レーゲンス
第86話
「おはようございます。よろしくお願いします」
時間に城門前にいくと馬車とその横にサムが立っていた。馬車はラウンロイドとヴェルス間で見る馬車よりも一回り大きい。デイブがそれを言うと、
「レーゲンスまでは60日近くかかりますからね。一度にできるだけ多くの荷物を運んだ方が効率が良いんですよ」
「なるほど」
「ヴェルスのギルドに出しておいた護衛クエストは受けておられますか?」
「大丈夫だ」
「では参りましょうか」
サムの声で一行は城門を出ると南西に伸びている街道を進み出した。馬車の左右にダンとデイブが位置どりし、のんびりと街道を進んでいく。
ダンとデイブにとっては2度目の街道であることと今回は護衛をしているということから常時周囲に気を配っている。一方サムは初めてのレーゲンスということで馬車の御者台に乗って左右の景色を見ていた。
「街を離れると文字通りの荒野になりますな」
「川もなくて水がないんだよ。レーゲンスまで厳しい地形が続くよ」
馬車の右側を歩いているデイブがサムの言葉に答える。
野営は2人が交代で行いながら街道を進んでいく。途中でランクBの魔獣が襲ってきたが遠隔から精霊魔法を撃つとその場で倒していき魔獣が近寄ることもない。
相変わらずの魔法の威力。馬車に近づく前に魔獣を倒していく2人を見て、2人とはいえ普通のパーティの護衛よりも安心できるとサムは安心する。それにしてもワッツやレミーが言っていた通りだ。魔法の威力が以前よりも増している。おそらく剣も相当強くなっているのだろうと感じていた。
荒野で野営をして食事をとっている時にサムが2人に話しかける。
「レーゲンスの先にオウルという街があるみたいですがご存じですか?」
ダンとデイブは顔を見合わせる。
「知ってるよ。この前レーゲンスに行った時に聞いたよ。それにしてもサムも知っていたんだ」
干し肉を口に運びながらデイブが言った。
「事前にできるだけ情報を集めるのは商人の鉄則ですからな。それでオウルの街についてはレーゲンスではどういう評判なんですか?」
聞かれたデイブはオウルという街は謎の多い街で、街から人は出てこずどうやって生活しているのかも不明だ。ただレーゲンスの人にとって彼らがオウルの街から人が出てこないのであまり気にしていない様だと言う。
「なるほど。そうなると私も気にしなくても良いということになりますな」
「そうなるね。残念ながらオウルとは商売はできそうにはないけど」
「その分レーゲンスでしっかりと稼がせもらいますよ」
ダンは黙って2人のやりとりを聞いていた。サムの口調では彼がオウルについてこれ以上の情報を持っていてわざと明かさないのか、それとも本当に知らないのかがわからない。もっともダンもデイブもオウルの本当の姿やウィーナとの関係については誰にも言うつもりがないのでレーゲンスの街で流れている噂話をサムに話しているだけだ。
赤茶けた荒野を進むこと60日、ようやくレーゲンス郊外の村に着いた一行。久しぶりに宿でしっかりと疲れを取った2日後、一行の目の前にレーゲンスの街の城壁が見えてきた。
城門を潜ると馬車は大通りを進んで一軒の大きな宿の前に泊まる。城門にいた警備兵に聞いた宿で馬車が停められる宿の1つだ。宿泊代は高いので泊まるのはサムだけだが2人は最後まで付き添ってそこで馬車と馬を切り離して馬を厩舎に運んでいくのに立ち会う。
「お疲れ様でした。今日はゆっくりと休みましょう。お二人のお勧めの店には明日の朝伺うということでいいですか?」
「お疲れ様。こっちはそれで構わない」
そう言ってサムからクエスト証明書をもらった2人はその場でサムと一旦別れた。
「おい、あれダンとデイブじゃないか?」
夕刻のギルドの中、外から戻ってきた多くの冒険者達がギルド内にたむろしている。
扉が開いて中に入ってきた二人を見つけて声を出したのはこの街でランクAの冒険者をしているノックスだ。以前二人がこの街に来た時に面識がある。
