第105話

ダンジョンで4日過ごした二人は翌日を完全休養日としてしっかり疲れを取った翌日からダンジョンに潜り、今度は中で2泊して18層をクリアする。


「次のダンジョンアタックで19層、そしてボスまで一気にやろう」


 宿の食堂でデイブが言う。


「当然だな。そしてボスを倒したらヴェルスに戻るか」


「そうしよう。そこで大陸中央部に下見に行く準備だ」


 方針が決まった。装備を更新した二人、特にダンの剣の攻撃力は以前より数段上がっていた。一方デイブもスキルアップする度にエンチャントの威力が増し、精霊魔法も以前よりもずっと強力になっている。


 もはやランクSSの複数体でも全く危なげなく瞬殺に近いほど短時間で討伐できるレベルにまでなっていた。


 ギルドでは日々更新されるダンジョン攻略情報を見ている冒険者達がいつノワール・ルージュがこのダンジョンをクリアするかが毎日の様に酒場で話題になっていた。中にはクリアする日を賭けている冒険者達もいるほどだ。


「この前デイブに聞いたら今攻略している17層はランクSSが複数体徘徊しているフロアらしいぞ。それをダンジョンの中で野営をして2日で攻略しているらしい」


「あいつら本当に化け物だよな。ランクSじゃなくてSSかそれ以上だろう?あの二人」


 酒場ではそんな話があちこちのテーブルでされている。

 

 そんな中当の二人は19層を攻略中だった。

 19層はまた今までと趣が異なり、だだっ広い草原のフロアだった。爽やかな風が吹いて緑の芝生が風に揺れている。パッと見た目には気持ちの良い風景だが空にワイバーンという火を吹く小型の龍が飛んでおり、地上の草原にはランクSSのオークの上位種と言われているトロル達が常に3体、4体と固まって徘徊している。


「身の隠し場所がないか」


「進んでいったら小屋とかがあるんじゃないの?」


 そんな話をしながら攻略を開始した二人。ワイバーンはデイブが精霊魔法で地面に落としては剣で切り裂いていく。地上のトロルはダンが次々と剣でその大きな身体を切り裂いていた。


 普通なら空と地上にランクSSの魔獣がいて身を隠す場所がないフロア。攻略の難易度は極めて高いが二人にとってはそれほど脅威にもならず次々に魔獣を倒しながら草原を進んでいった。


 フロアを攻略して5、6時間程が経ったころダンが言っていた様に道のそばに木でできている小屋を見つける。中にはいるとそこは何もなくがらんとしていた。ダンが周囲を警戒する中、デイブが小屋の床を調べていく。外の様子を見ていたダンが小屋に入ってくると、


「ここには何もなさそうだ」


「上で隠し部屋があったからもう無いのかも?」


 そうかもなとデイブが言ってからガラスがはまっていない窓から外を見て


「安全地帯っぽいな」


 二人で木の床に腰を下ろした。


「この先にこんな安全地帯はあるかな」


 ダンが水を飲みながら言った。


「このダンジョンの下層部は野営前提のフロアばかりだ。ただ俺達はフロアの攻略の速度が早い。普通ならここに来るまでにほとんど1日掛かってるだろう。だからここが野営する場所になっているんだと思う」


「ということは?」


「そう。この先にもまだあるという保証はないってことさ」


 確かに俺達はほとんどノンストップで進んできたが、普通のパーティなら空と地上に魔獣がいればその討伐に時間がかかるだろう。ダンジョンの中で日が暮れる頃、あるいは日が暮れてからこの小屋に来ることになってもおかしくない。


「休める時に休んでおくか」


「そう言うこと」


「それにしてもダンジョンの中でも1日があるなんてどうなってるんだろうな」

 

 外を見ながらダンが呟くと、ダンと同じ様に水を飲んでいたデイブがダンを見る。


「ダンジョンは謎だらけさ。俺達が考えたって正解が出る訳じゃない。ただ言えることはこの謎だらけのダンジョンのおかげで俺達冒険者が生活できてるってことだ」



 小屋で一夜を過ごした二人は翌朝早々からフロアを進んで攻略を開始した。相変わらず空にはワイバーン、地上にはトロルとランクSSクラスの魔獣がそこらかしこにおり二人を見つけると襲ってくる。


 無尽蔵の体力のダンと無尽蔵の魔力のデイブ。連続して襲ってくる魔獣を討伐しながらその日の昼過ぎに20層に降りる階段を見つけた。結局二人が泊まった小屋以外には建物は見つからなかった。


 20層に降りていくと予想通りそこがボス部屋だった。


「さて行くか」


 デイブの言葉で休憩を終えて立ち上がる二人。何も言わなくてもデイブがレバーに近づきダンは両手に剣を持つ。


 デイブがレバーを下に引くと重そうなドアが音を立てながら左右に開いていった。すぐに中に入っていくダン。後からデイブが続けて入ってきた。


「なるほど。こいつは初めてだ」


 広場の中央には上の階で相手をしたワイバーンの大型化したボスが控えていた。ドラゴンと言っても良いかもしれない。体長10メートル程で今は羽を閉じたまま四つ足でダンを睨みつけている。


 ダンが右に、デイブが左に広がると最初にターゲットになったダンに体を向けたワイバーンは咆哮をあげるとそのまま四つ足で遅い掛かってきた。


「火を吹かずにぶつかってくるとは、俺達をナメてるのかよ」


 突進してきたワイバーンの攻撃を軽く横に動いて交わし側にその足から腹にかけて片手剣で傷をつけるダン。


 デイブは敵対心マイナス効果をフルに使って最初から精霊魔法を羽根の付け根にぶつけてくる。


 仕留めたと思ったら相手がいなかったのかワイバーンは咆哮を上げて再びダンに襲いかかろうとして顔を向けるといきなりダンの剣がワイバーンの鼻と髭を切り飛ばした。


 顔を向ける前に次の動作に入っていたダンの剣で鼻先を削られるとその場で大暴れするワイバーンそうして今度は口を開けると炎を噴き出した。


 ダンは口が開いた瞬間に移動していてワイバーンの炎はボス部屋の壁に当たると壁が黒く変色する。その後も右へ右へと攻撃を交わしながら移動していき隙をみては剣で切りつけるダン。そうして再び炎を噴き出そうと口を開いたその瞬間にダンが強烈な水魔法をその口にぶつけた。


 ワイバーンの口の中で水蒸気爆発が起こりその威力で思わず顔を天井に向けるワイバーンその時にはワイバーンに近づいていたダンの両手に持っている剣が目にも止まらぬ速さで動いたかと思うと首の付け根をバッサリと切り裂き、そこに今度はデイブが放った火の精霊魔法が直撃するとワイバーンの首が胴体からちぎれて飛び去りその場で絶命する。


「炎を避けられれば問題なかったな」


「そりゃダンだから言えるセリフさ」


 光の粒になって消えたボスの代わりに宝箱が現れ、中を開けると魔石、金貨、そして片手剣と靴が2足入っていた。


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