第84話

 休息をとった2人はそのまま24層を攻略した。広場ごとにランクSSが固まっているがそれらを倒していった2人はいくつか広場を抜けて下に降りる階段にたどり着いた。


「ボス部屋か」


 階段を降りた先は予想通りこのダンジョンのボス部屋だ。目の前に鉄の扉がありそれがしっかりと閉まっている。


「さっきのベヒーモスクラスかな?」


 ダンが閉じている扉を見ながら言う。


「おそらくな。ランクSS以上なのは間違いない」


 デイブがレバーを引くとダンが扉の向こうに飛び出した。


「ベヒーモスだ。たださっきのよりも小さい」


 背後からデイブの声が飛んできた。広場には先ほど倒したのと同じベヒーモスがいるがこちらの方が一回り以上小さく全長は7メートル程だ。


「てことはあいつより弱いってことだ」


 そう言ったダン。さっきと同じ様に左右に分かれると前足と後ろ足を交互に攻撃していく。そうしてさっきよりも短い時間で討伐に成功した。


「さっき強いのをやっつけていたせいか、こっちは全く物足りない程弱かったな」


「その通り。ただいきなりこの部屋に来たらこいつでもそれなりの難易度だったろう」


 ダンとデイブが話をしているとボスが消えて宝箱が現れた。デイブが箱を開けると中には魔石の他に大きな角が2本、そして皮、それから指輪と片手剣が入っていた。


 それらを魔法袋に収納すると部屋の隅にある石板にカードをかざして25層から地上に戻っていった。


「またダンジョンをクリアしたらしいな」


「未クリアだったんだろう?どんだけ強いんだよ」


 ヴェルスのギルドに戻ると早速そこにいた冒険者達から声をかけられる。そうしてギルマスの部屋に入った2人はプリンストンにダンジョンクリアの報告をする。


「なるほどボスはベヒーモスだったのか」


 ギルマスの執務室のテーブルに置かれている魔石やツノ、皮と片手剣、指輪を見ていたプリンストンが顔を上げて2人を見る。そして鑑定を頼むと部屋に呼んだ職員が戦利品を手に持って部屋を出ていった。


「ボスのベヒーモスは体長は7メートル程。体を震わせた後ツノの先端から雷撃を撃ってきた」


「かわせるのか?」


「来ると思った時にその場所から左右どちらかに移動すれば雷撃は避けられる」


 ギルマスが聞いてきてダンが答えた。プリンストンはダンに顔を向けると


「お前だからギリギリのタイミングで避けられたんだろう。普通なら無理だな。というかその前のランクSSが複数体いるフロアでそこから先に進めないだろう」


「俺達も時間をかけてそのフロアを攻略したからな」

 

 デイブが言うとお前らのレベルでそれか。じゃあますます他の連中は無理だろうと言う。


 そんな話をしていると戦利品の鑑定を終えた職員が部屋に入ってきた。魔石とツノ、皮は最初からギルド買取と言っていたのでその金額を2人に渡すと


「この片手剣は特別な特徴がなく、よく切れる剣ということです」


「とりあえずこっちで持っておくよ」


 デイブが言う。ダンは黙っていたがこの片手剣もウィーナの鑑定になるのかなと思っていた。片手剣をデイブに渡した職員は指輪を持って


「これは精霊魔法のスキルが上がる指輪ですね」


「なるほど。じゃあそれもこっちで持っておくよ」


 それからしばらく話をしてからギルマスの執務室を出ると酒場で待っていた仲間の元に近づいていった。すぐに周囲に他の冒険者たちも集まってくる。デイブがクリアしたダンジョンについて聞かれるままに答えていく。


「ランクSはともかく、SSのフロアそれが複数体となると俺達はそこで詰むな」


 この街のランクAのミゲルが言うと周囲もその言葉に頷く。そうしてダンジョンのやりとりが落ち着いたところでミゲルのパーティのスミスが


「それでこれからどうするんだ?」


 と聞いてきた。デイブはダンと顔を見合わせてからスミスを見て


「とりあえずここヴェルスの未クリアダンジョンはクリアした。少し休んでからレーゲンスに行こうと思っている。あっちにも未クリアのダンジョンがいくつかあるらしいからな」


「なるほど。お前さん達ならもうフィールド上じゃあほとんど鍛錬にならないだろう。ダンジョンの深層部が鍛錬の場になるってことだな」


 スミスの言葉にそうなるなとデイブ。

 当たり前の様に複数体のランクSSを倒して鍛錬しているこの2人にはスミスが言っている通りダンジョンの深層部くらいしか格上の魔獣がいないレベルになっていた。


 この大陸の都市と都市とを結んでいる街道沿いはせいぜいランクA止まりで、ランクSを探すためには街道から大きく外れて荒野の中の山の奥に行かなければならない。そこまでしてもランクSが見つかる可能性が100%じゃない中、ダンジョンに潜れば少なくとも深層には高ランクがいる。効率を考えてもダンジョンに潜るのが一番だ。