ノックスの声に他の冒険者達も入り口をみる。黒と赤のローブの二人組。前回来た時に二人を見ていた冒険者もいれば今回初めて二人を見る冒険者もいる。
ただその全ての冒険者がこの二人の名前とランクを知っていた。
ダンとデイブ。ノワール・ルージュと呼ばれていてランクは大陸唯一のランクSだ。
ノックスの声に同じパーティのトムも顔を動かし、
「ランクSの二人だな。またこの街にやってきたってことか」
「そうだろう。それにしても以前よりもオーラがあるみたいだな。迫力が違うぜ」
ノックスの言葉に頷くトム。同じメンバーのハワードも
「特にダンの迫力が半端ないな。以前も半端ない迫力があったがそれが一段と増している」
と言いうと周囲のメンバーが皆頷く。
この街でトップの地位にあるノックスのパーティのメンバー達が話をしているのを聞いている周囲の冒険者達はそのやりとりを聞いてから再び顔を二人に向ける。
その二人はギルドの受付カウンターでギルマスのカントレーに面談を求めていた。奥に引っ込んでいた受付嬢が戻ってきて二人をカウンターの奥に案内する。
「久しぶりだな」
ギルドの執務室に入ってきた二人を見てギルマスのカントレーが机から立ち上がって近づいてきた。握手をしてソファに座ると
「お前さん達がランクSになったという通達を掲示板に貼り出した後はここのギルドも大騒ぎだったぜ。お前さん達を知っている冒険者も多いからな」
「あちこちに行ってダンジョンで格上を相手に鍛錬していたら気が付かないうちにポイントが貯まっていたって感じだよ。AでもSでもやることに変わりはないしな」
例によってメインのやりとりはデイブがする。ダンは黙って聞いていた。
「それで今回も鍛錬か?」
「そうなる。商人の護衛でこの街に来たんだけど、ついでにここで未クリアのダンジョンに挑戦しようと思ってね」
デイブの話を聞いているカントレー。目の前の二人はもう地上だと敵はいないだろう。あとはダンジョンに潜るしかないだろうと思っていたので
「確かにこのレーゲンスはダンジョンが多い。未クリアもまだいくつかある。好きなだけダンジョンに挑戦してくれ。ランクSには何の制限もないからな」
二人の顔を見て言った。
ギルマスとの挨拶を終えた二人が奥から出てきてギルドの受付に戻ってくると酒場から声が掛かる。
「久しぶりだな」
声を掛けたノックスに近づいていく二人。すぐに二人のために椅子が用意された。
「ランクS昇格おめでとう。お前さん達ならまぁ当然だよな」
椅子に座った二人にノックスが声を掛けた。周囲もおめでとうとかやったなとか声をかけてくる。
「久しぶり、お前達ならやると思ってたよ」
違うテーブルから声が掛かる、そこにはランスらのパーティメンバーが座っていた。そちらを向いて挨拶をする二人。そうして改めて正面を向いた。
「二人ともまた一段と迫力というかオーラが出てきてるぞ」
「そうか?当人は全く気が付かないけどな」
トムの言葉にデイブが答える。隣に座っているダンも、
「俺達は何も変わってない。普段と同じことをやり続けてるだけだよ」
と二人とも無頓着というかいつも通りだ。
ただ、当人達は全く気がついていないがオーラは周囲にはわかる。二人とも以前から普通じゃないオーラを醸し出していてランクAの上位の冒険者の連中にはそのオーラが見えていたが今では二人の強者のオーラがギルドの中にいる冒険者全員がわかるほどに強くなっていた。
様々な経験をし、自分たちより1ランク、2ランク上の魔獣を鍛錬の相手として数多くの戦闘をこなし、その全てに勝ってきた者のみが出すことができる強者のオーラだ。
「しばらくこの街で鍛錬かい?」
「ああ。ダンジョンが多いしな。未クリアダンジョンを中心に鍛錬しながら攻略しようかと思ってる」
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