第107話
翌朝宿をチェックアウトした二人はウィーナの店に顔を出した。店に顔をだすなり、
「またダンジョンをクリアしたらしいじゃないの」
と言ってきたウィーナ。
「相変わらずの情報通だな」
「ノワール・ルージュが動けばこの街じゃニュースになるんだよ」
そう言っていつもの様にテーブルを勧めてお茶をもってくる。
二人に注いでから自分も座ってお茶を一口飲むと、
「それでボスからはいいのが出たのかい?」
これだよとデイブがアイテムボックスから片手剣1本、靴を2足とりだした。
「ボスは何だったんだい?」
片手剣を手に持ったウィーナが言う。
「ドラゴンだった」
その言葉を聞いて顔を上げるウィーナ。
「とうとうドラゴンまで倒せる様になっちまったのか。文字通り大陸最強の冒険者になったね」
それからどうやって倒したのか聞いてきたのでデイブがそのボス戦を詳しくウィーナに話ししていく。聞いているウィーナは時折ダンに顔を向けてその話を聞いていた。
デイブの話が終わると再び顔をダンに向け、
「ダン、怖くはなかったのかい?」
「恐怖はなかったな。動作が大きいから次にしてくる動きが読めるし」
「あっさりと言うねぇ。普通ならそれができないんだよ」
「俺にとってはボスよりも隠し部屋のNMの虎の方がずっといやらしかったよ」
ダンが言うとなるほどねと言ってウィーナは手に持っていた片手剣をテーブルにおくと、
「これはエンチャント効果がアップする剣だ。しかも剣そのものの威力も高い。デイブ用だね。今の右手のエンチャントの剣を左手に、そしてこれを右手に持つといいだろう。両手で常時エンチャントできるよ」
「そりゃいいな」
早速その通りにするデイブ。次に靴を持って見ていたウィーナ。
「流石に強いボスだね。この靴はおそらくこの世に2つとないだろう。素早さが上がる効果とそれとは別に縮地という効果が付与されてるね」
「縮地?」
デイブが何それと聞くと
「縮地ってのはね一瞬でその場から移動できる能力さ。これを鑑定すると縮地で移動できる距離は最大で20メートル。ただしリキャストがあるね。5分だね」
「そりゃまた凄いのが出てきたな」
「靴自体に素早さが上がる効果があって縮地だろう。おそらく相手の攻撃はほとんど避けることができる様になるね」
ダンとデイブは早速新しい靴を履いた。それを見ていたウィーナ
「うん。しっかりと効果が出ている。それにしても難易度の高いダンジョンってのはレアな装備の宝庫だね」
そう言ってからあんたら二人以外じゃクリアはできないんだろうけどねという。鑑定が終わると雑談になった。お茶を飲んでいると、
「そうそう。あんた達からもらったクリスタル結晶体から作ったオーブが出来上がったよ。こっちはユーリーの家に置いてある。向こうはゴードンの屋敷らしいね」
それを聞いておおっと声を上げる二人。
「それでそのオーブの調子はどうだい?ちゃんと使えるのかな?」
デイブが聞いた。
「使えるなんてもんじゃないね、あれは。顔や声がまぁ目の前にいるくらいに鮮明に写り、聞こえてくるよ」
ウィーナが即答した。
「そりゃよかった」
ダンも良かったなと言った。
「ゴードンもユーリーもあんた達には感謝してるよ」
「これでまた便利になってオウルの人の生活が良くなるんじゃないか」
「ダンの言う通りさ。早速オウルから次に欲しい商品の連絡が来てあたしゃバタバタしてるよ」
そう言うウィーナの声は笑っていた。自分達が持っているよりもずっと有効な使い方をしてくれている様だとダンとデイブは安心していた。ひとしきりオーブの話が終わると、
「これからヴェルスに帰るのかい?」
とウィーナが聞いてきた。
「その通り、長くここにいたけど一度地元に帰ってゆっくりと休んでから中央部の山裾にお試しで行ってくるつもりだ。いきなり山の奥まで行かずに手前の山を登ってみて雰囲気を見て感じるつもりだよ」
「なるほど。まぁ今のあんた達の装備と実力なら変なことにはならないだろうけどあそこはほとんど情報がない場所だ。大丈夫だとは思うけど気をつけるんだよ」
「ありがとう」
そう言って立ち上がる二人。ダンがウィーナに
「本当に色々と世話になった。礼を言うよ」
「ふん。水臭いこと言うんじゃないよ。また来るんだろう?」
ウィーナが言うと
「もちろん。そん時はまた世話になるよ」
とダン。
「ああ。待ってるよ」
そうしてウィーナの店を出た二人は最後にギルドに顔を出してギルマスにヴェルスに戻ることを伝える。
「お前さん達がこの街にいてくれたおかげでここの冒険者達の目の色が変わった。俺からも礼を言わせてくれ」
「こっちはいつも通りのことをしてそれを話してただけだけどな」
ギルマスの部屋でジュースを口に運びながらデイブが言った。
「ランク上位者の言葉は重いんだよ。それにお前さん達には十分な実績もある。ここのランクAは皆ノワール・ルージュを目標にしてるのさ」
「大したことをした記憶はないが俺達がいたことによってこの街の冒険者の質が上がったのならそれはそれでよかったよ」
ダンが言うとその通りだよと言うギルマス。
「またレーゲンスに来てくれ。ノワール・ルージュはいつでも歓迎だ」
そう言って送り出された二人は長く滞在したレーゲンスを後にして城門から荒野に出ると一路ヴェルスを目指して歩きだした。
途中で新しい靴の効果である縮地を試した時はその性能の素晴らしさに驚く二人。そして野営の時にはアイテムボックスから取り出した暖かいスープを飲んでぐっすりと休む。
そうして荒野を歩いて行き、60日後の夕刻に二人は久しぶりにホームタウンのヴェルスの街に戻ってきた。
この街を出てから1年以上経っていた。
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