第104話

 アイテムの鑑定が終わると雑談になった。サム曰くこのレーゲンスではウィーナの店以外とは商売をする気がないので私の仕事はこれで終わりですよと言っている。


「今回の打ち合わせでお互いに欲しいものやそのタイミングについて理解が深まりました。次回以降毎回私が来るかはまだわかりませんが、それでも最低でも年に1度は顔を出すつもりでいるんですよ」


「そういえばサムは社長だけど自ら営業するって言ってたよな」


 デイブの言葉にそうそうと頷くサム。


「あんた達二人が本当に良い商人を紹介してくれたよ。サムの店から安定的に仕入れることができる様になるとこっちもかなり動きやすくなるからね」


 そう言ってウィーナが説明したのは今まではレーゲンス市内の商会や店から仕入れていたが一度に大量に仕入れると怪しまれるので時間をかけて少しずつ買い付けていたらしい。


「そりゃそうだろう。こんな小さな雑貨屋があちこちから商品を大量に買い付けたら目立つからね」


 確かにそうだとダンは話を聞きながら思っていた。ウィーナ曰くスラム街の入り口にある倉庫の事もほとんどの人が知らないらしい。


「そんな訳でこれからは楽になるよ」


 ウィーナは心底安心している様に見える。


「ところで今挑戦しているダンジョンはどれくらいの深さだと見てるんだい?」


 ウィーナが話題を変えて聞いてきた。デイブはダンと顔を見合わせると


「20層じゃないかと見てる。今15層までクリアした。16層は階段から見ただけだけど洞窟の様なダンジョンになっている。ひょっとしたらまたここも広いかもしれない」


「その装備に替えたから二人ともまた強くなってる。どんな敵が出てきても問題ないんじゃないのかい」


「だといいけどな」


 デイブが言ってからサムに顔を向けていつヴェルスに戻るんだい?と聞いた。


「明日ウィーナさんの店の荷物を積んで、それからちょっと市内を見て明後日も朝の出発の予定です。ギルドには既に護衛クエストを依頼してますから」


 またミスリルの小箱を積んで帰る様だ。サムにとってもミスリルが安定的に手に入るのはメリットが大きいんだろう。


 もう少しウィーナさんと打ち合わせをするというサム。二人はウィーナとサムに礼を言って店を出るとそのままギルドに顔を出した。


 昼前のギルドは閑散としていたがそこにトムのパーティがいるのを見つけて近づいていくと向こうも気がついて手を挙げてくる。隣に座ると


「お互いに変な時間にここにいるな」


 トムが話かけてきた。デイブが今日は休養日なんだよと言うと


「俺達はダンジョンをクリアして帰ってきたところさ。昨日クリアしたんだけどもう日が暮れそうだったからダンジョン近くに泊まってさっきレーゲンスに帰ってきたんだよ」


 聞くとそのダンジョンは最近ダンとデイブがクリアしたダンジョンだ。


「ノワール・ルージュがダンジョンの詳細な情報をくれたからさ、俺達もできるだろうって挑戦してきたところ」


「クリアおめでとう」

 

 デイブとダンが言うとメンバーからありがとうと声が返ってくる。


「魔獣の情報が事前にあって助かったよ」


 パーティの盾ジョブのノックスが言うと精霊士のリーも


「そうそう。魔獣のジョブとか強さが事前にわかってるから魔力の使い所もメリハリつけられるしね、おかげで魔力が切れることがなかったわ」


「そりゃよかった」


「で、そっちはどんな具合なんだい?」


 これにはデイブが今攻略しているダンジョンの話をする。


「15層でダンジョンで2泊か、キャンプできる安全な場所を探すのも大変そうだがそれよりもランクSSが徘徊してるっていう時点で今の俺達には厳しいものがあるな」


 そうトムが言うとノックスも


「そこまで降りなくてもその上のランクSクラスがいるフロアは鍛錬には良いかもしれないな。ランクS相手ならポイントも高いだろうし」


「クリア目的じゃないのなら悪くないダンジョンだと思う。低ランクの魔獣が少ないからな。5層でランクAが出てくる、トムのパーティなら7、8層までは普通に行けるんじゃないかな」


「今のデイブの言葉を聞くといけそうな気がしてきたよ。まぁ今はダンジョンをクリアしたところだからしっかり休んで回復してから次はそのダンジョンに挑戦するのもありかもしれないな」


 相変わらずダンとデイブの二人は情報を惜しげも無く皆に晒していく。ここレーゲンスではノワール・ルージュの情報に間違いはないと皆信用しているので皆がいろんな情報を聞きたがるが二人は毎回聞かれたことに足して丁寧に対応しており、それがまたこの街での二人の評判を高めていた。



 翌日二人は新しい装備の確認も兼ねてレーゲンス郊外の森の中でランクBやAを相手に身体を動かした。そして二人とも新しい装備の能力に感嘆する。特にダンが新たにもった片手剣は物凄い切れ味で、ランクAの身体をまるで豆腐でも切る様にほとんど抵抗なく切り裂いていた。


「こりゃ想像以上の剣だ」


「威力はもちろんだが使いやすそうじゃないの」


「その通り、軽くれ振りやすいし、剣自体のバランスもいい。良い物が手に入ったよ」


 ダンは新しい剣とバンダナの効果で昨日よりもさらに動きが速くなっていた。デイブは後ろからダンの動きを見ながらびっくりする。


 そうして軽く身体を動かした翌日、二人は再び攻略中のダンジョンに飛んだ。


 16層は洞窟のフロアだがフロアの中に通路が格子状に走っている。当然全ての通路は繋がっていない。何箇所も行き止まりになっていた。

 

 その中をランクSSを倒しながら進んでいく二人。全ての通路を確認しながらの攻略なので時間がかかる。新しい装備でランクSSを苦もなく倒していくダン。デイブも精霊魔法の威力が増大しており二人で無人の荒野を進むが如くフロアを攻略していた。


「今日も野営コースだな」


 前を歩いているダンにデイブが声をかける。


「そうなるな。ここも広いよ」


 二人は通路の行き止まりの場所で野営をし2日がかりで16層をクリアした。


 17層も同じ様な格子状に通路が走っているフロアでランクSSが複数体で徘徊している。ここも2日掛かりでクリアすると一旦地上に戻った。


「隠し部屋はなかったな」


「とはいえこのやり方でしらみつぶしに探していくしかないんだよな」


 デイブとダンはそんな話をしながら久しぶりにレーゲンスに戻っていた。

 


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