価格はべらぼうに高くなるがな」
そう言ってから白金貨1枚なら売ってくれるのか?とギルマスが聞いてきた。デイブはダンを見てどうする?と言うと
「俺達が持っていても使い道はない。そっちで使う方がずっと役に立つんじゃないかな。俺は売ってもいいと思う。そして足りないのならまたあのダンジョンのボスを倒して取ってくりゃいいだけの話だ」
ダンが言うと
「そうだな。欲しくなったらまたあのダンジョンに潜ったら取れるしな」
二人ともいつでも取れるという前提だ。聞いている職員とギルマスは声も出ない。
結局白金貨1枚でギルドが買い取ることにした。他のアイテムは自分達で使うというとそのまま収納するデイブ。
「ここの未クリアだったダンジョンはこれで全部クリアした。ヴェルスに戻るのかい?」
「そのつもりだ。いい鍛錬になったよ」
ギルドマスター室を出て受付に戻ると待っていた冒険者達に囲まれてそのまま酒場に移動した。これもいつもの事だ。
そうしてダンジョンについてデイブが説明していく。途中までの話しは既にしていたので19層の話をすると
「ワイバーンとトロル、どちらもSSクラスだと?」
と声が出る。
「そう。空と地上から同時に襲ってきた。俺が精霊魔法でワイバーンを倒し、ダンはトロルを倒して進んでいった」
「SSクラスをそれぞれがソロで倒しまくって進んでいったのかよ」
その言葉に頷くダンとデイブ。そうしてボス戦の話になるとまた酒場中から驚愕の声があがった。
「ドラゴンだと!?」
「俺達はワイバーンの大型だと思っていたんだが、倒して魔石を見たらドラゴンだって言われたよ」
デイブの話を聞いている周囲は声もでない。
「ブレス以上の炎を吐いてくるって話だが?」
「その通り、だがダンはそれを全部避けながら体に傷をつけていったよ」
「「炎を全部避けた?」」
「口を開けた瞬間に移動すれば食らわなかった」
あっさりと言うダン。いや待て待てと誰かが言った
「目の前に突っ込んできたドラゴンを避けてさらに炎まで避けながら攻撃したってか?」
「その通り。身体がでかいせいか予備動作が大きい。よく見れば十分に避ける時間はる」
「そう言えるのはダンくらいだろう」
話を聞いていたトムが声をだした。隣でノックスらも頷いている。
「そうか?来るって思ってからだと間に合わない。来る前に動けば問題ない」
「来る前?」
「感覚的なものだな。やばいって感じあるだろう?あれに似ている」
トムとダンのやりとりが始まるとデイブをはじめ周囲が黙って彼らの言葉を聞く。普段無口なダンが話をしているのもあるんだろう。賑やかな酒場の中が静かになって皆ダンの言葉に聞き耳を立てる。
「ダンはその感覚を常時持っているってことか」
トムの言葉に頷き、
「俺だって最初から持っていた訳じゃない。冒険者になって格上との戦闘を続けているうちに知らず知らずに身につけていったみたいだ」
「なるほど。常に格上と戦闘しているノワール・ルージュだから身に付く感覚か」
「慣れてくると無意識のうちに身体が動く様になる。あとは注意力だな。戦闘になると絶対に敵から目を離しちゃダメだ。常に相手を視界に捉えておくんだ。それだけで次の攻撃を予想できることがある」
レーゲンスいやこの大陸でも一番剣が強いと周囲が認めているダンの言葉は重い。皆黙っているがそこまでのレベルになるためにダンとデイブはどれだけの格上と対戦してきたんだろうと思っていた。
そしてその魔石を鑑定した職員が言ったボスのランクがSSSSクラスだったとデイブが言うとまた驚愕の声があがる。
「そんなランクの魔獣は見たことがないぞ」
「俺達なら瞬殺されるな」
「あのダンジョンは今まで挑戦してきたこの大陸の中にあるダンジョンで最もいやらしいダンジョンだった」
デイブが言うとランクSSSSならそうなるだろう。それにしてもそれすらクリアしてくるなんてなと皆が言う。
「皆敵のランクを気にしすぎだ」
またダンがポツリと言う。周囲の視線がダンに向けられた。
「敵のランクは参考程度に考えてたら良いと思う。格上だから強いはずだとか考えすぎると却って緊張して普段の力がでない。自分よりちょっと強い奴、この程度の認識で十分だと思う」
ダンは周囲の仲間達の顔を見ながら言った。
「確かにな。ランクSがいるからやめようとかじゃなくて自分よりちょっと強い奴をどうやって倒すかをまず考えろってことだな」
トムが言うとその通りだというダン。
「このボスも俺たちはワイバーンの大型だと思ってた。つまりはそう言うことだ。相手の種族やレベルばかり気にしていると戦闘できない。そしてどんな強い奴でも弱点は必ずある。それを見つけて攻め続ければ倒せるからな」
これまでの冒険者とは全く違う発想をするノワール・ルージュの二人。この二人の話はその後レーゲンスの冒険者の間で語り継がれていき、多くの冒険者達が自分達の考え方を変えてそれが成功する様になっていく。
そういてひとしきり話が終わると、
「レーゲンスの未クリアダンジョンも全て攻略したんで明日あたりにヴェルスに戻ろうと思っているんだ」
デイブの話を聞いている仲間もそうなるだろうと思っていた。この二人にはこの街でやるべきことはもうないのだ。
「長い間ヴェルスを留守にしたんでね。しばらくホームでのんびりするよ」
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