第91話

 2人は決めた通りにまずは街に近いダンジョンの攻略を開始した。2日ダンジョン、1日はフィールド、そして1日は休養日と3勤1休みのいつものローテーションで動いていた。

このペースは冒険者を始めた頃から変えていない。


 そして最初に挑んでいるダンジョンで2人は今10層をクリアして11層に降りてきたところだった。9層まで攻略されていたダンジョンだ。


「ここからランクAの複数体か」


 階段から11層を見ているデイブが言う。二人の目の前には通路の先にランクAが2体固まっているのが見えている。


「行こうか」


 水を飲んでいたダンがボトルを魔法袋に戻すと立ち上がる。続いてデイブも立ち上がると2人で無造作に階段を降り通路を歩き出した。



「挑戦したと思ったらもう12層までクリアしたのかよ」


 夕刻にギルドに戻ってきた2人を見つけた冒険者が声をかけて来る。ギルドの掲示板のダンジョン攻略情報が更新されてノワール・ルージュの2人がこのダンジョンに挑戦しているのはここのギルドでは知らない者がいない程だった。


 そうして酒場で聞かれるままにダンジョンについて話をする2人。これもいつもの光景だ。2人の周囲には冒険者が集まっていて皆真剣な顔をして2人の話を聞いている。


 ランクSの冒険者の戦闘方法は技量の差、そして2人組みといういうことで参考にはならないがフロアの情報やそこにいる魔獣の情報は大いに参考になる。


 ダンもデイブも攻略したダンジョンのフロアについては以前から隠すことなく全てオープンで聞かれるままに答えていたので冒険者から見ると目の前の2人は信用できる最大の情報源だ。


「なるほど、参考になるな」


 話を聞いていたこの街所属のランクAの冒険者が声を上げた。


「どんな種類の敵がいてそいつらがどう言う攻撃をしてくるが事前に分かるだけでもでかい。いつも悪いな」


「平気さ。俺達がこうやって話をすることで事故が減るのなら全然問題ないね」


 

 その後も4日のうち2日をダンジョン攻略に費やし、10日後に二人は攻略しているダンジョンの15層のボスを倒してクリアする。ボスはランクSSクラスで途中の階層には宝箱はなく、またボスを倒した戦利品も既に二人が持っている装備だった。


「普通はこんなもんだよな」


 と二人とも最初から上手く行くとは思っていなかったので全く気にしていない。

 ダンジョンをクリアしてギルドに戻るとボスの魔石やアイテムをギルドに買い取ってもらった二人。そのまま併設の酒場で聞かれるままにダンジョンの様子を答える。


 二人にとっては欲しいアイテムの出なかったダンジョンだが未クリアだったのがクリアされたとなると他の冒険者から見ればそのダンジョンの中の情報は今後の攻略の参考になるので皆二人の話を聞きたがった。


「ボスはランクSSクラスだけど前衛ジョブだった。ランクAのパーティならその上の14層でしっかり鍛錬したらガチでいけると思うぜ」


 テーブルの上に置いてあるジュースを口に運んでデイブが言う。今はまだ昼間だ。流石にこの時間からアルコールを飲んでいる奴らはいない。


「なるほど。いやらしい攻撃がないのならガチでいけるな」


 デイブの話を聞いたトムのパーティ所属の盾ジョブのノックスが言うとノックスなら受け止められるだろうとダンとデイブも口を揃える。


「ボスよりも14層にいるランクSの魔道士の方がいやらしいかもしれない。大抵は前衛ジョブとセットになってるからな。ここでしっかり鍛錬して慣れた方が良いな」


 デイブの言葉に頷く周囲の冒険者達。


「二人はどうやってたんだい?」


「力技かな」


「力技?」


「ダンが突っ込んでいく。敵は魔法を唱えようとするのでそれは俺の魔法で詠唱中断させる。その間にダンは前衛ジョブを切り裂いてそのまま次の魔法を詠唱する前に魔道士の首を刎ねる。ダンの剣で倒れなかった前衛ジョブの敵は魔法を中断させた俺が剣で止めを刺している」


「敵の群れに突っ込んで言ってるのか。確かに力技だな」


 デイブの説明に納得するノックス。


「盾がいないからな。俺達は最初から、二人でペアを組んだ時からずっとこのやり方でやってる。そして大怪我もせずもちろん死んでいない。つまり俺達二人にとってはこのやりかたは間違った戦闘方法じゃないってことだ」

 

 ダンが平然と答える。二人ともあまり表情を変えないが特にダンはほとんど表情を変えない。いつも普段通りだ。口数も多くなくたいていはデイブの隣で黙っているだけだ。


 ただ黙っているだけでもその存在感というか出ているオーラは半端ない。その無口なダンが口を開くと場の雰囲気が一気に締まるのはいつものことだ。


「流石のランクSってところか」


 パーティの戦士であるハワードが呟いた。


「いずれにしてもあのダンジョンはいやらしくない。ランクAの鍛錬の場所としては悪くないと思うよ」


 デイブがそう言って立ち上がるとダンも立ち上がる。


「すぐに次のダンジョンに挑戦するのか?」


 立ち上がった二人に座っているノックスが声を掛ける。デイブが少し休んでから挑戦する予定だよと言ってそのままギルドの酒場から出ていった。


「ノワール・ルージュの二人の迫力というか存在感は半端ないな」


「ランクSになったら一段と迫力が出てきてると思わない?」


 ハワードの言葉に僧侶のエマも続ける。


「その通りだ。座ってるだけでオーラがバシバシ出てる。そのオーラだがデイブも凄いがダンはそれ以上だ。恐らくあいつらランクSS相手でもほとんど無傷で倒してるんだろう。桁違いの強さだぜ」


 酒場の出口に顔を向けながらトムが言った。


「ランクSのあいつらのおかげでダンジョンの攻略の方法が見えてきた。参考にさせてもらって俺達も挑戦しよう」


 ノックスが言うと他のパーティメンバーも俺達もいけそうな気がすると頷いていた。

 

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