第76話

 「なるほど。それにしてもよくやってくれた」


 レイクフォレストのギルマス代理であるケニーの手紙をデイブから受け取ったウィンストンはその場で開封して読み終えるとそう言って顔を上げた。


「それでお前さん達の見立てだと当分は大丈夫ってことでいいのか?」


「トレントが生息していた場所は城壁から山を登った中腹あたりだった。多分大丈夫だろう。心配なら城壁のそばの木々を切り倒しておいて空間を作っておいたらいい。そして定期的に巡回させて様子を見ればいいだろう。トレントならならすぐに街に襲って来るってことはないからな。こちらも準備する時間はたっぷりとある」


 デイブはリッチモンドに戻りながらダンと話をしていた今後の対応策についてギルマスに説明をした。話を聞いていたギルマスのウィンストンは大きく頷くと、


「その対応にしよう。こちらからレイクフォレストの分署には指示を出しておく。そしてこのケニーのレターにある様にレイクフォレストでの駐在、巡回をクエストとしてこの街のランクAの冒険者に言おう」


 そうして報告が終わったあとでデイブが言った。


「そろそろこの街を出てヴェルスに戻ろうかと思ってる」


「そうか。この街自体に結構長くいたしな。それに手伝いでテーブルマウンテンやレイクフォレストも行ってもらった。1年程になるのか」


「それくらいだろう。いい街だったしいい経験になったよ」


 これはダンが答えた。


 この2人がリッチモンドにいなかったらどうなっていたのか。ウィンストンは目の前の2人の能力の高さに改めて感心していた。


 当人には言っていないがこの2人はポイントとしてランクSの基準をクリアしている。おそらくヴェルスに戻ったらランクSに昇格するだろう。ランクSへの昇格はポイントはもちろんだが本当の実力も必要で、ギルドでは持っているポイントをどうやって貯めたかギルドカードから分析する。


 護衛クエストだけでポイントを貯めてきた冒険者がランクSに昇格することはない。もっともランクAからSへの必要ポイントはそれまでとは桁違いに多く、ちまちまと護衛クエストをこなしている程度ならまずたまらない。


 ダンとデイブの様に格上を倒しまくることが必要になってくるのだ。この2人はランクSどころかランクSSクラスを倒しまくっている。しかも複数体相手だ。


 冒険者は知らないがギルドの評価においては格上との対戦経験はポイントが高く、それが2段階上の格上となると一度の戦闘で冒険者が得られるポイントが跳ね上がる。2人はダンジョンでランクSSのフロアに滞在しては自分達の腕前をあげる鍛錬をずっとしてきているのでハードルが高いランクSへの昇格に必要なポイントも十分に溜まっていた。


 格上と好んで戦闘しているのはこいつらくらいだろう。他の冒険者ならまず無理だ。


「一応街を出る時は声をかけてくれ」


 ギルドを出ると酒場にこの街所属の冒険者達が固まっていた。夕刻だったということもあり酒場には結構な数の冒険者がいて彼らは2人を見ると声をかけて来る。その中にはこの街のランクAのケーシーらのパーティメンバーもいた。


「レイクフォレスト行ってたんだろう?しっかりと休養できたかい?」


「まぁね」


 そう言って勧められたテーブルに座った2人。ノワール・ルージュの2人が座ると周囲に冒険者達が集まってきた。


 最初はレイクフォレストの街の様子を皆でわいわいと和やかな雰囲気で話しをしていたがデイブがレイクフォレスト周辺の状況について説明を始めると彼らの表情が一変する。


「レイクフォレストの周辺に魔獣が生息していないと言われていた理由はそれか」


 デイブの話を聞き終えたケーシーが言った。


「実際には生息していたんだがそれが動かない魔獣だったってことだな」


「それでどうするって言ってた?」


 スピースが顔をギルド受付の奥に向けて言った。


「これはレイクフォレストのギルドでも話しをしたんだが。今後はこの街のランクAの連中、あんたらみたいな連中を常時あの街に詰めさせて定期的に街の周囲を巡回することになると思う」


「なるほど。この街のランクAを交代でレイクフォレストに詰めさせて周囲を警戒するってことか」


 スピースの言葉に頷くダンとデイブ。


「今までは護衛であの街に行って数日滞在して戻ってくるというパターンだったんだろう。今後は護衛がメインじゃなく巡回メインになると思うし、そうした方がいいだろうと俺達もアドバイスをした」


 デイブが言うと頷く周囲の冒険者。


「トレントは単体ではランクAだけど固まるとランクが上がると言われている。ただ今の話を聞く限りだと街の近くじゃないらしいし移動はできない。ランクAのパーティが城壁に沿って巡回して異常を見つけても十分に対処できる時間はあるな」


 そう言うことだとデイブが言った。

 そうして話がひと段落したあとでデイブが


「そろそろラウンロイド経由でヴェルスに戻ろうかと思ってる」


「どれくらいこの街にいた?」


「ラウンロイドも合わせると1年以上になるな」


「そうか。寂しくなるな。でもまた来るんだろう?」


「多分な。そっちもヴェルスに来てくれよ」


 そんなやりとりをしてその後酒場で飲んだ2人は夜遅くに宿に戻っていった。

 そしてそれから2日後、2人はギルマスにこれからヴェルスに戻ると伝える。


「色々と世話になったな」


「世話になったのはこっちだよ。ダンジョンでもテーブルマウンテンでもいい経験をさせてもらった」


 ウィンストンの言葉にデイブが答えた。


「この街で鍛錬をしてまた少し自信がついたよ」


 ダンも言う。


「そう言ってもらえるとこっちとしても嬉しいな。お前さん達は正直ランクAじゃなくて実質ランクSの実力があるだろう。ランクSS相手に鍛錬する奴なんて初めて見た。この街の経験を生かしてもっと成長してくれよ」


 ギルマスの言葉に礼を言った2人は最後に受付嬢に挨拶をすると長期に渡って逗留していたリッチモンドを後にして自分たちのホームタウンであるヴェルスの街に向かっていった。

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