第85話

 ダンジョンをクリアした翌日は休養日としてしっかりと休んだ2人。ダンジョンをクリアして当面フィールドで軽く身体を動かすことにしヴェルス郊外の森でランクAを乱獲して夕刻に街に戻るとギルドに魔石を出して換金をする。


「今日はどこで晩飯を食おうか」


 そんな話をしながら大通りを歩いていると


「おい、あれってサムの店じゃないのか?」

 

 デイブが声をあげた。ダンもデイブの顔の方向に自分の顔を向けると大通りから横道に入ったすぐの建物、その建物に上にラウンロイドで見たサムの店の紋章が掲げられているのが目に入ってきた。大通りには面していないが広い横道沿いにあり大通りから十分に見られる場所にある建物だ。


「サムはこの街に店を出したのか。行ってみようぜ」

 

 そう言って2人で店の中に入っていくと店員が出てきた


「ここの店ってラウンロイドのサムの店の出先?」


「そうです。社長もいらっしゃいますよ」


 そう言うので2人の名前を言って多忙じゃなければ挨拶したいと言うとちょっとお待ちくださいと奥に引っ込んでいった店員。


 すぐにサムが店の奥からニコニコした顔で出てきた。


「おひさしぶりですな」


「こんにちは。ヴェルスに店を出したんだ」


「ええ。これからはもっとヴェルスとの商売を拡大し、ここを起点にレーゲンスまで商売範囲を広げようと思いましてね。新しく店と倉庫をこの街に作ったんですよ。ようやく店も落ち着いて、倉庫にもそれなりの品物が入ってきてこれからといったところです」


 デイブの言葉に答えるサム。


「なるほど」


 そうして店の中にあるテーブルをすすめられた2人。座ると店員がジュースを持ってきた。


「倉庫も作ったしこれからは今まで以上にレミーの防具屋に良い商品を卸すことができると思いますよ」


 そう言われてみるとここの店はラウンロイドの店と違って店の中に一般客を相手にする様な陳列棚がない。気がついたダンが言うと、


「今まではラウンロイドから商品を持ち込んでこの街の得意様に卸していました。そのつながりは大事にしたいのでこの街に店を出しても直接売る気はないんですよ。今まで付き合ってきたお客様の店に卸す仕事がメインとなります」


 ダンは話を聞いてサムという商人が律儀でお客との信頼関係を大事にする優れた商売人だと感心する。


「人とのつながりは大事ですからね。信頼関係は築くのには時間がかかりますが壊れるのはあっという間です。私は今まで気づいてきた関係を大事にしたいのですよ」


「そういう考えだからレミーもワッツもサムを信用しているんだな」


 デイブが言う。


「私から見ればワッツもレミーも信用に値する人物です。そう言う人達とはいつまでも良い関係を続けたいと考えていますから」


 サムはそう言うと続けて


「ところでしばらくはヴェルスにいる予定なんです?」


「いや、もう少ししたらレーゲンスに行く予定をしている。ヴェルス周辺にある未クリアのダンジョンをクリアしたので今度はレーゲンス周辺にある未クリアダンジョンに挑戦しようと思って」


 デイブの口からレーゲンスと言葉が出てきて思わずサムが身を乗り出した。


「レーゲンスですか、いつ頃になりそうですか?」


「10日か2週間くらいしてからかな。しばらくダンジョンに篭っていたのでヴェルスでしっかり休養を取ってから向かおうかと思っている」


「よかったらですが、レーゲンスに行く時に私も一緒にいかせてもらえませんですか?お二人は私の護衛ということでクエスト扱いにさせてもらいます」


 サムの話を聞いてびっくりする2人。


「そりゃ良いけど、まだヴェルスに来て直ぐじゃないの?」


「ヴェルスは以前から何度も来ています。ここはもう地元と同じ感覚なんですよ。それよりレーゲンスのお客様の開拓の方を同時に進めないとこの街に倉庫を建てた意味がありませんからな」


 倉庫を作った背景はここヴェルス以外にレーゲンスへの売り込みも考えての事の様だ。

 どうしようか?とデイブがダンに聞いてきた。


「俺達はレーゲンスでダンジョンに潜る予定だからあちらでの滞在期間は長くなりそうなんだよ。行きは一緒に行くのは全然構わないけど帰りは護衛できないんだけど?」


 サムはダンを見てそれは大丈夫です、あちらで冒険者を雇いますからと言い、


「それよりも、レーゲンスでお二人おすすめのお店、私どもの商品を取り扱ってくれそうな店に心当たりはありますか?」


 と聞いてきた。


「あるよな」


「ある」


 デイブとダンが顔を見合わせて同時に答える。そうしてデイブが言う。


「レーゲンスで世話になっている店がある。店構えは大きくない。むしろ小さい方だろう。でもそこはかなりの商売をしている様だ。そして店主、店主は女なんだが、彼女は鑑定スキル持ちだ。かなり高位の鑑定スキルを持っている。売っている品物に間違いはない。俺達はレーゲンスでずっと彼女の店にアイテムを持ち込んだり買ったりしていた。信用できる人物だよ」


 デイブが言うとダンも


「レーゲンスはラウンロイドやここヴェルスよりも大きい街だ。他にも店があるかもしれないけど俺達はその店でしか買い物をしていない。それでもよければその店を紹介するよ」


 2人の話を聞いていたサムは内心でこの2人がそこまで信用している店ならばまず問題ないだろうと思っていた。聞いている限り2人はその街の女店主からも好かれている様だ。そしてダンとデイブとの関係をより良いものにするためにはその店に顔を出してみるのが得策だろうと考えていた。


「そういう店があるのなら是非に紹介してもらいたいですな」


「それくらいお安い御用だよ」


 そうしてその店、ウィーナの店で取り扱っている商品群を聞いたサムはとりあえず倉庫の中にある商品をいくつか見繕って馬車で持ち込むことにすると言い、今から2週間後に2人を護衛として雇ってレーゲンスを目指すことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る