 しばらく酒場で仲間と時間を過ごした2人はギルドを出るとワッツの武器屋に顔を出した。ダンジョンをクリアした話をして少し休んでからレーゲンスに行く予定だとデイブが話をする。店に入った時にワッツに言われてダンがレミーを呼んできていたのでテーブルに4人が座っている。


「ヴェルスの未クリアダンジョンはクリアしたとなるとレーゲンスに行くのは良い選択だ。未クリアのダンジョンに片っ端から挑戦していくつもりなんだろ?」


 ワッツの言葉に頷く2人。聞いていたレミーも2人を見ると、


「アイテムボックスがあるかどうかは挑戦してみないとわからないものね」


「その通りなんだよな。挑戦しないとわからない」


 デイブが言った。黙っていたダンは顔を上げると


「とは言え急いでいる訳でもないのでしばらくはこの街でのんびりするよ」


 そう言うとワッツとレミーもしっかりと休むのも大事だと言う。

 ボス戦で出た片手剣をワッツに見てもらったが一眼見るなり今お前らが持っている剣の方がずっと良いぞとあっさりと言い、デイブが片手剣を魔法袋に収納する。


 そうして話題が途切れたところでデイブがダンを見ていいかな?と聞いてきた。良いんじゃなないかというダン。ワッツとレミーは2人の師匠だ。当然知る権利はあるというのが2人の認識だ。


「実は」


 そう言ってデイブがクリアしてきたダンジョンに隠し部屋があることをワッツとレミーに伝える。その隠し部屋の様子を話すると身を乗り出す様にして聞いてくる2人。


「秘密部屋のNMか」


 デイブが話終えるとワッツが声を出した。


「実は俺たちも秘密部屋を見つけたことがある」


「2度?いや3度あるわね」


 レミーが言うとそう3度だと頷くワッツ。


「ただ俺達は全て部屋に宝箱があった。今お前らから聞いた様なNMがいる部屋は見つけたことがない」


「よっぽどレアなんだな」


 デイブの言葉にそうなるとなと言うワッツ。


「それにしてもボスより強いNMがいたのか。で、何を落とした?」


 デイブが魔法袋から腕輪、指輪そして水晶の様な塊を取り出した。テーブルに置かれた

アイテムを見る。その塊ををじっと見ていたレミーは


「ひょっとしてだけど、これってクリスタルの結晶体じゃない?」


 そう言うとワッツも


「俺もパッと見た時にそうかとは思ったがこれほど大きなのは見たことがないからな。100%そうだとは言い切る自信がない」


「クリスタルの結晶体?」


 デイブが聞くとレミーが説明してくれる。クリスタルの結晶体とは鉱山の奥で稀に発見される鉱物で遠距離通信をするオーブの原料となる極めて貴重な鉱物らしい。


「もしこれが本当にクリスタルの結晶体だったとしたらこの大きさだ、滅多にないサイズだからかなりの金額になるぞ」


 レミーの説明が終わってからワッツがそう言ってから2人を見て


「アイテムボックスと交換できるくらいの価値はあるだろう」

 

 その言葉を聞いてびっくりする2人。

 これが本物ならなと言ってからギルドには見せたのか?とワッツが聞いてきた。


「ダンとも相談したんだがこれを見せるとどこで見つけたか聞かれる。すると隠し部屋のことも言わなければならなくなる。ということでギルドには隠し部屋で出たアイテムについては鑑定を依頼していないんだ」


「悪くない判断だ。ギルドにはボス戦で出たアイテムを出している。隠し部屋をギルドに言うか言わないかは冒険者のオプションだからな。変な言い方になるがそこまでギルドに義理立てする必要もない」


 隣でレミーもそうそう何でも全部ギルドに言う必要はないものね。私たちも報告していなかったものと言い自分たちの判断が間違っていなかったとほっとするダンとデイブ。


「それでこれはどこで鑑定してもらうつもりなんだ?」


「レーゲンスで世話になってるアイテム屋の女店長が鑑定スキル、それも相当高いスキルを持っているんだ。だからレーゲンスに行った時に他のアイテムと一緒に彼女に鑑定してもらうつもりだ」


「戻ってきた時で良いからその結晶体が何だったか教えてくれるか」


「わかった」


 2人が礼を言って店を出て言ったあと、ワッツがレミーを見て言った。


「あれが本当にクリスタルの結晶体だとしたら取り合いになるくらいの物だぞ」


「ええ。十分にアイテムボックスと交換する価値はあるわね」

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