第75話

  翌朝2人は宿を出ると通りを歩いてギルドに顔を出して外を巡回してくると受付に言うとそのまま城門から外に出た。城門を出て左手に歩くと湖畔になるので右に向かって城壁に沿ってゆっくりと歩いていく。


 山裾に作られた街なので緩やかな斜面を上りながら周囲を警戒するが魔獣の気配は感じられない。森の中に入っていっても鳥の囀りが聞こえてくるだけだ。


「魔獣の気配がないな」


 デイブが周囲を見ながら斜面を登っていく。隣を歩くダンもその言葉に頷きながら山の斜面を登っていった。暫く登ると城壁が右に折れている。それに沿って山裾を横切る様にして歩いていく2人。


 山裾を歩きはじめて暫くすると2人同時に立ち止まった。そうして2人同時に顔を山の上の方に向けた。


「いるな」


「ああ。それも複数」


 彼らの視線の先には山に生えている木々が見えている。そうしてその木々の間を上様に山の上に上がっていくと


「なるほど。これが原因だ」


「これがいるから魔獣はこっちの山には来ないんだな」


 2人の視線の先には木々が周囲よりも固まっているのが見えている。


「トレント、単体だとランクAクラスだが複数体固まっているとランクSかそれ以上になる魔獣だ」


 トレントの群れに顔を向けながらデイブが言った。2人からトレントまではまだ距離があるからトレントは完全に森の木に擬態している。2人は気配でトレントの存在を感知していた。


「他にもいるかもな」


 デイブが言って歩き出した。後に続くダン。

 そうして城壁に沿って山の中を歩いていった2人は最終的にトレントの群れを5つ、森の中に確認してレイクフォレストの街人戻ってきた。


 ギルド分署に顔を出すとギルマス代理のケニーに面会を求めた。


「なるほど。街の奥の山の中にトレントの群れが複数生息していて、それが原因で他の魔獣が山にいないということか」


「知ってる通りトレントは単体じゃランクAクラスだが複数体いるとランクSクラスになる魔獣だ。それらが出している気配が山の数カ所にある。おそらく他の魔獣はその気配を察知して本能的に避けているんだろう。湖の向かい側に魔獣がいるってことは逆に言えば向こう側にはトレントの様な高ランクの魔獣が生息していないってことになる」


 デイブが説明を終えると思案顔になるケニー。2人の話を聞いてすぐに状況を理解した彼は暫く難しい顔をしていたと思うと確認する様にゆっくりと話だした。


「下手に討伐すると裏にある山に魔獣が移動してくるな。そしてそいつらは城壁の周りをうろうろする」


 頷く2人。


「トレントはレベルは高いが移動はしない」


「その通りだ」


「この件はここにいる3人だけにしてくれ。俺はリッチモンドのギルマスに手紙を書く。状況を説明した上であえて何もしないとな」


「それがいいだろう」

 

 デイブが言うとダンも住民を無闇に刺激することもないしなと言ってから


「この街にはリッチモンドから交代で冒険者が詰めていると聞いている。できればここに詰める冒険者のランクをAに限定し、常時2組以上が詰める様にしたら良いだろう」


 ダンの提案に顔をそちらにむけたケニー。


「いい提案だ。今まではリッチモンドとの馬車の護衛でついてきた冒険者が一時的に詰めているだけだった。冒険者のランクの縛りもなかったしな。今後は護衛とは別にクエストとしてこの街にいる様に提言しよう。トレントが増える可能性もあるからな。巡回させて様子を見ることにする」


 そう言ってから


「それにしてもよく見つけてくれた。二人組でノワール・ルージュと言われて半端なく強いとは聞いていたが流石だな」


 報告を聞きながらケニーは感心していた。ギルドのレポート通りだったからだ。トレントは木に擬態していて敵は近づいてもトレントに気が付かないと言われている。そのトレントの気配を遠目に感じ取ってこの街の裏、山の様子を探ってきている。これが普通の冒険者だったらトレントに気がつかないか、あるいは気がついた時にはトレントに囲まれていて悲惨な目にあっただろう。


「2、3日はここにいるんだろう?」


「その予定だ」


「レイクフォレストの街を楽しんでくれよ。それで帰る時にギルドに顔を出してくれ、その時に手紙を渡す」


 それから2日間、2人はこの観光都市でのんびりと休養をとった。城壁の中の市内には至る所に公園があり緑や水が多い。そして湖に面している場所では水浴びをする人やボートにのって遊覧する人などがいる。


 この大陸の中にある別世界の様な場所を堪能した2人は3日目の朝に旅立ちの用意をしてからギルド分署に顔を出した。


「どうだい?レイクフォレストの街を楽しんでくれたかい?」


 ギルマス代理のケニーが話かけてきた。


「ここにいたら街の外に出たくなくなるな。長閑で良い場所だ」


「ここに来た人は皆そう言う。そしてまた来てくれて街が潤う」


 そう言ってから手紙をデイブに託した。


「リッチモンドのギルマスのウィンストンに渡せば良いんだな?」


「そうだ。ところで帰りは護衛して帰るのか?」


「いや、気ままに帰ろうってことでこのまま2人で街の外に出てリッチモンドを目指すよ」


 ギルマス代理と話しを終えた2人はそのまままるで散歩でもする様に城門から外にでると荒野を一路リッチモンドを目指して歩きだした。


 途中で野営をしている時にデイブが、


「俺達はやっぱりこうして自由気ままに移動してるのが性に合ってる。そう思わないか?」


「その通り。歩くペースも自由だし気になったら街道から外れて探索するのも自由。冒険者はこうでなくっちゃな」


 ダンもデイブの言葉に頷きながら言った。レイクフォレストからリッチモンドへや帰路も4泊したが結局魔獣とは1度だけ遭遇しただけで2人は5日目の昼過ぎにリッチモンドに戻ってきた。


 そしてその足でギルドに顔を出すとギルマスのウィンストンに面談を求めた。

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